第7話 三月の事件
三月、アナハイムはもう、充分に暖かい季節である。
そもそもカリフォルニアが、一年を通して暖かい場所であるのだが。
かつてはゴールドラッシュで発展したというその土地。
だが一番そこで大儲けしたのは、金を採取するための人間を相手に、商売をした人間であった。
日本のかつて鉱山などであった街は、現在ではほとんどが寂れている。
カリフォルニアの場合は普通に海があったため、ロスアンゼルスなどが発展していったのだが。
カリフォルニア州には、MLBのチームが五つもある。
これより多くのチームを持っている州はない。
もっともチームの密集具合で言うならば、東海岸はそれ以上であったりするのだが。
アナハイムはメトロズと比べると、対戦相手がやや散らばっている。
それでもこの短期間では、対戦するチームはそれほど多くない。
一度ぐらいはミネソタと対戦したかったのだが、ミネソタはフロリダの方でスプリングトレーニングを行っている。
去年のポストシーズンでは、四連勝でスウィープした。
だが今年は、それは無理だろうと思われる。
先発の軸としては、直史にレナード、そしてFAで加入したボーエンの三人と思われている。
実際にオープン戦では、安定しているのがこの三人だ。
スターンバックとヴィエラが抜けた後としては、戦力が足りているとは言えない。
だがリリーフ陣が変わっていないのは、強みと言っていいだろう。
「なんとか地区優勝は狙えるのかな」
「どうだろうな。ヒューストンもかなり頑張っているらしいが」
ヒューストンの弱点は、打線の得点力だ。
直史がいる同じリーグの同じ地区に、行きたいと思うバッターは少ないだろう。
大介のいる同じリーグの同じ地区に、行きたいと思うピッチャーが少ないように。
ア・リーグ西地区と、ナ・リーグ東地区は、アナハイムとメトロズの独壇場になりつつある。
それでもヒューストンなどは、資金力を背景に有利な契約を用意し、それなりに選手を揃えられるだろうが。
メトロズの地区は、アトランタもかなりチーム編成には苦労しているらしい。
単純に個々の選手の戦力だけを見ると、今年のメトロズは去年よりもさらに強い。
ただ戦力は、単純に足していけるものではない。
メトロズはリリーフ陣の中でも、クローザーが足りていないと思う。
だが今はそれでやってみて、トレードデッドラインでまた補充を狙うのか。
メトロズは今年で、オットーとスタントンという、傑出はしていないが安定しているピッチャーが二人FAとなる。
FA前の一年は重要だ。その成績によって、契約の条件が変わるのだから。
だからこの一年は、故障だけはしないように、しっかりと気合を入れて投げるだろう。
しかし安定したクローザーがいないというのは、かなり問題ではないのか。
僅差の勝負を演出せず、全ての試合を圧倒的に勝てば、もちろん問題はないのだが。
実際にはそんなことは不可能だ。
アナハイムは今年、追加戦力として契約したのは、主にボーエンである。
そしてターナーがFA市場に出る前に、大型契約を結んだ。
直史としてはそれより、もう一人誰かを雇ってほしかったのだが、それは直史の都合である。
最後の年に、ワールドシリーズに進出する。
ミネソタを最大のライバルと想定すると、かなり厳しいことになるだろう。
アナハイムもメトロズほどではないが、選手の年俸総額は高い。
だがその中には長期大型契約を結んだものの、故障でまともに出られないという選手の契約もあったりする。
これが切れるのが、今年なのだ。
つまり来年からは、一枚強力なピッチャーを取ることが出来る。
「それでもアナハイムが優勝するなら、今年ほどのチャンスはほとんどないと思うけどな」
食事中などに直史は、樋口と話すことが多い。
その時に樋口はそう言ったのだ。
直史の年俸が安いのだ。
大きなインセンティブがついているが、それでも実力換算なら三倍ほどはもらっていてもいい。
同じことは樋口にも言える。
キャッチング技術やスローイング技術、それにバッティングまで含めれば、やはり安すぎる年俸でプレイをしている。
この二人がいる間に、ワールドチャンピオンをもう一度狙うべきなのだ。
だが実際に選んだのは、ターナーを早めに契約で縛るということ。
今後も数年打線を維持できる核を手に入れたが、それではポストシーズンまでは進めても、ワールドシリーズには届かないだろう。
ある程度の強さをずっと保っているチーム。
強さに毎年波が出るチーム。
結果的にワールドチャンピオンに達するかは、結局選手たちが故障しないかという運に頼った部分が大きいと思う。
いや、運に頼ったと言うよりは、運さえも味方にしなければ、勝てないと言った方がまだマシか。
事実野球は、運の要素は他のスポーツよりも高い。
ただその運を引き寄せる力も、絶対に必要になってくる。
大介の方にも、当然ながら情報は届く。
アナハイムのショートが故障したという情報。しばらくしてから、その代役がちゃんと見つかったということも。
大介の打順が二番となったのは、去年の敬遠数が200に迫ったからだろう。
もっともそれは、あくまでもオープン戦での扱い。
ポストシーズンはもちろんレギュラーシーズンでも、実戦で試して都合が悪ければ、変えていくことはあるだろう。
直史はなんとなく感じている。
大介は一番の方がいいだろうと。
ならば出塁率のいいステベンソンはどう使うのかと言うと、九番だ。
せっかくの出塁率の高い選手に、回ってくる回数の少ない九番というのは、かなり冒険的な起用法となるだろう。
だが大介に一つでも多く、打数を回すにはそれがいい。
そして二打席目以降は、出塁率のいい俊足のランナーが前にいるかもしれないのだ。
高校野球でも守備負担の多いキャッチャーを、打撃は良くても下位に置くということはあった。
九番に置いて、一番打撃力の低い選手は八番に。
高校野球の戦力であれば、そういうこともないではなかった。
DHの存在で、一番バッティングの出来ないピッチャーは、完全にピッチングに専念するのがMLBだ。
なので打線には、色々と工夫の余地がある。
アナハイムのスタメンは、故障したショート以外は、基本的に去年と変わらない。
ベンチメンバーは変わっているが、それよりはピッチャーだろう。
スターンバックとヴィエラの抜けた穴を埋めるのは、正直に言って難しい。
だがアナハイムはメトロズと違って、リリーフ陣は充実している。
ルーキーから自力で育てた選手や、トレードで獲得した選手。
若手が充実しているのだ。
問題はこの中から、先発ローテを選ぶということ。
今のところは上位三人は決まっているが、ガーネットとリッチモンドは、長いイニングを投げるのは厳しいのではないか。
フィデルが今年のレギュラーシーズン中に、伸びてくれればいい。
そしたらまたローテを回すのは楽になる。
ただピッチャーは、これでなんとかなると思っても、一人か二人は故障するものなのだ。
そのあたりの見極めは、樋口がしてくれるのかもしれないが。
アナハイムの打線の力は、平均よりもはるかに高い。
ピッチャーの力が少し劣っても、互角の点差になるぐらには。
これで強いピッチャーなら、かなり圧倒的に勝つことが出来る。
ピッチャーによって、どれだけの勝ち星を上積み出来るか。
95勝もすれば、さすがにポストシーズンは問題ないだろう。
だがポストシーズンであまり投げすぎると、ワールドシリーズで全開で投げるのが難しくなる。
去年のワールドシリーズで投げた、あのピッチング。
あの先にはまだ、未知の世界が待っているのだろうか。
ただ人間の肉体の限界も、もう近いように思える。
あまり先に行ってしまうと、肉体の限界より先に、精神の限界が来るのではないか。
直史はそう思うのだが、簡単に検証できるものでもない。
それにあの世界は、ピッチャーの中でもおそらく、直史だけのものだ。
空間の絶対的な支配。
それすらも大介は切断してしまったのだが。
自主トレにて、大介は調子を落としていると言っていた。
実際に不調ではあったし、それは徐々に元に戻っていった。
ただ不調なだけで、ダメージを受けたとは聞いていない。
直史はかなり、ダメージを受けていた。
脳も含めて完全に、体の調子が狂っていたのだ。
これはもう、時間をかけて安静にするしか、回復する方法はなかった。
だがこれをずっと深くまで潜ってしまえば、果たして戻ってこれるのか。
いくらなんでも野球に、文字通り命を賭けるわけにはいかない。
直史にとって野球という存在は、唯一無二のものではない。
ずるずると、だがしっかりとやっているうちに、人生を左右するものになってしまった。
だが人生の本当に重要な場面は、これから訪れるのだ。
結婚して、子供が出来て、そしてそれを育てていく。
社会の中で働いて、社会をほんの少し動かしていく。
今の時点で、とんでもない影響力を持っている気もするが。
野球選手というのは結局、引退してからも野球の世界に関わるのが、上手く人生を送ることになるのだろう。
解説者、コーチ、監督、あるいは指導者。
いろいろと実業家や投資などをする者もいるが、あまり成功しているというイメージがない。
当然だ。野球しかしてこなかったのだから。
野球経験者で成功するのは、大学で野球部をしていても、二軍程度で終わる人間であったりする。
就職先は普通の企業で、そこでは野球で培った精神力を活かすわけだ。
もっともそういうパターンも、最近では減ってきているようであるが。
大学などの場合であると、たとえば早稲谷などであると、大企業の中には学閥があったりする。
その中でも野球部の先輩後輩という、つながりがあるのだ。
東大生の中でも、出身高校で集まりがあるとか、そういうのに近いのか。
だが派閥の中のさらに派閥とまでなると、組織全体には悪影響を及ぼすことがある。
派閥は人を守るが、流動性がなくなる。
階級間の流動性がなくなった社会には、成長の強さはなくなっていく。
これは会社においても同じことのはずだ。
ただそんなことを考えていても、直史はいわゆる保守的な人間なのだが。
そろそろレギュラーシーズンの動向も見ていかないといけないだろう。
キャンプから本拠地に戻り、いよいよ26人ロースターも決まってくる。
トロールスタジアムでの三連戦が、オープン戦最後のカードとなる。
事件はここで起こった。
直史としては、特に何も想像してはいなかった。
今日は投げる予定はなく、ハイウェイシリーズで対戦する相手のトローリーズとは、かなり見知った顔も多い。
オープン戦でも二度当たっているが、少し顔ぶれが変わっている。
だが基本的にはナ・リーグのチームであるので、ほとんど対戦はない。
もし決戦になるとすれば、それはワールドシリーズになるであろう。
トローリーズが勝ち上がるとしたら、それはもう西海岸は盛り上がるだろう。
だがそれはナ・リーグの中で、メトロズを倒して上がってきたということになる。
直史としてはもちろん、全力でそれも相手はするだろう。
だが限界を超えるつもりはない。
大介との対決は、自分の人生において、やらなければいけないことなのだと感じている。
大学からクラブチームと、プロに入るつもりなどなかったのに、結局は対決している。
これはもう、何かの縁があると思うしかない。
行き先が不安だった妹たちも、二人とも片付いてくれた。
野球を外したとしても、大介の人生は直史に大きく関わってくる。
しかし野球で決着をつけるのは、これを最後にするのだ。
そんなことを言っていると、どちらかが、あるいはどちらもがワールドシリーズにまでたどり着けないフラグになりそうではある。
だがここまで運命的に、二人を導いてきたのが野球の神様だ。
MLBにおいては、チームとしては一勝一敗。
NPB時代を含めると、直史が勝っている計算になるが、セ・リーグ同士であるとクライマックスシリーズでも、アドバンテージがあるので公平ではない。
去年は大介が勝ったし、その前は直史が勝った。
ただ勝ち星と負け星を見れば、去年も直史は三勝一敗。
これで大介の勝ちというのは無理があるような気もするが、そもそもバッターとピッチャーの勝ち負けの基準が分からない。
強いて言うなら一試合あたりの貢献度は直史の方が高く、シーズン全体では大介の方が高い。
投手と野手では、その働き方が違う。
だから短期決戦では、ピッチャー重視なのだ。
そのピッチャーの若手であるフィデルが、よりにもよってデッドボールを当ててしまった。
NPBというか日本の野球では、当てたら謝るのが普通のことである。
だがアメリカでは謝ると、わざと当てたと思われるらしい。
だから謝ってはいけないのだと、なんとも納得しがたい説明がついている。
相手の四番に当てたので、トローリーズも報復死球をしてくる。
ただこういう場合はちゃんと暗黙の了解で、危険なところに当ててはいけないというものがある。
そもそも当てるのがいけないのだろうと、日本人は思うのだが。
こんなところまでは日本は、アメリカを見習わなくていい。
こちらが主砲に当てたので、あちらもターナーに当ててくる。
上手くエルボーガードあたりで受けようとしたのだが、その当たったボールがさらに顔面に当たった。
もちろんこれは事故であるが、顔面に受けたボールは、目の付近に当たっている。
眼球を強く押されたターナーは、やや視界がおかしくなった。
治療のために、この開幕直前に、戦線離脱である。
ちょっと待て、とアナハイムの全員が思ったものである。
リーグ全体の中でも、五指に入るほど傑出したバッティングのターナー。
目をやられるというのは、下手な骨折などよりもよほど致命的ではないのか。
大型契約を取った直後に、このひどい怪我。
フロントから現場まで、一気に士気が落ちてしまった。
その後のわずかな経過の間に、ターナーの怪我の詳細が入ってくる。
生命の心配などは、まったくない故障ではある。
だが左目の水晶体が、衝撃で歪んでいるそうな。
ある程度は時間経過で治癒していく。
しかし実際にバッターボックスに立ってみれば、遠近感が狂っていた。
野球のバッティングにおいて、遠近感が狂うというのは、間違いなく致命的なものだ。
しばらくは自然治癒を目指し、ダメなようなら他の手段を考える。
とりあえず確かなことは、開幕に主砲が間に合わないということである。
「参ったな」
「参った」
「参ったね」
NPB出身の三人が集まって、そんな会話を繰り広げていた。
もっともチームメイトのことを、表面上は心配していても、そのポジションを狙いにいくのが、野球の仁義なき戦いである。
別に足を引っ張ったとか、わざと怪我をさせたわけではない。
なのでチームのためにも、ターナーの穴を埋めるというのは重要なことなのだ。
元々ターナーは、強い勢いのボールを前に落とすことは出来たが、守備力自体が傑出していたわけではない。
ただサードはショートほど、守備力が求められるポジションでもない。
しかしサードの選手は、強いボールをしっかりキャッチしていくことでも知られている。
打撃成績がある程度優れた選手が多いのは、やはりバッティングにおいても、ピッチャーのスピードボールに強いからであろうか。
ただアナハイムは、ただでさえショートが故障で離脱している。
この三遊間が、そのまま現在の戦力で埋めてもいいものなのか。
ターナーの故障については、困るのが治癒するのか、するとしてもどれぐらいかかるのか、はっきりしたことが言えないという点だ。
大型契約を結んだばかりのフロントは、全員が頭を抱えている。
傑出したバッティングとそこそこの守備力。
彼が抜けた穴は、大変に大きなものである。
よりにもよって、大型契約を結んだ一年目に。
下手をすれば選手生命が終わるかもしれない故障。
もちろんこういう場合に備えて、球団は保険などに入ってはいる。
だがビジネスの話よりも、シーズンの話をしなければいけない。
打撃力が必要になる。
幸いと言っていいのかどうかは分からないが、アナハイムはDHを固定していない。
「今からでも誰か取れないのか」
FA選手で市場に残っている人間は、いないわけではない。
しかしここまでまだ契約が決まっていないのは、色々と問題がある選手が多いに決まっている。
時期が悪すぎる。
せめてもう少し前であれば、残っている選手も多かっただろう。
DH枠を使っていいなら、故障で守備に問題が出ている選手などを、バッティングに専念させればどうだろうか。
このあたりの話は、GMが最終的に決めるものだ。
ただ問題なのは、ターナーがちゃんと復帰できた場合だ。
高い選手を契約してしまうと、ターナーが戻ってこれた時に、サラリーの関係でぜいたく税が大きくなってしまう。
もしも今年一年丸々使えないならば、完全に負傷者リストに入ることで、かえってサラリーは多く使えるのだ。
このあたりGMが決めるにしても、オーナーにお伺いをたてなければいけない。
選手の年俸に対するぜいたく税がかかるかどうかは、九月の時点での契約枠による。
かつてはこれが原因で、数字的にはマイナーで無双しながらも、メジャーに昇格できなかった選手がたくさんいたのだ。
とりあえず即戦力は連れてくる必要があるだろう。
ベテランの選手を単年あたりで、どこからか取れないものか。
ただどれだけ結果を残していても、ターナーが元通りに復帰できるとなれば、今度はそこでぜいたく税を少なくするため、カットする可能性がある。
それとやはり、人格の問題だ。
ことMLBにおいては、残り物に福などないのだ。
よほど要求が高くて、他のチームでは条件が合わないということはあるだろうが。
そのあたりGMのブルーノは、単純に打撃能力だけなら、ターナーほどではないがそこそこ打てる選手はピックアップしてある。
だがターナーのような、高打率、高長打率、高出塁率のバッターは、さすがにいない。
DH枠を潰してでも、40歳ほどのスラッガーを入れる必要があるのか。
今年のチーム編成において、ターナーとの大型契約を結ぶのに反対していたセイバーとしては、まさかこんなことまでは見越していなかったにせよ、他の補強を優先すべきであったと主張していたのが、結果的には正解となるのかもしれない。
それにしても、また目である。
ショートにしっかりとメガネをかけさせ、どうにか戦力化に成功した。
しかし今度は主砲が、選手生命の危機。
あるいはあっさり治るのかもしれない。
だが治らなかったとしたら、果たしてどうなるのか。
一時的に急に落ちた視力は、徐々に回復していっているという。
だが問題なのは単純な視力ではなく、動体視力なのだ。
そしてその部分も治ったとして、また元の通りのバッティングが出来るのか。
バッティングというのは本当に、ミリ単位の精密なものである。
わずかでも目の調子が戻らないのなら、もうバッターとしては再起不能である。
単純に戦力を埋めるという点と、そしてポストシーズンを勝ち進むという点。
ワールドシリーズまで勝ち進むのに、どれだけの戦力が必要になるのか。
ポストシーズンにまで進出できれば、直史を酷使といういつもの手段で、勝ち抜いていくことは出来るだろう。
だがレギュラーシーズンでもかなりの酷使をしなければ、ポストシーズンにはたどり着けないのではないか。
アレク、樋口、ターナーの並びは強力なものであった。
しかし一番OPSの高いターナーが、こんなことになってしまうとは。
打線の順番もいじらなければいけないだろう。もっともそれはFMの仕事であるが。
直史も大介もアメリカにいるので、セイバーは基本的に、アメリカ国内を回っている。
彼女の仕事はネットとパソコンさえあれば、おおよそリモートで出来る仕事なのだ。
ただ趣味の部分である、選手の発掘については、まだ自分で足を運ぶ必要があったりする。
もちろんスカウトは、アメリカ本土だけではなく、世界のあちこちに散らばっているのだが。
単純に数字の上であれば、ターナーの抜けた穴を埋められると思う。
だがチーム全体のバランスを、どうするのか。
安い選手であれば、国外から取ってくる方が、安心である。
地元のリーグではそれなりに活躍していても、全く金にはならない。
そういう選手を取ってきてもいいのだが、なんだかんだ言って費用はかかるのだ。
MLBは昔は、来るもの拒まず去る者追わずで、かなりマイナーの環境は苛酷であった。
それを改善したために、むしろマイナーのチーム数は減ってしまった。
出している給料は安いといっても、設備や消耗品、維持費はかなりかかるのだ。
なので昔に比べると、選手の評価は厳しめになっていると言えよう。
もう少し地元のリーグで成長したら、スカウトしてこようか。
そう思っている選手の様子を、知り合いに見てもらいにいく。
基本的にはアナハイムのために働くセイバーであるが、完全にアナハイムに自分を支配させているわけではない。
大介をメトロズに紹介したのは、他の筋とのコネクションを大切にしたがためだ。
武史を紹介する時は、もう間接的に動いたのだが。
長打力がちょっと足りない。
アレクや樋口はバランスがいいが、長打を無造作に打っていけるバッターではないのだ。
狙いを絞って、打つべき時に打つ。
そういう勝負強さを、二人は持っている。
(それにしても、よりにもよって最後の年に、こんな色々なことが起こるなんて)
アナハイムも注意しなければいけないが、メトロズにも問題がある。
クローザーの件はいったい、どうするというのだろう。
一応そこそこのクローザーなら、まだ市場に残ってはいる。
またリリーフ系のピッチャーというのは、その一年だけは革変して、すごい成績を残すピッチャーがいたりもする。
ただそういうピッチャーが出てくるかどうかは、完全に運であろう。
アナハイムとメトロズの、三年連続のワールドシリーズ対決。
これが実現してくれれば、セイバーとしても面白いことになる。
セイバーだけではなく、MLBファン全体が、楽しむことが出来るだろう。
ニューヨークとロスアンゼルス、それぞれの大都市圏のチームが、強いということ。
それは自然とアメリカ全土を盛り上げることになるのだ。
一番盛り上がるのは、ア・リーグがラッキーズで、ナ・リーグがトローリーズという対戦だろうが。
しかしメトロズとアナハイムは、この二年で一気に、チームの市場価値を上げた。
直史がもう少し残ってくれたらな、とセイバーは思わないでもない。
ただメディックの話から、直史はもう危険な領域に入っているとも聞いている。
選手として再起不能なだけなら、それは仕方がないのだろう。
だが生命の危機にまで陥ってくるとなると、それは話が違う。
今年で最後。
セイバーの楽しみであった、世界を動かすという感覚。
これがもう、今年いっぱいで終わってしまう。
最後の祭りに、彼女は楽しみと、それよりも大きな切なさを感じていた。
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