余波


《始まりの街・非戦闘フィールドに移動しました》


《アオイ 魔法士 LEVEL9》

《ふいな 戦士 LEVEL8》


フレンドであるふいなさん。

彼女は、ダガーが脱獄後に檻へ入ってきた、『罪ポイント所有者』の一人。

私とほとんど同じ様な理由でそこに入監されたようで……意気投合して友達になった。

最初はその、色々あったけど。


そんな彼女と一緒に、狩りを終えて街に戻ってきた時。

そこは騒々しい事になっていた。


――「さっきまでの何だったんだ?」「分かんねえよ、急に引いて」「看守ってあんなのだったんだ、初めて見た」――


「アオイさん、どうかしたんですか?」

「……あ、いえ。ごめんなさい」

「はは。何かさっきまで門番? とか看守? さんが暴れ回っていたらしいですね」

「ええ、何だか落ち着かないわ……それに」

「それに?」

「……ッ。いや、ごめんなさい。何でもないの」


《――「これも手が滑っただけ?」――》


思い返す彼の事。未だに顔が熱くなってしまう自分が居る。

『ダガー』。牢獄の中、あの人と一緒に居たのは未だ現実とは思えない。


そして彼は、騒ぎ立てる者達が言う『看守』を倒したのだ。


――「アレ裏ボスってマジ?」「早すぎだろいくらなんでも……」「でも強すぎて倒すのは現実的に不可能らしい、少なくともレベル10代とかじゃ」――


――「牢獄の中でしか出現しないから、情報集めも難航してるらしいぞ」「ソレがさっきまでココに居たんだぜ……」「スレの荒れっぷりが凄い」――



聞こえてくる言葉が、ダガーの凄さを裏付けていく。

なぜかとっても誇らしい。


「……何か嬉しそうですね、アオイさん」

「えッ!? そうかしら?」

「ええ、とても」

「それは恥ずかしいわね……」


ふいなさんが笑って言う。

……別に、彼とは今は何の関わりも無い。


フレンド登録もしっかり断られたし、ばっさりと。ソロ派だからって。

その割に去り際は、彼は後悔しているような様子で……それが未だにひっかかって――ああもう!


「極悪人さんがいるものですね~看守さんが8人? 出てきたらしいですよ。罪ポイントのある私達が言えませんが」

「……案外そこまで悪い人じゃないかもしれないわよ?」

「え?」

「ただ、悪ふざけ……もしくは何かを試したかっただけとか――」


なぜか浮かんだ、その人物を庇う様に。


なんて話をしていた時。

突如と、男性二人が迫る。


《ばっさん LEVEL6》

《ありお LEVEL5》


「そこのお二人さん、パーティ組まない?」

「狩り休憩?」


「――ごめんなさい間に合ってるわ。行きましょふいなさん」


「えっちょっとま――」

「おーい――」


「……あ~そういうことなので~」



すぐに断り、ふいなさんの手を取ってスタスタと離れる。

ダガーとは全く違う、下心しか感じない目線。


「ほんと、アオイさんってズバッ! と言っててカッコいいです~ズバズバ!」

「そんな事ないわ。大事な時に、私は……」


《――「ま、待って」――》


彼が行ってしまう時、『やっぱり私も連れてって』――なんて言ったらどうなっていたのだろう。昨日は檻の中でずっとその事ばかり考えていた。

ウソ。ログアウトしてからも。


「人生そんなものです、アオイさん」

「そうかしら」

「ええ! それじゃもっと狩りましょ、スライムさんを八つ裂きにしてやります! ズババ!!」

「言ってる事が怖いわよ……」

「あはは~!」


笑って、戦闘フィールドに二人で出る。

草原が私達を包み込む様に広がった。


「……また、貴方に会えると良いわね」


その、二度目の台詞を呟く。

この莫大な世界で、彼は今何をしているのだろうか?


今も落とし穴で看守を倒してたりとか。

いや、もしかしたらもっと凄い事をしているのかも。

普通の人なら思いつかない様な行動を。


なんて。

そんな事考えても仕方ないのだけれど――





「――!!」

「えっなんですかこのアナウンス……フィールドボス? プロゲーマーさんでしょうか? ってこの名前!!」

「だ、ダガー……」

「まさかあの人が……早いですねぇ……あの、アオイさん? アオイさーん! アオイさ――」


立ち尽くす。

その答えは、すぐに出た様だった。

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