闊歩する大地《グラウンド・トータス》




アレから。

脱獄後、始まりの街・闇市に移動。

「人いねーじゃねーか!」なんて叫ぶリンカを尻目に、案内して終わり。

まあココ罪ポイント相当数無いと来れないからな。

恐らく100が最低だろう。


「……明日はボス倒して、今度こそテメーに追い付く!」

「おう、待ってるぞ」

「でもココ、本当に人いないね」

「……まさか」

「撫でて」


後ナデナデタイムも。気に入り過ぎだろ。


「ばいばい!」

「またな」


そして、今霧となって彼女は消えた。良い奴だったよ……(ログアウト)。


子供をココまで夜更かしさせたのは少し悪いと思ってしまう。

もうちょっと早くフレンドリスト見ときゃ良かったな。


「……看守はまた今度で良いか」


あんなの見せられた後だし、今はグリーンエルドを進みたい。

ああ鍬、リンカに使って貰うの忘れてた。


ま、何とかやろう。

時間は――あと三時間ぐらいあるし。


「ああ、クソ」


闘いたい。

未知の敵に。強敵に。

全く……リンカの熱にでも当てられたか?


この鍬が疼くぜ――ああダメだ、ダサすぎ。

アイアンホー!(鳴き声)。



《グリーンエルド・闇市に移動しました》

《グリーンエルド・戦闘フィールドに移動しました》


緑が目に優しいこのフィールド。

ふと思う、あの牢獄はココにもあるんだろうか――今日は流石に挑まないけど。


空瓶を大量に買い込んで、ポーション持って準備バッチリ。


人が全く居ないせいで、どこで狩っても何も言われない。

これ本当にMMOか?


《グリーンスライム LEVEL20》

《グリーンピット LEVEL20》


「コイツらはもう良いか」


緑になっただけのスライムとウサギを横目に歩く。もはや癒し。

もっと進もう。


グリーンエルド冒険隊(俺一人)はジャングルの奥地へ向かっていく。

そこで待ち受けていたのは――



広がる光景はより深くなった密林。

そこで俺はあぐらをかいて座っていた。


……いや進めよだって?

大丈夫、俺は歩みを止めていない。


《アースタートル LEVEL25》


「サイコー」


ゆっくりゆっくりと密林を歩く、体長2mぐらいのデッカい亀。

俺は、そんな彼の背中に乗って進んでいる。

甲羅の上は意外と快適だ。


ちなみにコイツ、移動速度はかなり遅いものの攻撃力・防御力共に結構高い。

攻撃方法はタックル・甲羅に潜っての回転攻撃。

近付かれたら面倒だが、距離を取れば余裕だ。


『コッ』

「おーよしよし」


アースタートル君の甲羅を撫でる。

気持ちよさそうにしながら、また進んでいく彼。甲羅の上なのに感触とか感じるんだ。


……で、どうして俺がそんな『敵』の上で座っていられているのか?


《スキル説明:罠設置》


捕獲罠:モンスター相手に使用することで、低確率で一定時間そのモンスターを使役出来る。


狩っていたらスキルレベルが上がり。

新たな罠士スキル、捕獲罠をゲットした。

これを設置すると、オレンジ色の小石サイズの物体が現れる。


で、その付近にモンスターが現れると、その物体をモンスターが口にする。


その後は『使役に成功しました』か、『使役に失敗しました』ってメッセージが現れ……成功すると今のアースタートルみたいに首輪が付く。

恐らくだがモンスター限定だろう。俺はその餌を口にしてみても何も起こらなかった。みかん味かな? なんて思ったけど味も無い。ガム替わりにはならないようだ。


というかプレイヤーに首輪とか出来たらとんでもない事に。

流石のリンカでも多分キレる。



『コ』

「良い子だ」



俺が歩けば追従、もしくはこうして騎乗したら自動運転。敵に攻撃したら一緒に攻撃もしてくれる。

チュートリアルを熟して分かったが……罠の解除同様、モンスターに視線を合わせると使役も解除出来る。ヤバいのを使役した時も安心。しかも『解除』以外にも『待機』とか『攻撃』とか色々指示できる。面白い。



なんだコレ強すぎ……そう思ったのは最初だけ。

味方になってくれるモンスターは少ない。

例えばグリーンスライム。不可能。

例えばグリーンピット。不可能。

その後遭遇した奴らも全部。



もちろん何回も試して、である。

HP削ったり状態異常にしたりと……色々やったがダメだった。

ポ〇モ……いやなんでもない。


今のところこの『アースタートル』だけ。しかも一発成功。鈍いからかな?

試しに背中に乗ったら勝手に進んでいくもんだから、このグリーンエルドの散歩をお任せしているところである。


「……こういう時間も必要だよな」

『ココ』


あぐらじゃ飽き足らず、俺は甲羅に寝転がってみる。

頭上に広がる緑は――現実で広がるビル群とは違い癒し効果を与える様だ。


ゆっくりと進む光景。

何時かココも、プレイヤーで溢れかえる事になるんなら。


《スクリーンショットを撮影しました》


「……うん、完璧」


誰も居ないこの緑を写真に収める。

木々の隙間から漏れてくる暖かい日光。

呼吸している葉の群れ。鳥達の影。


『……』

「……ん?」


その映えに我ながら関心していると――彼が足を止めた。


『……コッ。ココッ』

「うあッ!? おい――」


唐突の裏切り。

アースタートル、急発進。

地面に落ちる俺。


そして、そこに広がる『光景』を見て。


「……は?」


目の前。

その『大地』を背に乗せて――ゆっくりゆっくりとソレは進む。

視界を占領する、その頭と手足、甲羅。





《『闊歩する大地グラウンド・トータス』 LEVEL25》




これは『光景』じゃない。

『モンスター』だ。


《ユニークモンスターに遭遇しました!》

《称号:未知との遭遇を取得しました》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る