終幕

(全部アイツの仕業かよ……!)


『ダーティーキッズ』、リーダーのハオスは心の中で頭を抱える。

もともと血気盛んな彼らは――上空からの挑発にまんまと反応し、無様を晒した。


冷静に対応すれば、返り討ちは無理でも逃げる事ぐらいなら出来たはずだった。

一度逃げて、そして作戦を練って――だがそれも『たられば』の話。


《フール様が死亡しました》

《ルーブル様が死亡しました》


あっと言う間だった。

大亀と子亀の邪魔と、空からの爆撃により――仲間二人は死んだ。


「……っ、クソ!」


目の前には、60%以上削った大亀の姿。

しかし一人ではもう倒すのは不可。


そして何より、あの罠士が――



(もう、逃げるしか)



思考の最中、ようやく『逃げる』選択肢を取ろうと後ろを向いた彼に迫っていたのは。


見た事もない『首輪付き』のグリーンタートルだった。


『コッ――』

「はぁ!? ぐあっ――!」


不意打ち。

そのタックルに身体を吹き飛ばされ。


《ダガー 罠士 LEVEL25》


「どうも」


いつの間にか前に現れていた、『元凶』である罠士。見れば落下時に減らしたのか、彼のHPも半分以下になっていた。


(……コイツのせいで俺達は……っ!)


湧き上がる憎悪。

自然と構えられるその弓。



(大亀はまだまだこっちに来れない)



『逃げる』という選択肢は消えて。

彼の中の怒りが――目の前に現れたダガーによって再沸騰する。


しかし、今攻撃してはならない。

確実に当てるには『隙』を見つけなければ。

なら――



(一度避けて、返り討ちにしてやる)



目の前、武器っぽい何かを振り上げる彼。

大振りそうなソレは見た事が無いが……これまで対人戦闘を熟してきた彼らには、『避けられる』という確信があった。


弓士はAGIにもある程度振ってある。

回避後、矢を放てば確実に命中……十分逆転できる。

なんせ――相手は『罠士』なのだから。



「『ホースラッシュ』」

「……がっ!?」


『……コッ!』

「ぐあっ!?」


しかし。

鍬の一撃は、変に長いリーチのせいか。

避けようとするものの避けられず、呆気なく食らい体勢を崩し。

次に避けようと思っていたはずの、迫っていた背後のグリーンタートルからタックルを食らう。


たまらず吹っ飛ぶハオス。


(く、そっ! 何だよこの武器……!)


『ダーティーキッズ』は、プレイヤーとの戦闘経験が多い。

もし相手が剣・斧・ナイフを使う相手なら……何の苦もなく避けられたかもしれない。



(こんなのアリかよ!!)



しかしながら。

ハオスはこれまで、『アイアンホー』で闘う者など見た事が無かったのだ。



「ッ――」

「くっ!!」



『扱いづらそうな槍並みのリーチ』。

『その割に小さすぎる刃と慣れない角度』。

『明らかに戦闘向きではない『農業道具』』


一件デメリットにしかならないその要素。

それは『対人慣れ』した彼には、不意に喉を突かれた様な衝撃で。


避けようにも――感覚が掴めない。

逃げるタイミングを失った彼は、そのまま2撃目も食らった。

失ったテンポはずるずると窮地に追い込んでいく。



「『高速罠設置』」



そして、振り下ろした鍬をそのまま地面に。

ハオスはそのスキルは知らない。

だが『攻撃』ではないのは確か。


(今だ、逃げ――)




倒れた身体を起き上がらせ、グリーンタートルが居ない方向へ走りだそうとするも。


――冷たい何かが背を伝う。


『死』の感覚。




《状態異常:麻痺となりました》




次に聞いたアナウンスと共に――彼の身動きは縛られてしまった。



(俺は最前線の、『ダーティーキッズ』のリーダーだぞ……!)



――あの時、ダガーをキルしなければ。

――あの時、冷静に挑発を受け流していれば。

――あの時、己だけでも逃げ切っていれば。




(なんで、なんでだよ――なんで俺がこんな目に!!)



倒れていくハオスの身体。

身動きは取れず。

そんな後悔が、汗と共に流れていく。



『コッ……コッ……』

「お、ねがいだ。見逃して――」

『コッ』



ゆっくりと迫るグリーンタートル。

笑って手を振る罠士。



「じゃあな。人生で一番楽しかったよ・・・・・・・・・・



《貴方は死亡しました》

《ペナルティを負った状態で死亡しました》


《PKペナルティ三段階の為、過去8時間分の経験値およびアイテム、ゴールドの全てが失われます》

《貴方のレベルは15となります》

《レベル減少に伴いグリーンエルド・マップは消去されます》

《始まりの街に移動します》

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