【Web版】幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった

道野クローバー

1章 

第1話 幼馴染がVTuberになっていた

 ──数年ぶりに幼馴染の部屋に上がった俺、宮坂類みやさかるいは酷く驚いていた。壁には魔術師のような格好をした青髪タレ目の美少女キャラのポスターがあちこちに貼られており、何台も並んだモニターの前には高そうなスタンドマイクが置かれてあったからだ。


「ねぇねぇ、どう? 可愛いでしょー? 類!」


 自慢げに色々と見せびらかしてくるこいつは、この部屋の持ち主である羽石彩花はねいしあやかだ。彩花は俺の幼馴染で、大きなブラウンの瞳と赤みがかったボブヘアが特徴的な、少し子供っぽくて頼りない少女である。


 でも俺のオタク趣味や捻くれた性格をよく理解してくれる彼女は、数少ない友人の一人だった。だから昔は毎日遊ぶほど仲が良かったのだが……中学を卒業した辺りからは、たまにやり取りする程度で終わっていたんだ。


 だからこうやって顔を合わせて遊ぶのは、かなり久しぶりのことなんだけど……ツッコミどころが多すぎて、何から話せばいいか分からないな。


「いや、彩花。何だこれ、マイクとかあるし……実況者にでもなったのか?」


「ふふ、ちょっと違うよ類! 私はVTuberになったんだ!」


「VTuber?」


 VTuberって、話には聞いたことあるけれど……そこまで詳しくは知らないんだよな。でも大きなライブをやったりだとか、スパチャの額が話題になったりするのは、たまに耳に入ってくるんだけど。


「VTuberってそんな簡単になれるものなのか?」


「うん、私の場合はオーディションで採用されたんだ! だから立ち絵とか、そこらへんは運営さんが用意してくれたんだよ!」


「いつの間にそんなことを……ってまさか」


 改めて俺は、壁に貼られている美少女キャラクターのポスターに視線を向ける。すると彩花は満足そうに大きく頷いて。


「そう! 私はこの『レイ・アズリル』ってキャラの中の人をやってるんだ!」


「あははっ! マジか! 全然似てないのに!」


「そっ、それは当たり前でしょ!? VTuberなんだからさ!」


 彩花は恥ずかしいのか怒ってるのか分からないが、顔を赤くしながら俺に言ってきた。確かにそれは分かるんだけど、このキャラクターと彩花の等身とか、髪の色とかが違いすぎて面白かったんだよな。まぁ何にでもなりたいようになれるのが、VTuberの良さなんだろうけどさ。


「そんなことより類、ゲームしようよ! そのために類を誘ったんだからさ!」


「おーいいじゃん。やっぱゲームってオンラインより、隣でやる方が面白いもんな」


「でしょでしょ? じゃあ準備するから、ちょっと待っててね!」


 そう言って彩花はモニター前のピンク色のゲーミングチェアに座り、カチッとパソコンを起動させたんだ……ん? PCゲーでもやるつもりなのか? いや……まさかこいつ……?


「お前、配信する気か?」


「……ダメ?」


「駄目に決まってんだろ。俺は配信しに来たわけじゃないんだ」


 俺は単に彩花と遊ぶためにここへ来たのであって、レイなんたらと遊びに来たわけじゃないんだ。そもそもVTuberやってることなんて、今日初めて知ったし……。


「いや、お願いだよ類! 面白い友達連れて配信するって、昨日視聴者に言っちゃったんだ!」


「まーたそんな勝手なことを……そもそも何で俺なんだよ。VTuberなら他のVTuberとやればよかっただろ?」


「だって、放送で類のこと喋っちゃったんだもん! めーっちゃ強いゲーマーの友達がいるんだって自慢しちゃったんだもん!」


「はぁ、マジか……」


 ……忘れてたけど、こいつはそういうヤツだったな。俺のゲームの腕を認めてくれて、目を輝かせて称賛してくれる純粋なヤツ。だから褒められ慣れてない俺はそれが気持ちよくて、こっそり裏技とか練習して彩花に見せてたんだよな……。


「だから頼むよ、類ぃー! 実はもう予約枠も取ってるんだよー!」


「そこまでしてたのかよ……ちょっとチャンネル見せてみろ」


「あ、うん! いいよ!」


 俺は彩花の後ろに立って、モニター画面を覗いた。動画サイト『YooTube』のトップ画面からその『レイ・アズリル』チャンネルまで飛び、そこに表示されていたチャンネル登録者数が……。


「40.3万人……!? そ、そんなに人気だったのかお前!?」


「まぁね! でも、事務所の力もかなり大きいけどさー」


「にしてもこの数字はすげぇよ……というか事務所って?」


「ああー。類が知ってるか分からないけど『スカイサンライバー』って事務所で……」


「え、聞いたことあるぞ!?」


 VTuberに疎い俺でも聞いたことのある事務所だ。確かVTuber事務所にしては珍しく、男女のライバーが所属しており、そのライバー数は100人を超えるという……多分一番有名な所じゃないだろうか。そんなとこに彩花が入っていたなんてな。


 そして彩花は配信のページを見せてくる。


「ほら見て見て! もう500人も待機しているよ!」


「ええ……」


 まだ放送は始まっていないというのに、コメント欄は絶え間なく流れ続けていたんだ。それで気になるのが……。


「何この『レイ待機👻』って。みんな打ってて怖いんだけど」


「ああ、それは私がレイって名前だからさ、みんなが待機中のコメントを考えてくれたんだ!」


「何だそりゃ……」


 やっぱりVTuber界隈のことはよく分からないや……。


「それで……あと数分で予約してた、開始時間になるからさ! お願いだよ、類! 私と一緒にゲーム配信してくれない?」


 そして改めて彩花は手を合わせ、俺に頼んできた。まぁ……こんなにも多くの視聴者は期待してるみたいだし、彩花も俺を信用してVTuberのこと教えてくれたみたいだからな。ここで断るのも、ちょっと気が引ける。だからまぁ……少しだけなら協力してやってもいいのかなぁ。


「……分かったよ。本当に一回だけだからな?」


「ホント……!? ありがとう類ー!! やっぱり持つべきものは幼馴染だねー!」


「はいはい」


 そして俺は予め彩花の隣に用意されていた丸椅子に座って、配信の用意をしている彩花を眺めていたんだ。まぁ、配信って言っても普通に遊ぶだけでいいだろ。それにどうせ一回だけなんだから、別に失敗しても大丈夫だ…………ってこのときの俺は、そこまで深く考えていなかったんだ。


 もちろん自分がVTuberになるなんてことは、想像すらしていなかったんだ。





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