【Web版】幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった
道野クローバー
1章
第1話 幼馴染がVTuberになっていた
──数年ぶりに幼馴染の部屋に上がった俺、
「ねぇねぇ、どう? 可愛いでしょー? 類!」
自慢げに色々と見せびらかしてくるこいつは、この部屋の持ち主である
でも俺のオタク趣味や捻くれた性格をよく理解してくれる彼女は、数少ない友人の一人だった。だから昔は毎日遊ぶほど仲が良かったのだが……中学を卒業した辺りからは、たまにやり取りする程度で終わっていたんだ。
だからこうやって顔を合わせて遊ぶのは、かなり久しぶりのことなんだけど……ツッコミどころが多すぎて、何から話せばいいか分からないな。
「いや、彩花。何だこれ、マイクとかあるし……実況者にでもなったのか?」
「ふふ、ちょっと違うよ類! 私はVTuberになったんだ!」
「VTuber?」
VTuberって、話には聞いたことあるけれど……そこまで詳しくは知らないんだよな。でも大きなライブをやったりだとか、スパチャの額が話題になったりするのは、たまに耳に入ってくるんだけど。
「VTuberってそんな簡単になれるものなのか?」
「うん、私の場合はオーディションで採用されたんだ! だから立ち絵とか、そこらへんは運営さんが用意してくれたんだよ!」
「いつの間にそんなことを……ってまさか」
改めて俺は、壁に貼られている美少女キャラクターのポスターに視線を向ける。すると彩花は満足そうに大きく頷いて。
「そう! 私はこの『レイ・アズリル』ってキャラの中の人をやってるんだ!」
「あははっ! マジか! 全然似てないのに!」
「そっ、それは当たり前でしょ!? VTuberなんだからさ!」
彩花は恥ずかしいのか怒ってるのか分からないが、顔を赤くしながら俺に言ってきた。確かにそれは分かるんだけど、このキャラクターと彩花の等身とか、髪の色とかが違いすぎて面白かったんだよな。まぁ何にでもなりたいようになれるのが、VTuberの良さなんだろうけどさ。
「そんなことより類、ゲームしようよ! そのために類を誘ったんだからさ!」
「おーいいじゃん。やっぱゲームってオンラインより、隣でやる方が面白いもんな」
「でしょでしょ? じゃあ準備するから、ちょっと待っててね!」
そう言って彩花はモニター前のピンク色のゲーミングチェアに座り、カチッとパソコンを起動させたんだ……ん? PCゲーでもやるつもりなのか? いや……まさかこいつ……?
「お前、配信する気か?」
「……ダメ?」
「駄目に決まってんだろ。俺は配信しに来たわけじゃないんだ」
俺は単に彩花と遊ぶためにここへ来たのであって、レイなんたらと遊びに来たわけじゃないんだ。そもそもVTuberやってることなんて、今日初めて知ったし……。
「いや、お願いだよ類! 面白い友達連れて配信するって、昨日視聴者に言っちゃったんだ!」
「まーたそんな勝手なことを……そもそも何で俺なんだよ。VTuberなら他のVTuberとやればよかっただろ?」
「だって、放送で類のこと喋っちゃったんだもん! めーっちゃ強いゲーマーの友達がいるんだって自慢しちゃったんだもん!」
「はぁ、マジか……」
……忘れてたけど、こいつはそういうヤツだったな。俺のゲームの腕を認めてくれて、目を輝かせて称賛してくれる純粋なヤツ。だから褒められ慣れてない俺はそれが気持ちよくて、こっそり裏技とか練習して彩花に見せてたんだよな……。
「だから頼むよ、類ぃー! 実はもう予約枠も取ってるんだよー!」
「そこまでしてたのかよ……ちょっとチャンネル見せてみろ」
「あ、うん! いいよ!」
俺は彩花の後ろに立って、モニター画面を覗いた。動画サイト『YooTube』のトップ画面からその『レイ・アズリル』チャンネルまで飛び、そこに表示されていたチャンネル登録者数が……。
「40.3万人……!? そ、そんなに人気だったのかお前!?」
「まぁね! でも、事務所の力もかなり大きいけどさー」
「にしてもこの数字はすげぇよ……というか事務所って?」
「ああー。類が知ってるか分からないけど『スカイサンライバー』って事務所で……」
「え、聞いたことあるぞ!?」
VTuberに疎い俺でも聞いたことのある事務所だ。確かVTuber事務所にしては珍しく、男女のライバーが所属しており、そのライバー数は100人を超えるという……多分一番有名な所じゃないだろうか。そんなとこに彩花が入っていたなんてな。
そして彩花は配信のページを見せてくる。
「ほら見て見て! もう500人も待機しているよ!」
「ええ……」
まだ放送は始まっていないというのに、コメント欄は絶え間なく流れ続けていたんだ。それで気になるのが……。
「何この『レイ待機👻』って。みんな打ってて怖いんだけど」
「ああ、それは私がレイって名前だからさ、みんなが待機中のコメントを考えてくれたんだ!」
「何だそりゃ……」
やっぱりVTuber界隈のことはよく分からないや……。
「それで……あと数分で予約してた、開始時間になるからさ! お願いだよ、類! 私と一緒にゲーム配信してくれない?」
そして改めて彩花は手を合わせ、俺に頼んできた。まぁ……こんなにも多くの視聴者は期待してるみたいだし、彩花も俺を信用してVTuberのこと教えてくれたみたいだからな。ここで断るのも、ちょっと気が引ける。だからまぁ……少しだけなら協力してやってもいいのかなぁ。
「……分かったよ。本当に一回だけだからな?」
「ホント……!? ありがとう類ー!! やっぱり持つべきものは幼馴染だねー!」
「はいはい」
そして俺は予め彩花の隣に用意されていた丸椅子に座って、配信の用意をしている彩花を眺めていたんだ。まぁ、配信って言っても普通に遊ぶだけでいいだろ。それにどうせ一回だけなんだから、別に失敗しても大丈夫だ…………ってこのときの俺は、そこまで深く考えていなかったんだ。
もちろん自分がVTuberになるなんてことは、想像すらしていなかったんだ。
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