12-油断



まともにダメージが入るとは思ってなかったせいで、まともな受け身などをとれていなかった。

かなり痛みを感じる。

これは、訓練で師匠にぶん殴られた時並みの痛さかもしれない。


だが、それは、慣れているレベルの痛みでもあるということだから、まだ耐えられるということでもある……か?


顔を上げると、やつは余裕の笑みを浮かべているのが見えた。


「あれ?これで終わりじゃないよね?」

こちらを見下している姿勢になっている。そして立ち上がろうとしている俺の様子を確認した後

「顔が死んでないね」

と口にした。

まだ俺のやる気があるね、ということだろう。



無論だ。これで終わるようなら俺を鍛えてくれている師匠に申し訳が立たない。


相手が追撃をしてこないところを見ると、こっちが構え直すまでは余裕ぶっこいてくれるだろうと思い、ゆっくりと立ち上がる。

この間に考えられることは考える。


相手の能力についてだ。

能力の発動に気づいたのは吹っ飛ばされている途中だった。吹っ飛ぶ前はわからなかった。


明らかに何らかの能力で吹っ飛ばした。でなければ俺が殴られて吹っ飛ぶはずはない。

何の能力か。

心当たりはある。

手がかりは俺の想像以上に速かったから、構えていたにも関わらず反応ができなかったというものだ。

戦いというのは反応の速度というよりも、相手の動きをどれだけ予測できるかの読みの能力の比重がかなり高い。

師匠が強いのもその読みの能力がとんでもなく高いからだ。


その読みにおいて、俺は全く外れていた。

相手を能力者だと思っていなかった。

これは大きな反省点だ。

能力の匂いがせずとも、俺に突っかかってくる奴らはみんな能力者だと思え。


心にそう刻もう。


俺が気づかない間に吹っ飛ばされたので、意識遮断系か、高速移動系の能力、あとは可能性は低いが空気を扱う能力者。

と言ったことも考えられるが、相手の動きとこのダメージのことを考えると、肉体強化系の能力者といったところか。

それなら素早く動き、俺にこれほどのダメージを与えたことにも説明がつく。


それに相手自身も痛がってない。

もし高速移動系の能力のみで俺にぶつかってきたとしたら、相手の方の腕や脚にもそれなりのダメージが通ってるはずだ。


相手の能力を肉体強化系だと仮定して考えよう。


俺が起き上がるまでの時間に思考を巡らせたが、相手は待っていた。


「そーだ。君、あいつらの名前覚えてたよね?なんかめっちゃ怒ってたよ。すかしやがってあの野郎!って」

「だからさ、俺の名前も覚えてもらおっかなーってさ。知ってる?俺の名前」

「轟剛力雷斗っつーの。よろしくね!」


ごうごうりきらいと。


やつは、これから友達になろうね!とでも言うかのような表情で明るく言ってのけた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る