『0.2秒』の決死戦
“追尾弾”。形容するならソレだろう。
穴に逃げた俺を逃さまいと、その火の槍は方向を変えた。
咄嗟にポケットに突っ込んでいた『空瓶』を盾にしたが、“貫通”し瓶は割れてそのまま手に着弾。
「……ほんと、防御低いんだよな」
容赦無いそれは、俺のHPを削っていった。
消えたHPは約35%ちょっと。
しかも『火傷』……今現在進行系で俺のHPは削れていっている。
残りHPは30%を余裕で切るだろう。
このままでは次の『炎蛇』で死ぬ。
「『アースエレメント』……『地縛』」
「っ、『罠設置』」
そんな『炎蛇』はともかく、『地縛』なら避ける必要もなかった。
詠唱が聞こえた時点で地雷グレネードを作成。
同時にスコップをインベントリから取り出し――約10m先のアーノルドを見据える。
《地雷を設置しました》
《状態異常:移動不可となりました》
勝機は消えていない。
ネックで言えば、『氷霧』で下がったステータス。
そして今食らった『地縛』で、体力は20%を切り地雷ジャンプも使えなくなった。
ま、やるしかない。
罠士の
「――ふぅ。さて、次の一撃で終わりだ」
「は?」
意気揚々、迎え撃とうとしたらそんな声。
大きな盾を持った戦士を傍に控え、俺へと話すアーノルド。
「キミのPKペナルティは『3』。8時間分の経験値、アイテムがパアだ」
「どれ程下がるのかは分からないが……悪手だったな」
「四人に喧嘩を売って、勝てると思っていたのか?」
心底信じきれない――そんな台詞。
そして俺は、彼の行動を信じきれない。
「舐めプ?」
だって、格好のチャンスだし。今。
……なんか腹立つし、何もしないでおこう。
これが原因で勝ったとなったら俺が嫌だ。
「……ああ、“そういうこと”にしておこう。そしてまた、キミへの
「?」
「キミは私達の仲間二人をキルした。一対四の状況で」
「そうだね」
「この“プラチナレッグ”、『アーノルド』が褒めてやろう」
「……どうも」
何だコイツ……いちいちムカつくんだけど。
そういう選手権出たらどうでしょうか。
カルシウムのストレス軽減効果について、コイツで検証したら良いと思います。
「だがそれも、これで終わり」
「結局キミは捕まり――“運”は尽きた!」
「正真正銘ラストチャンスだ。本当に私達の仲間に入るつもりは無いんだな?」
仰々しく彼は声を上げる。
まるで森全て、いいや世界に轟かす様に。
……ああ、俺には全く響かないな。
「“死んでも”嫌だね」
「……そうか、本当に残念だ。キミなら……“貴様”になら、背中を任せても良いと思ったんだがな」
「後ろからぶっ刺して良い?」
「ハハハ! 本当に面白いな貴様は!」
本性を
初めからその顔だったら、幾分かマシだったんだがな。
「笑ってないで、とっとと来たら?」
「ああ、そうだな。終わらせよう……『ファイアー・エレメント』――」
まあ、何はともあれ。
おかげで脳が回復した。
予定通り――
「やるよ、まず一発」
反撃開始。
アーノルドが詠唱を開始した瞬間に、左手の“瓶”をアンダースローで地面に転がす。
優しく、割れないように。ボーリングの要領で。
「させるか!」
それに備え、盾を下に構える戦士を確認。
ほぼ同時。
地面に突き立てていたスコップで――
「よっ、らあ!!」
「!? な――」
掘り起こした“土”を、前方に向けて思いっ切り吹っ飛ばす。
狙いはもちろん、あの“メガネ”。
あの『地縛』に関して、俺の考察はこうだ。
落とし穴に逃げた瞬間に移動不可の状態異常が解除された。
それは恐らく、彼の視界から消えたから。ターゲッティングか何か分からないが、そういう理屈だろう。
つまり――彼の視界を奪う事が出来れば。
「!? 目がッ――」
《状態異常:移動不可が解除されました》
うーん、完璧。
顔面に砂の塊を食らったアーノルドは、読み通り詠唱もストップ。
元々過保護なぐらい戦士が彼を守っていたので、そんな気がしたのだ。
ダメージはないが、アレなんか状態異常に掛かってるな。ナイススコップ。
「……爆発、しな――ッ!?」
そう、戦士に投げたのはただの空瓶だ。
防がれると分かる攻撃なんてして意味がない。
いつ爆発するかと怯えながら、ブラフに一生盾を構えてろ!
……なんて、それは可哀そうだからね。
顔面ガラ空きの戦士君に、“本物”を投げつけ踵を返す。
「――ぐあッ!?」
爆音を背に、そのまま森の影までダッシュ!
姿さえ隠せば、またあの消音グレネードで――
「『
――その時。
背筋が凍る。
知らない詠唱。
彼が俺の背中を掴みかかる様な錯覚を覚えた。
名前からして、“何か”が“早く来る”!
恐らくだが、俺が避けられなかった――『炎蛇』の可能性が高い!
そのまま逃げるか。
攻撃を避けるか。
迷っている暇などない!
「来いよ」
ふり返る。
右手。姿勢を低くして、スコップの先を“地面”にかざして。
左手。防具の裏……腹に、ベルトに差し込んでいた“それ”を取り出しながら――
「――『炎蛇』!!」
「――『高速罠設置』!!」
発動。
そして、予感は当たった。
短縮された詠唱――1秒の半分。約0.5秒の詠唱後、放たれる炎蛇。
一瞬の詠唱。
回避不可能。
文字通り――彼の
《落とし穴を設置しました》
それは『炎蛇』の発射とほぼ同時、約0.2秒後。
高速罠設置とスコップのスキル補助効果により、0.7秒で落とし穴は設置される。
取り出し、地面に“開いた”それの上に。
ああ、ギリギリだ。
でも、間に合った。
どうせ避けられない。
ならば、真正面から
「っ――」
スコップは捨て。
“それ”を持って前に向け、大きく開く。
設置した罠が、迫る“炎”に一番近くなるように。
「――ッ!?」
あり得ないモノを見る様な彼の表情。
“それ”は、ずっとお世話になっているもの。
これまでの数々の“検証”が詰まった――
「――『旅の記録』だ」
“あの時”を思い出しながら。
開いたページ。
撫でる様、指でそっと起動した。
《落とし穴が発動しました》
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