DEATH PRINCESS

平石了

一章 復讐と相棒

序説 終わる世界、始まる世界

序説 終わる世界 始まる世界

 時に西暦二〇九五年。

 世界を震撼させるような技術がアメリカ人研究者、レナード・バーンズ主導の研究グループによって生み出された。

 それは希望、或いは恐怖からだったが、人はそれぞれにその技術に想いを馳せた。

 脳に直接知識などを植え付けるという、誰もが想像もしないような技術。


 ――『ブレインインストール』


 開発主任の名から取ってバーンズインストーラーと名付けられるこの技術の大成は最終的に知識を与えるという意味における教育作業の無意味化を含んでいた。

 しかし、とんでもない欠陥を抱えていた。脳に直接働きかけるシステム故、失敗すると脳細胞が確実に傷つくというものだった。

 さらに、成功率は五割と低確率でハイリスクハイリターンを体現したかのようなシステムだった。

 二〇九六年。国際連合UNはこの性質を利用して人口削減政策の導入を検討し始め、一年後には国連主導で『バーンズ条約』の条文が完成する。

 内容は全人類に心の発育が完了すると言われる満十八歳の子供に例外なくインストールを行う、というものだった。これで脳が傷ついた者は例外なく死に至るので、徐々に人口を減らせるというものだった。

 ある種の優生思想とも言えるこの条約は各国で物議を醸すが、人口爆発で急激に貧困化が進むアフリカや一人っ子政策などで人口問題に立ち向かった中華人民共和国、インド共和国もおずおずと調印、批准し始めた。これを機に東南アジアなど、人口問題に苦しめられる国が徐々に参加し始めたのである。

 国際連合人権理事会は、生存権などに反していないか精査を開始。無論違反していると判断され、時の国連事務総長である秋山聖奈に対してバーンズ条約の即時撤回を求めるも、アフリカ連合が『人が多くては守れる人権も守れない』という声明を即時に発表。バーンズ条約今後も有効という方針は変わらないことになった。

 これを受けて、バーンズインストーラーの批准国分の生産を開始。批准国は条約に沿った法律制定を、非批准国および非署名国は、国籍に関する法律改定に奔走することになる。

 しかし、反連合組織AUNによるアフリカや中東、東南アジアでのテロ行為が増加する。

 アメリカ合衆国大統領アメリア・ルーズベルトは国際司法裁判所にAUNの中心核とされる人物に対して国際指名手配を要請した。裁判所はこれを受けて即座に指名手配の手続きを完了させ、正式に逮捕状を請求した。

 しかしアメリアは逮捕する気は全く無く、聖奈にこの状態の責任を追求するという体をとって非公開の秘密組織である特殊作戦管理機関SOUの発足を促す。聖奈はこれを受諾し、彼女が信頼を寄せていた根岸夏樹にメンバーの招集と組織結成を主導させる。

 二一〇五年。ついに条約有効化の規定年がやってきてブレインインストールは順次開始されていくことになるが、運が悪いことに事件が発生する。

 アフリカか中央アジアか、はたまた東南アジアの諸地域か定かではないが、あまりの飢餓に隣人を殺し食すというとんでもない事件が発生した。それも同時多発的にである。民間人同士の相互不信という状態を作り出し、その結果人間じんかん戦争が発生する。

 バーンズ条約を他所に人口が大胆に減ることになり、条約破棄国も出現したりなど混乱状態に陥る。それを付け狙うかのように、世界規模でAUNによって同時多発テロが発生する。

 日本では東京スカイツリーが爆破され、スカイツリー内部にいた人、スカイツリー下にいた人など多数の犠牲者を生み出すなど世界がパニック状態に陥った。

 

 そして二一〇六年。人知れず活動を行うSOUのメンバーにより、AUNの主犯格や繋がっていた反連合主義者の暗殺が全世界で行われていった。


 

 ――二一〇三年 某月某日


 しきりに降る雨粒に街灯の光が暗闇の中で煌めく夜、少女は傘もささずに走っていた。必死に何かを探す素振りであちらこちらと顔を振り、当たり障りなく走り続けた。しかし、どれだけ見渡しても建物一つ建っている気配がまるでない。

 息を切らして俯き、眼からこぼれ落ちそうなものを瞑って必死に抑える。それでも自分の意思に反して溢れ出てきたそれは、雨と一体化して地面を跳ねる。もう見つからないかもしれないと諦めかけていたその時だった。

「……ッ!」

 目の前にある鬱蒼とした森の中から少女の相棒である少女がふらふらと現れる。少女は驚きと喜びで掻き乱される思いで走り寄る。だが、相棒の少女は左手を前に出して制止し、銃口を少女に向ける。

「……え?」

 少女は自分のミスせいで相棒が人質にしてしまった罪悪感で一刻も早く謝りたかったが、相棒の行動に戸惑いを隠せなかった。

「離れて」

 少女は相棒に言われたまま後退りし、銃口を下げるまで後退を続ける。

「……じゃあ、ごめん」

 少女は相棒の涙ぐんでいるのに無理やり笑おうとしている表情に嫌な予感を覚える。

「何を――」

 そう尋ねようとした瞬間、少女は相棒が何をされたのか否が応でも理解させられる。


 その身体は悉く爆散し、相棒だったものに成り果てた。

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