ノエル

 無事にこの家においてもらうことになった俺は、オウデルさんに部屋を案内された。


「カイト、ここをお前さんの部屋にしてやる。使ってない部屋で汚れとるが自分で掃除しろ」


 オウデルさんは箒にバケツ、雑巾など道具一式を貸してくれた。部屋の隅々まで埃がたまり、窓にはクモの巣が張っているのを見てげんなりしたが、外に放り出されてダイアウルフにガジガジされるよりはましなので、その部屋を掃除することにした。


 掃除してると物知りさんが頭の中で告げる。


「掃除スキルLV1を獲得したよー」


「えっ? スキル獲得?」


「特定の物事に取り組むと熟練度がたまって、一定までたまるとスキルを習得できるよ。カイトはチートスキル”天才”の効果でスキルを獲得するのが物凄く早いんだよ」


 スキル獲得の効果なのか掃除がさっきまでよりはかどる。これはいいな。


 気分も良くなって頑張って掃除を続けていると、その間にも物知りさんは掃除スキルがレベルアップしたことを教えてくれた。


 部屋がきれいになるまでに掃除スキルはLV3になった。


 さて、オウデルさんに部屋の掃除が終わったことを報告しに行くか。


「もう終わったのか。どれどれ……。おおっ、しっかり掃除したんだなえらいえらい」


 頭をガシガシ撫でられて軽く痛い。HP減らんよな……? しかし、掃除スキルとはいえレベルアップするのは楽しい。もっと掃除すればレベルをあげられるだろう。


「あのー、この家中を掃除しましょうか?」


「それよりも、キッチンへ行ってアイリの夕食の準備を手伝ってやってくれ」


 オウデルさんに言われた通りアイリの元に行く。


「何か手伝わせて欲しいんだけど?」


「そうねー、芋の皮をむいてくれる?」


「ああ、やってみる」


 芋とナイフを手に取り皮むきをしてみるが、なかなかうまくいかない。必死になってやっていると物知りさんが告げる。


「料理スキルLV1を獲得~」


 もう獲得したのか、スキル獲得と同時に皮むきがスムーズに出来るようになった。これは楽しい! 夢中で皮をむいていると料理スキルもLV3まで上がった。




 * * *




 夕食の準備も整い、三人でテーブルを囲む。今日のメニューはホワイトシチューだ。


 食事しながらオウデルさんが話しだした。


「今日はダイアウルフのアルビノ種を狩ることが出来た。明日、毛皮を街に売りに行くよ」


 アイリは驚きの声をあげる。

 

「すごい! 少なくとも500万イェン以上で売れるよね」


「カイトが襲われていたから簡単に狩れたんだ。無駄に傷ついていないからもっと高く売れるだろう」


 オウデルさんとアイリは嬉しそう。俺がガジガジ噛まれたのも無駄じゃなかったのか。


「だが、よく怪我の一つもしていなかったな。ワシはもう手遅れだと思ったぞ」


 オウデルさんは豪快に笑う。それ笑う所か? とは思ったが、俺も合わせて苦笑いをしておいた。




 食事も終わりアイリが後片付けをはじめた。あっ、スキル獲得のチャンス! 


「俺に片付けさせて」


「いいよ、お願いね」


 アイリは笑顔で応えてくれた。アイリって本当に可愛いなぁ。デレデレしながらアイリの指示に従って一緒に片付けをした。 


「皿洗いスキルを獲得したよ」


 俺は頭の中で響く物知りさんの声を聴いてほくそ笑むのだった。




 * * *




 さっき俺が掃除した部屋に行って、布団を床に敷いてその上に横になる。


「物知りさん、俺、頑張ってみるよ。コツコツやっていればきっと何とかなる!」


「カイトがんばれー」


 なんか雑な返事だな……。と思っていたら物知りさんが妙な事を言う。


「そうそう、私に名前つけて。物知りさんって呼ばれるとなんか萎える」


「もしりさん」


 痛い!! 頭に激痛が……。殴られた?


「真面目に考えてよね。物知りさんスキルの権能でスキル所持者に苦痛を与えることも出来るんだよー」


「なにそのハズレスキル……?」


「あ?」


「いえ、何でもありません」


 クソ、知ったかぶりスキルめ。知ったかぶり。……know it all。……ノウイットオール。……ノエル。


「ノエルさん」


「気に入ったよ。私の名前はノエルで決まり―」


 俺の頭の中でノエルが喜んでいる感じが伝わってきたが、疲れていた俺は放置して寝るのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る