『共犯者』
「すっげーな」
今、目の前の少女は踊っていた。
牢獄の檻を足場に、ジャンプ。
そして看守の股の間を通るなんて芸当も。
一番はあのナイフの使い方だ。反射した矢を更に打ち落とすとかヤバい。何アレ?
あの看守を圧倒してるぞ……。
「『パワーショット』」
『グ、オオオ……!』
そして今、そのHPをゼロにした。
同じ人間なのかアイツは。
《リンカ LEVEL20 弓士》
「……はッ、はッ……」
立ち尽くすリンカ。
消え行くその看守を見守りながら、余韻に浸る様に。
「……ぁ」
そして、数秒後。
「!!」
「ん?」
「ダガーーー!! へぶッ!?」
鉄格子越しに見ていた俺に向かって突進するリンカ。
その檻に当然激突する。
……締まらねー。
☆
「…………」
「わ、『罠設置』……あっ行けた」
無言で見つめてくるリンカのせいで、五回ぐらい失敗したが。
《落とし穴が発動しました》
いつも通り? それを発動。
輝いてるよ、落とし穴。
暗黒空間が広がるそれに飛び込んで。
「……と」
「……」
リンカが目の前に。
未だ黙っている。
ああ、分かるよ。お褒めの言葉を掛けろと。
でも今回ばかりはマジで感動した。
掛ける台詞は、取り繕ったモノじゃない。
紛う事なき本心だ。
「凄かったよリンカ」
「……うん」
あ、足りない?
もう一発行くか!
「お前、ホントに人間か?」
「……」
あ、俯いた。
選択ミスった。
「あー、今のは人間離れした動きって意味で――」
「……撫でて」
俯いたと思ったら頭差し出して来た。
……やっぱ子供だわ、コイツ。
今だけはクソガキ呼びは止めてやろう。
「……」
「ん~~ッ……」
数年ぶりだ、こんな事すんの。
金髪の小さい頭をゆっくり撫でる。
牢獄中で何やってんのだって? 本当だよ。
「……」
「まだ」
離そうとしたら手で止められた。
何この子、頭に目でも付いてんのか……。
リンカならあり得るな。
「……」
「……ん」
されるがまま、頭を預ける彼女。
これまで幾度と寂しい感じを出してきてたから分かってたけど。
人間離れした強さと、この子供っぽい感じは未だ慣れないな。
ま、ゲームだしリアルの深掘りはしないけど。
この子の父親は、もっと褒めてあげた方が良いと思います。はい。
……居ないとかだったらマジですまん。心の中で謝罪。
「ぁ……」
「ココ気持ちいいだろ。仮想世界でも同じなんだな」
「……うん」
謝る代わりに、頭のてっぺん……
現実じゃ、義弟によくやってたからな。
お手の物。
こんなゲームで活かされると思ってなかったけど!
思えば、アイツも今は高校生か――
「……ダガー」
「!? ああごめんって」
^
実家に居た頃の事を考えていたら声を掛けられた。腕もがっしり抑えられて。
手を止めていた訳じゃないのに、本当敏感な奴だ。
そんな彼女は、俺の腕を掴んだまま振り返ってこう言う。
「もっと、して」
☆
「そろそろ出ないと――」
「やだ」
「何で?」
「出たら、プレイヤー居るだろ」
「……それはそうだが」
「もっと」
「いや、良いけどさ……」
この調子で多分十数分は頭を撫でさせられた。やっぱクソガキである。
早く出ないと看守リポップしちゃうって!
「ダガーと一緒だね」
「何が?」
「同じ、『大罪人』!」
「そのワードを、そんなに嬉しそうに言う奴は初めてだ」
誇らしげに、笑いながら言うモノじゃないぞ。
でも一応称号だから……俺が間違っているのかも。
「ねぇ。あたし、ダガーを頼ってもいいの?」
「ああ」
「……そっか」
今更何言ってんだコイツは……あと一人称忘れてますよ。
まあいいや。もう手が疲れてきたし終わりにしよう。
「今0時過ぎたけど」
「わあああああ落ちなきゃ!!」
途端に騒ぎ出すリンカ。
はい、子供は寝る時間です。
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