『共犯者』



「すっげーな」



今、目の前の少女は踊っていた。


牢獄の檻を足場に、ジャンプ。

そして看守の股の間を通るなんて芸当も。


一番はあのナイフの使い方だ。反射した矢を更に打ち落とすとかヤバい。何アレ?

あの看守を圧倒してるぞ……。



「『パワーショット』」

『グ、オオオ……!』



そして今、そのHPをゼロにした。

同じ人間なのかアイツは。


《リンカ LEVEL20 弓士》


「……はッ、はッ……」


立ち尽くすリンカ。

消え行くその看守を見守りながら、余韻に浸る様に。


「……ぁ」


そして、数秒後。


「!!」

「ん?」


「ダガーーー!! へぶッ!?」


鉄格子越しに見ていた俺に向かって突進するリンカ。

その檻に当然激突する。


……締まらねー。



「…………」

「わ、『罠設置』……あっ行けた」


無言で見つめてくるリンカのせいで、五回ぐらい失敗したが。


《落とし穴が発動しました》


いつも通り? それを発動。

輝いてるよ、落とし穴。

暗黒空間が広がるそれに飛び込んで。


「……と」

「……」


リンカが目の前に。

未だ黙っている。

ああ、分かるよ。お褒めの言葉を掛けろと。


でも今回ばかりはマジで感動した。

掛ける台詞は、取り繕ったモノじゃない。

紛う事なき本心だ。


「凄かったよリンカ」

「……うん」


あ、足りない?

もう一発行くか!


「お前、ホントに人間か?」

「……」


あ、俯いた。

選択ミスった。


「あー、今のは人間離れした動きって意味で――」

「……撫でて」



俯いたと思ったら頭差し出して来た。

……やっぱ子供だわ、コイツ。


今だけはクソガキ呼びは止めてやろう。



「……」

「ん~~ッ……」



数年ぶりだ、こんな事すんの。

金髪の小さい頭をゆっくり撫でる。

牢獄中で何やってんのだって? 本当だよ。


「……」

「まだ」


離そうとしたら手で止められた。

何この子、頭に目でも付いてんのか……。

リンカならあり得るな。


「……」

「……ん」


されるがまま、頭を預ける彼女。

これまで幾度と寂しい感じを出してきてたから分かってたけど。

人間離れした強さと、この子供っぽい感じは未だ慣れないな。

ま、ゲームだしリアルの深掘りはしないけど。

この子の父親は、もっと褒めてあげた方が良いと思います。はい。


……居ないとかだったらマジですまん。心の中で謝罪。



「ぁ……」

「ココ気持ちいいだろ。仮想世界でも同じなんだな」

「……うん」



謝る代わりに、頭のてっぺん……旋毛つむじ辺りを優しく優しく撫でる。

現実じゃ、義弟によくやってたからな。

お手の物。

こんなゲームで活かされると思ってなかったけど!


思えば、アイツも今は高校生か――



「……ダガー」

「!? ああごめんって」


^

実家に居た頃の事を考えていたら声を掛けられた。腕もがっしり抑えられて。

手を止めていた訳じゃないのに、本当敏感な奴だ。

そんな彼女は、俺の腕を掴んだまま振り返ってこう言う。



「もっと、して」




「そろそろ出ないと――」

「やだ」

「何で?」

「出たら、プレイヤー居るだろ」

「……それはそうだが」

「もっと」

「いや、良いけどさ……」


この調子で多分十数分は頭を撫でさせられた。やっぱクソガキである。

早く出ないと看守リポップしちゃうって!


「ダガーと一緒だね」

「何が?」


「同じ、『大罪人』!」

「そのワードを、そんなに嬉しそうに言う奴は初めてだ」


誇らしげに、笑いながら言うモノじゃないぞ。

でも一応称号だから……俺が間違っているのかも。


「ねぇ。あたし、ダガーを頼ってもいいの?」

「ああ」

「……そっか」


今更何言ってんだコイツは……あと一人称忘れてますよ。

まあいいや。もう手が疲れてきたし終わりにしよう。


「今0時過ぎたけど」

「わあああああ落ちなきゃ!!」


途端に騒ぎ出すリンカ。

はい、子供は寝る時間です。

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