第11話 この子が俺の同期らしいです

 えっ? 誰だこの少女は……と俺が困惑していると、塩沢さんは彼女に手を向けて。俺に紹介してくれたんだ。


「おお、丁度いいところに来たね! この子が夕凪リリィの中の人だよ」


「えっ、よーじろー!? そんな大事なこと、知らない人に喋っていいのか!?」


 少女は俺のことを指さして言う……そしたら塩沢さんは優しく諭すように。


「大丈夫だよ、この人が類くんだからね」


「るい……?」


 それを聞いた少女はもう一度、じっくりと俺の方を見る……そして何かを思い出したのか「ああー!!」と大きな声を上げるのだった。そして彼女は続けて。


「そうだったのかっ! あたし、レイとやってた配信見てたぞ! すっごい面白かった! 腹が引きちぎれてもう爆発するくらい笑ったぞ!」


「そ、それはどうも……」


 なんだかこの子は独特の感性を持ってるな……爆発するくらい笑うって言う?


「それでリリィちゃんはどうして来たの? 今日は特に打ち合わせも何も無かったはずだけど……」


「ああ、それはだな! 今日は何でも物をぶっ壊せる店に行ってきたんだ! それで、この近くに事務所あったのを思い出して、遊びに来たんだよ!」


 ええ……よく遊びに来れるな……? だってまだ一回も配信やっていない、俺と同じ新人さんなんでしょ……? どんだけ度胸あんのよ……そんな困惑してる俺をよそに、塩沢さんは彼女を褒めて。


「おお、もう体験レポのネタを溜めてるんだね! 感心だよ!」


「レポ? いや、ただ遊びに行っただけだけど?」


「え、一人で?」


「ああ! だって複数人で行ったら、壊せる物が減るじゃないか!」


「……」「……」


 ……これは相当ぶっ飛んでるな。さっき塩沢さんが言っていた「期待してて」の意味が、少しだけ分かった気がするよ。


「……うん。それじゃあ、せっかく新人の二人が揃ったみたいだし。ここで初配信の話でもしておこうか!」


「えっと塩沢さん、初配信って……どんなことすればいいんですか?」


 俺は塩沢さんにそう尋ねた。おそらく内容は自分で考えるべきなんだろうけど……あいにく俺はVTuberの知識が全く無いんだ。だからそれぐらい聞いても、きっとバチは当たらないだろう。そしたら塩沢さんはのほほーんと。


「まぁ自己紹介だねー。初期の頃はみんな簡単な数分の動画でやってたけど、今は気合入れて一時間くらい配信してる人が多いかな。君たちにも配信をやってもらうつもりでいるよー」


「一時間って、そんなにですか……?」


 ゲーム配信とかならまだしも、喋りだけで一時間も持つとは思えないんだけど……大丈夫だろうか……?


「まぁ思いつかなかったら予め質問とか用意してもいいし、気楽にやって大丈夫だよ。でも初配信でこれから追いかけるか決める人もいるから……気合を入れるに越したことはないと思うけどね?」


「そうですか……分かりました」


 俺が言うと、リリィは割り込むように手を上げて。


「あ、はいはい! あたし初配信で歌ってみたい!」


「おお、それは面白いね。動画でも流すの?」


「いや、もちろん生で歌うよ! じゃないとみんなの心を掴めないもん!」


 何だそのロックンロールは……まぁこれくらいこだわりがあった方が、視聴者も喜ぶんだろうか……? いや、全然分かんないけどさ。


「それは構わないけど、音源とかも用意する必要があるよ? 間に合う?」


「……じゃあアカペラでいくぞ!」


 たくましいなこいつ。そのポジティブさ、少しくらい俺に分けて欲しいよ。


「あははっ。それで……類くんにも『つぶやいたー』と『YooTube』のアカウントを渡しておくよ。基本的に運用は君たちに任せてるけど、発言には気を付けてね。まぁ、詳しいことは資料を確認すれば分かるはずだよ」


「あ、はい、分かりました」


 そこで俺は置かれた資料に眼を通していったんだ……そんな中。


「なぁなぁ、それで初配信ってどっちからやるんだ? 同じ日にやるんだろ?」


「ああ、それは二人で決めてもらっていいよ。今日の夜にスカサン公式つぶやいたーで、新ライバーの情報と配信日を告知するつもりだから……じゃ、今決めようか?」


「だったらあたし先にやりたいぞ!」


 またリリィは手を上げてそう言う……そして塩沢さんの目は、俺に向けられるのだった。ああ、これは俺に委ねられてるってことだろうか……?


「いや、別にいいけど……どうして先にやりたいんだ? 緊張しないの?」


「全然しない! あたしが先にやりたい理由はただひとつ! ルイの配信をゆっくり見たいからだっ!」


「あ、そうっすか……」


 そんな理由かい……まぁでも。ぶっ飛んだ夕凪リリィが先に配信をやってくれれば、視聴者も盛り上がって。良い雰囲気で、俺の配信にも流れて来てくれるかもしれない。だから……先にやらせるのは大いにアリだと思うんだ。


「じゃあ類くんがその後ってことでいいかな?」


「はい、大丈夫です」


「ふふールイー、楽しみだなー?」


 ……それから俺は規約など、塩沢さんから色々と詳しい説明を受けて(おそらく前日に聞いたであろうリリィも、なぜか真剣に聞いてた)配信の方法やマネージャーのことなど、VTuberやる上で最低限のことを教えてもらったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る