13-攻勢



「雷斗さーん、先にやっちゃってるんですね!」

「雷斗さん、やっちゃってください!」


「うるせーよ、お前らが適当やってるから俺が尻拭いすることになってんだろーが!」



轟剛力雷斗が名乗った後、程なくして昼間に俺を呼び出した奴らも集まってきた。

取り巻きたちがリーダーを立てるように、轟剛力雷斗の後ろに陣取る。

くそ、憎たらしい奴らだ。


轟剛力雷斗は取り巻きがやってきたことに対しての対応もそこそこに俺の方に向き直った。


「俺しばらく本気出してやったことないからさー。本気出させてくれると嬉しいんだけど」


それを言い終わるのと同時に轟剛力が仕掛けてくる。


身体能力強化の能力だと思いながら見れば、轟剛力の動きは素人の動きが速くなって強力になったと思えなくもなかった。

だから、轟剛力の動きを見れば、何とか反応はでき、既(すんで)のところで避けることが出来た。集中力がとんでもなく消費される。これが続くのはキツい……。


俺が避けた後にその勢いのまま、轟剛力は俺から距離を取る。


「あっれぇ?避けるじゃん」

ゆっくりと体勢を立て直した後に余裕を持って言う。


避けるのは当然だ。あの勢いの動きが当たるのはまずい。奴の攻撃が本当てしたら、どうなるかわからない。


能力はやっぱり身体能力強化と見て、問題なさそうだ。こちらに向かってくる瞬間から俺に打撃を与えようとする瞬間に能力の発動を感じた。


しかし、今回は轟剛力が余裕ぶっこいているから避けることはできたが、こいつが避けた後にも直後に追撃をしてくるなら、対策を考えないといけない。


相手の攻撃を捌ければいいのだけど……。

捌いて掴むことができればそれで俺の勝ちだ。

だが、この勢い、捌くことすら難しいかもしれない。下手に触ったらそれで腕が逝ってしまう可能性すらある。それは轟剛力の加減次第だ。


身体能力強化能力者について、考えなければいけないことはいくつかある。

それは何を強化しているのか、ということについてだ。


一口に身体能力強化といっても、何を強化するのかが問題となる。

相手の破壊力なのか、持久力なのか、素早さなのか、身体の大きさなのか、それともそれら全てなのか。破壊力と素早さは表裏一体の部分でもあるが。

相手の能力が短時間しかもたない、というのであれば、長期戦に持ち込みたいところだが、そんな保証はない。

長期戦にしたらどちらかというと、単純に身体能力で劣る俺が不利になりそうだ。


本来、能力者と戦う場合は、前もって情報を集め、準備をして対応するのだが、今回は急に戦闘に入ったため、何の準備もできていない。


だから、狙うは短期戦。リスクを負うことは好ましくないが、長期戦になり俺の体力を消耗した後には逆転の芽がなくなってしまうだろう。

相手がまだ余裕ぶっこいて隙を晒している内に片付けるのが好ましい。


轟剛力が更に仕掛けてくる。


俺は構える。

全神経を集中させる。

そうすれば、対応できないわけでもないはずだ。


轟剛力の驚くべきところの一つはまずはその距離の詰め方だった。

お互いに届かない間合いから技術を使って距離を縮めるのとは違って、力技の素早さにより、一気に詰めてくる。物理法則が無視されている感覚を覚える。

その圧倒的な不自然さに抵抗を覚えながらも、集中していれば、予備動作がわかりやすいので、辛うじて反応して対応できそうではあったが。先ほども述べたがかなりキツい。

腕を振り被っているので、右腕で来る、などは分かりやすい攻撃ばかり来てくれればいいが。


仕掛けてきた轟剛力に対して俺は、そのまま捌く準備をしていたのだが、ここで更に轟剛力の驚くべき部分が発揮された。


「んー」


と、轟剛力は振りかぶった腕と同時に体重を移動させている途中で止まり、さっと後ろに後ずさる。


轟剛力は攻めてこなかった……!

この攻撃を控える動作でさえ、不自然な、物理法則を無視したような動きに見えた。


「お前、何で今回は避けないんだ?明らかにさっきと違うじゃん」


轟剛力は攻撃を途中で止めたことは何でもなかったかと言わんばかりの余裕さを持って俺に言った。


「自信満々に構えてるねー。受け止める気満々だ。何か策があるのかな?」


それに対して、俺は何も言わない。手の内を自ら明かしてどうする。言う訳がなかろう。


言うわけがなかろう、と相手に対する悪態を心の中で言うのはいいが、俺は轟剛力に感心していた。

こいつ。勘がよすぎる……。単なる脳筋というわけでもなさそうだ。

集中させた構えが、逆に轟剛力に違和感を与えてしまったようだ。


身体能力に大きな差があるので、それを覆すために相手の慢心を攻めるつもりだったのだが。驚異的な身体能力に加え、用心深さも兼ね備えているとなると、突破は難しい。

だが、今のやりとりで俺が能力者だと分かったわけではないだろう。

それさえバレなければ。

俺の勝利条件は、相手をつかむことだ。

それだけは看破されてはいけないことだ。

こいつの察しの良さから、それを理解される可能性は十分あるとはいえ。


基本的に戦いにおいて、俺は非戦闘系能力相手なら有利に戦えるが、戦闘系能力相手にはすこぶる不利だ。

轟剛力雷斗は俺にとって、とてつもなく相性が悪い相手だった。






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