第73話 やっぱりラーメン大好きだよね?

 そのままリリィは俺のスマホを拾い上げた……やっ、やっべぇ!! この画面を見られたら、どう頑張っても誤魔化しようが無いぞ……!? ど、どうしよう、ここは何も見なかったことにしてもらうしか……!


「……んっ? これ誰だー?」


「えっ……?」


 俺は一瞬、リリィの言葉に固まってしまったが……すぐに察した。そうだ、リリィはのことは知ってるけど、のことは知らない! コラボも何回かやったけど、あれはオンライン上での配信……VTuberの姿でしか会ってないんだ!


 そのことを瞬時に理解した俺は立ち上がり……土下座して黙ってもらう作戦から、誤魔化していく作戦へと切り替えていったんだ。


「えっと、それはな……」


「もしかしてルイの恋人か?」


「ま、まさかぁ……俺の推しアイドルだよ」


 異性の写真をロック画面にしてるのがバレた状況で、一番キモくないであろう言い訳を何とか捻り出した。それを聞いたリリィはちょっと意外そうに。


「へー。ルイ、アイドルとか好きだったのか?」


「……まぁな?」


「そっかー。にしてもこれ、距離が近くないか? 自撮りでもないし……まるで眼の前で撮ったみたいだぞ? どうなってるんだ?」

 

 こういう無駄な所で鋭いよな、リリィのヤツ……でも、彩花がアイドルであると仮定した状態なら、言い訳は幾つも出てくる訳で。


「えっとほら、つぶやいたーで上げてたからさ……知らないのか? 『〇〇とデートなうに使っていいよ』のハッシュダグ。VTuberでも使ってる人いるんだぞ?」


「ふーん……そういうのもあるのかぁ」


 リリィはそうとだけ言って、これ以上の追求はしてこなかった。ああ……良かったー、つぶやいたーのバズりネタを勉強してて……でもアレが流行ったのって何年前だっけ。結構古のネタだと思うけどな……。


「それでルイ、今日は一人で来たのか?」


「ん? そうだけど……どうして?」


「暇な人なら誰でも、途中で来てもいいってチャットで言ったからさ、ルイが誰か連れてくるんじゃないかって勝手に思ってたんだ!」


「あ、そうなのか……ごめんな? 俺だけで」 


 俺が軽く謝罪すると、リリィは大きく首を横に振って。


「ううん、良いんだ! まだ他にも来るかもしれないから……でも半分以上はライブだし、大晦日だからあんまり期待は出来ないかもだけどな!」


「なるほど……」


 『じゃあレイでも誘ってみるか?』と、続けて言おうとした口を慌てて閉じた。そうだよ、ここで彩花が来てしまったら絶対おかしなことになっちゃうよ! 


「……あ、でもなな姉とかは来るかもだ!」


「ななねぇ?」


 新しい名前を聞いた俺は反復する……そしたらリリィは解説してくれて。


「そう、なな姉! 猫屋七海ねこやななみのことだ! なな姉はちょっとクールというかミステリアスな人なんだけど、とっても面白いんだぞ! 特に喋りが面白くて、深夜ラジオ配信がとっても人気なんだ!」


「へぇー……」


 それはまた他のライバーとは違ったキャラだな。やはりVTuberは、何か尖った一芸を持っていると強いんだろうか……?


「ふふっ、なんだか私の噂話が聞こえてきたね?」


「えっ?」「あっ、なな姉!」


 突如聞こえてきた声の方に振り向くと、いつの間にか会議室の扉は開いていて……そこにはミディアムヘアのくせ毛美少女が立っていたんだ。服装は少し地味なグレーのパーカーを羽織っていたが、小顔でスタイルの良い彼女にはそれが似合っていた。


 そして彼女は俺らに近づき、片手を上げて挨拶をしてくれて。


「どうも、リリちゃんと……少年」


「あ、初めまして。自分ルイって言います」


 俺が軽く自己紹介をすると、なな姉こと七海さんはコクコクと頷いて。


「うんうん、君のことは知ってるよ……確かラーメンとレイちゃんを愛してやまない子だよね?」


「すんごい誤解してますね」


 ──


「……じゃあ改めて。私は猫屋七海、一応キャラクター的には女子探偵ってことになってるよ」


「へー探偵ですか。似合っててカッコいいですね!」


「ふふ、ありがと。ま、事件なんか解決したこと無いんだけどね?」


「ははっ、それを言ったら俺なんて魔道士ですよ?」


「そっか、レイちゃんと同じ学園なんだっけ。羨ましいな」


 そう言って七海さんはクスッとはにかんでみせた……何だろう、確かにリリィの言う通りクールな人ではあるが、いぶっきーともちょっと違った感じなんだよな。言うならばそう……女の子にモテる女の子って感じだろうか?


 そして彼女は椅子に座り、頬杖をつきながら俺らの方を見てきて。


「それでルイ君。聞きたいことがあるんだけど……レイちゃんとどんな感じなの?」


「なっ、えっ、視聴者みたいなこと聞かないでくださいよ……?」


「ふふっ、良いじゃん。だって気になっちゃうんだもん。私、ルイ民なんだし」


「……え、ええっ!?」


 俺は驚きで顎が外れそうになる……嘘ぉ……!? こんな美人な人が「○んちん」だの「ルイのおぱんちゅ」だのクソコメントが飛び交う、あんな品性下劣な配信を見てくれてるってのか!? ちょっと、にわかには信じられないんだが……。


「ま、マジですか?」


「うん。時々コメントもしてるよ。もちろん七海のアカウントでやったらコメントの雰囲気も変わっちゃうから、サブ垢使ってだけどね?」


「そんな配慮まで……!?」


 大丈夫か……七海さんのコメント拾って、無下に扱ったりしてないよな、俺……?


「やっぱりありのままの配信を楽しみたいからね。邪魔はしたくないからさ」


「そうですか……でも七海さんが来て、キョドりまくるコメ欄も見てみたいかも」


「ふふっ、面白そう。じゃあ今度やってみようかな……」


 言いながら七海さんは自分の鞄を開いて、円筒系の箱に入ったポテトチップスを数個、机の上に置いた。そして少し退屈そうなリリィに向かって。


「はい、リリちゃん。今日は長くなると思ったから、沢山お菓子買ってきたよ。好きな時に食べてね?」


「わーっ、良いのか!? ありがとう、なな姉!」


「ふふっ、ホントにリリは可愛いね。妹にしたいよ」


  ……そんなてぇてぇ二人を、俺はにっこり細目で眺める。なんだか姉妹みたいだな……ってああ、そうだ。俺も食べ物を持ってきてたの忘れてたよ。


「あっ、食べ物と言えば自分も持ってきましたよ。年越しそばならぬ年越しラーメン……なーんつって……」


 そう言った俺はレジ袋からとんこつや味噌、醤油などのカップラーメンをテーブルの上に並べていった……それらを見た七海さんは、今日一番の真顔で。


「……ルイ君。やっぱりラーメン大好きだよね?」


「いや、そんなことは無いっすね」


「……じゃあ、カップラーメンに入ってる謎肉。あれって何か知ってる?」


「ダイスミンチのことですか? 最近、特設サイトで詳細が公開されてましたね……まぁ、大方予想は付いてましたけど」


「やっぱりラーメン大好きだよね?」


「そんなことは無いっすね」

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