第11話 猫にもなれば虎にもなる
左肩の傷の痛みで目が覚めると、谷の中腹の立木に引っ掛かっていた。身体を起こし無事を確認する。擦り傷と打撲程度、また怪我が増えてしまった。しかし俺はどれ程の間、気を失っていたのか……
猫を熊にして
(全く笑えん、
森の中の気配は
安心感からか一息をつくと、
「くはっ」
すると
⦅これはな、兵士の傷薬って言われてるんだぜ⦆
誰かの言葉が頭を
「すまんな世話になる」
俺は葉を分けて貰い、手で軽く揉むと傷口に
「よし、これで何とか
(
空を見上げ昨夜の襲撃の事を考える。
(
―――老師は何者かに精神を
(何者とは何なのか…… )
アリアを襲った記憶は間違い無く彼奴等だった。しかし思い出せたのはそこ迄の事実のみ。その後に何かあったのであれば、恐らくそれが
―――神か……
(俺が激しく拒絶反応を示した言葉、それを意味するのは)
すると小川の少し上流の方で話し声が聞こえる。エマか?いや、エマは声を出せない、別人だ。(こんな危険な森の中で人が? )
鬼丸がカタカタ騒ぐ―――――
―――何だ⁉……
俺はゆっくりと上流に歩を進め、頭の中でもう一度、老人の言葉を
―――どうやら人ではないらしい……
(魔狼以外って事か? )
―――この森は一体……
茂みの中から声のする方へ
そう―――――
そいつが
『ちくしょーまったくヒドイめにあったもんだぜ、なんだったんだあれ?いきなりバクハツしやがって、毛がコゲちまったじゃねーか』
ぺろぺろとピンク色の舌を出し、身体を綺麗に舐めている。大股を開き今にも引っ繰り返りそうな体制で下腹部を舐める姿に恐怖は無く、
―――まるででかい猫だな……
(今、猫は
『しかしみーんなニゲちまったな、またヒトゾクたちがセンソウでもはじめやがったのかもなー、でもさっきのアレはきっとヒトゾクじゃねーな、キのウエをあんなにはやくイドウなんてできねーもんな、やばいヤツにはみつからないようにしなきゃな』
でかい猫は
(そんな所ぺろぺろしたら駄目だぞ…… )
独り言を盗み聞きする内に、不思議とその
『はぁ、ニゲまわってたらハラがへったなー、くわなきゃならないなんてフベンなカラダだぜまったく、でもウマイモノってこっちのセカイにはタクサンあるんだな、すこしメンドウだけどたべるってすごいな』
「鹿の干し肉なら沢山あるぞ」
俺は咄嗟に声に出してしまっていた……
(あっ! しまった…… )
ヒッ―――――!!
黒豹は
そりゃあそうなる……
「あぁ俺は怪しい者じゃないんだ、腹が減ってるんだろ、ほらこれ旨いぞ」
腰袋から鹿の干し肉を取り出しゆっくりと微笑みながら近づく……
『ままま――――― マジン―――――!! 』
ギャアと黒豹が騒ぎ飛び跳ね後ずさる。
「ん? 魔人? 何を言ってるんだ俺は人間だぞ? 其れよりもほら、これ食えよ」
『ななな、ナンでこんなトコロにマジンなんかが、オレみたいなガキをくらってもウマクくないぞ、まだうまれてニヒャクネンだし』
腰が抜けたのか、ぺたんと尻を着き、
「ほぉ、まだ二百年か凄いな、じゃあ俺はもっとガキだな、まだ二十年しか経ってないからな」
『に、ニジュウネンでマジンかよ、ありえねえ…… そうか⁉ あんたキゾクだったのか、ドウリでコシにそんなバケモノをシタガエテるわけだ』
俺はカタカタと騒ぐ鬼丸に目を落とし手を添える。
ヒッ―――――!!
『まて、たっ、たのむミノガシテしてくれよ、ワルいコトなんてナニもしちゃいないんだ、タダぽかぽかしてたからケズクロイしてただけで』
黒豹の過剰な反応に楽しくなり、俺は此処で
「この俺様が食い物を恵んでやると言ってるのにその態度は何だ!! お前俺が誰だか分かってるんだろうな!! 」
刀を抜く素振りを見せる……
『ギャアだめだ!! そんなヤツおこしちゃダメだーヤメテくれーくわれちゃうよー』
(ん? 起こす⁉ そうか、
スゥっと刀を半刀抜き止める。しかし魔狼との闘いの時の様な
「起きろ―――――鬼丸!! 」
次の瞬間!! 妖刀は
『あひゃぁあばばばば』
でかい猫が天を仰ぎバタンと倒れると股間を濡らす……
すると老人の言葉が脳裏に浮かんだ。
⦅刀を抜いたら最後、
「むっ⁉ ちょっと悪戯が過ぎたな…… 」
俺は慌てて刀を鞘に納め黒豹に問い掛けた。
「おい、そんなに怖がるな、危害は加えない。その代わりお前の知っている事を教えてくれないか? 」
『へっ? オ、オレなんかがマジンサマにおしえるコトなんて…… 』
「さっきも言ったが俺も生まれたばかりなんだ、だから少しばかりご教授願おうと思ってな、嫌か? 」
―――語尾を強めて
『はっ!! はいぃオレでよければよろこんで』
「ははは、そう緊張しないでくれ、先ずは小川で股間を綺麗に洗ったらどうだ? 」
『うううごめんなさい』
余程怖かったのか、うっかり漏らした自分が情けなくなったのか、大粒の涙をぽろぽろと
(ぷッこいつ可愛いな。きっとエマのお気に入りになるんじゃないか? しかしコイツは何なんだろうな、獣だから魔獣っていうヤツなのか? )
『うう、ちべたいよぉ』
俺は
「ほら、洗い終わったらこれでも食べて少し落ち着け。」
『はひぃ』
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