黒猫

口羽龍

黒猫

 夏休みを間近に控えたある夏の夕方、新次郎は自転車で家に向かっていた。新次郎は野球部をしていて、毎日夜まで厳しい練習をしている。今日もこの時間まで練習だった。大変だけど、甲子園に出場するためにはこれほどの厳しい練習に耐えなければならないと思っている。


 と、新次郎は帰り道で死にそうな黒猫を見つけた。車にひかれたんだろう。かわいそうだ。止まって立ち去るまで待つのが正しいのに。悲しいな。


 そう思いつつ、新次郎は再び家に向かって自転車をこぎ出した。その猫のせいで、とんでもない事になるのを知らずに。


 午後8時前、新次郎は帰ってきた。すると、新次郎はすぐに2階の自分の部屋に向かった。楽しみにしているラジオがもうすぐ始まる。


 新次郎は部屋に入ると、すぐにラジオをつけた。新次郎の部屋には、プロ野球選手のポスターが飾ってある。飾ってあるのはあこがれの選手だ。いつかはプロ野球選手にやってやる!


 新次郎は鳩時計を見た。何とか間に合った。あとは8時になるのを待つだけだ。ワクワクする。


 午後8時になった。楽しみにしているラジオの時間だ。今日は大好きなアイドルの声が聞こえる。楽しみだ。


「さてと、ラジオラジオっと」


 だが、数分聴いていたその時だ。猫の鳴き声が聞こえた。一体何だろう。放送事故だろうか?


「ん? 何だこの猫の鳴き声は」

「わかんないなー」


 結局、疑問が残りつつも、ラジオは終わった。新次郎は首をかしげた。


「新ちゃーん、お風呂よー!」


 母の声だ。お風呂はこの時間に入る。朝からまた学校と部活だ。今日の疲れを風呂で癒して、また明日頑張ろう。


「はーい!」


 新次郎は着替えを持つと、1階に向かった。と、新次郎はベランダを見た。目が光っている。何だろう。猫だろうか?


「ん?」


 と、新次郎は夕方の死にそうな黒猫の事を思い出した。まさか、あの黒猫だろうか? いや、そうじゃない。もう死んでいるはずだ。


「黒猫?」


 新次郎は首をかしげた。どうしてこんな所に黒猫がいるんだろうか? 獲物を狙っているんだろうか?




 次の朝、いつものように新次郎は学校に向かった。なんでもない日常が続く。いつものように車が流れる。昨日のお風呂でしっかりと疲れが取れた。今日も授業も部活も頑張ろう。


 信号のある交差点で車を待つ。これも何でもない光景だ。ここの信号は長い。早く変わらないだろうか?


 と、新次郎は何かの気配を感じて、横を向いた。そこには黒猫がいる。昨日の黒猫だろうか? まさか、僕を狙っているんだろうか? そんなわけない。何も悪い事をしていない。


「あれ? 黒猫?」


 交差点の信号が青に変わった。新次郎は自転車を走らせた。すると、黒猫もやって来る。やはり僕をつけ狙っているんだろうか?


「ついてくるな」


 その様子を見ていた友人が声をかけた。今日の新次郎は変だ。何かにつけ狙われているような様子だ。


「どうしたんだよ、新ちゃん」

「後ろから黒猫が追ってるんだ」


 新次郎は少し焦っている。昨日からつけ狙われている。一体何だろう。


「黒猫?」


 友人は首をかしげた。どうやら黒猫が見えていないようだ。そもそもどんな黒猫だろう。


「いないよ」

「あれ? いないの? いるよ」


 新次郎は首をかしげた。友人が黒猫が見えないのはおかしい。どうして見えないんだろう。ひょっとして、幽霊だろうか? 僕は幽霊につけ狙われているんだろうか? いや、そんな事はない。何にも悪い事をしていない。




 夜、部活を終えた新次郎は家に向かった。今日は部活の同僚と一緒だ。


「じゃあねー」

「バイバーイ!」


 新次郎は仲間と別れた。ここからは1人で帰宅だ。不安だけど、ここは避けられない。早く家に帰ろう。辺りは暗い。誰かが襲い掛かってきそうで怖い。


 と、何かの気配を感じ、新次郎は後ろを振り向いた。なんと、そこには黒猫がいる。ここでも黒猫。一体何だろう。


「ここにも黒猫が」


 新次郎は首をかしげた。あの黒猫って、どうして僕をつけ狙っているんだろう。何にも悪い事をしていないのに。ひょっとして、飼ってほしいんだろうか? だが、それはできない。うちはペットはお断りだ。絶対に家族がダメと言うだろう。


「この黒猫は何だろう」


 疑問に思いつつ、新次郎は家に帰ってきた。結局、その猫は家までつけてきた。あたかも飼ってほしいかのようだ。だが、友人には見えない。その黒猫は本当に何だろう。


「ただいまー」

「おかえりー」


 新次郎は疲れて2階に向かった。明日は休みだ。ゆっくりしよう。


 新次郎は部屋に入ると、ベッドに横になった。今週1週間、授業に部活によく頑張った。来週も授業を頑張ろう。明日の部活も頑張ろう。週末の夜は何をしよう。勉強もいいけど、ゲームもしたいな。


 新次郎は何かの気配を感じて、窓のカーテンを開けた。屋根に黒猫がいる。ここでも新次郎をつけ狙っているようだ。


「えっ、ここにも」

「新ちゃん、ごはんよー」


 突然、母の声が聞こえた。晩ごはんだ。帰ってきた時の匂いから推測して、今日はカレーのようだ。楽しみだな。


 新次郎は1階にやって来た。やはりカレーだ。新次郎は喜んだ。大好きなカレーだ。今週1週間頑張った母からのごほうびのようだ。


 新次郎は椅子に座ると、カレーを食べ始めた。食卓では父がすでにおいしそうに食べている。


「お母さん、最近黒猫がジロジロ見てるんだ」


 カレーを食べながら、新次郎は打ち明けた。母は首をかしげた。どうして黒猫が新次郎をつけ狙っているんだろう。


「ほら、あそこに」


 新次郎は指をさした。カーテンのかかっていないリビングの窓からも見ている。明らかに怪しい。


「えっ、いないよ」


 だが、母も知らないような表情をした。母にも見えていないようだ。


「そんな・・・」


 新次郎は驚いた。友人だけではなく、母にも見えないなんて。一体あの黒猫は何だろう。ひょっとして、自分にしか見えない幽霊だろうか?


「何もいないわよ。どうしたの?」

「うーん・・・」


 新次郎は考え込んだ。自分にしか見えないなんて、異常だ。何か嫌な予感がする。ひょっとして、あの猫が自分の命を狙ってこないだろうか? 新次郎は不安になった。




 その夜、新次郎は悩んでいた。もちろん黒猫の事で。昨日の帰り道で見た黒猫だろうか? ただ通り過ぎただけなのに、どうして因縁をつけられたんだろうか?


 突然、何かの気配を感じて、新次郎は上を向いた。だが、何もない。気配を感じると、そこに黒猫がいる事が多い。だが、その時はいない。新次郎は気配を感じるだけでびくびくするようになっていた。


「ん?」


 新次郎は横を向いた。新次郎はびくっとした。なんと、人間ぐらいの大きさの黒猫がいる。2本の足で立っている。化け猫だろうか? 黒猫は新次郎をじっと見つめている。


「うわっ!」


 突然、何かに首を絞められているような気がした。新次郎はベッドの横を見た。すると、その猫の尻尾が新次郎の首を絞めつけている。まさかの展開に、新次郎は驚いた。


「ミャーオ!」


 巨大な黒猫は不気味な鳴き声を上げた。だんだん締め付けられる。苦しい。新次郎は息ができない。このまま死んでしまうんだろうか? いや、生きたい。そして、これが夢であってほしい。だが、これは夢じゃなくて現実だ。


「あっ、あっ・・・」


 新次郎は命を落とした。だが、両親は何も知らないようだ。巨大な黒猫は不気味な笑みを浮かべて、その様子を見ている。




 翌朝、母は2階に向かった。なかなか起きない新次郎を起こしに来たようだ。父はすでに出勤していて、いるのは新次郎と母だけだ。


「新ちゃん、新ちゃん、朝よ! 起きなさい!」


 母は扉を叩いた。だが、新次郎の反応はない。いつもだったら反応して起きるはずなのに。どうしたんだろう。


 飯能がないようなので、母は部屋に入った。新次郎は寝ている。だが、とても静かだ。息がない。


「新ちゃ・・・、キャー!」


 母は驚いた。冷たい。首に絞められた跡がある。まさか、死ぬとは。


「ん?」


 何かの気配を感じて、母は振り向いた。そこには巨大な黒猫がいる。黒猫は素早く母に噛みついた。喉元を噛みつかれた母は即死した。

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