エピローグ:『世界を切り拓く者』



オレの中では、未だに曇った何かが覆っていた。

ゲームを始める前から。

ずっと最初、職業選択の時点で。




【フリリバ】初心者質問スレ2【風呂場】


380:名前:名無しのプレイヤー

ポーション買った!!!


381:名前:名無しのプレイヤー

武器買った!!!


382:名前:名無しのプレイヤー

皆えらいねぇ


383:名前:名無しのプレイヤー

質問スレ立ち過ぎ


384:名前:名無しのプレイヤー

乱立やめろ#####


385:名前:名無しのプレイヤー

おかげで質問来ないんだが


386:名前:名無しのプレイヤー

あの~質問なんですけど


387:名前:名無しのプレイヤー

>>386

なに?????


388:名前:名無しのプレイヤー

>>386

何でも聞け


389:名前:名無しのプレイヤー

>>386

答えたくてうずうずしてるんだわ


390:名前:名無しのプレイヤー

あんたらって暇人ですか? わら


391:名前:名無しのプレイヤー

解散


392:名前:名無しのプレイヤー

解散


393:名前:名無しのプレイヤー

荒らし消えろ!!!


394:名前:名無しのプレイヤー

質問ですけど、初期の職業はおすすめとかありますか?


395:名前:名無しのプレイヤー

>>394

一番は戦士かな~やっぱり

何たって自分に合う武器が色々選べるしスキルでステータスも良い感じに高まる

逆にキツイのは生産職とか、あとは冒険者とか商人、召喚士も結構きついよ

やっぱりド定番の職が一番だね


396:名前:名無しのプレイヤー

>>394

ソロ? だったら軽戦士もありだよ

君がまだ若いのなら激しく動ける軽戦士は良いかもね


397:名前:名無しのプレイヤー

>>394

盾士も良いぞ! 何たって硬い 硬さは正義!


398:名前:名無しのプレイヤー

フレンドとか居るならやっぱり弓士とか魔法士だね

火力が全然違う


399:名前:名無しのプレイヤー

DPSってわかるかな? 秒間火力っていうんだけど

魔法士はそれが優秀だからパーティに居ると嬉しいね


400:名前:名無しのプレイヤー

皆さんありがとうございました!! 


罠士にします!


401:名前:名無しのプレイヤー

消えろ


402:名前:名無しのプレイヤー

やっぱ荒らしだコイツ


403:名前:名無しのプレイヤー

ざけやがって……


404:名前:名無しのプレイヤー

解散


405:名前:名無しのプレイヤー

解散



《クロセ 戦士 LEVEL3》


サービス開始三日目。オレにとっては二日目。念願のFLだ。

失敗したくないからしっかり攻略を見回ってスレも見た。

どうせならサクサク行きたいし、仲間も欲しいしな。


三日目ですでにこれだけ情報が出ているのは本当にすごいと思う。

おかげで楽出来るし。



《ブラウザーを閉じました》



お世話になった掲示板を閉じ、オレは始まりの街を歩いている。

これまでVRMMOは数あれど……初のフルダイヴとあって何もかも違う経験の連続だった。


『戦士』はスレにある通り優秀な職業で、ソロ性能が非常に高い。

パーティー内でもタンク・アタッカー両方熟せるし。

一番の特徴は装備可能武器の多さ。近接武器なら大体何でも行ける。



《『彩』 弓士 LEVEL5》

《『☆星』 戦士 LEVEL9》

《『胡椒』 戦士 LEVEL8》

《『佐藤』 魔法士 LEVEL9》

《『ゆっしー』 戦士 LEVEL3》



通り行くプレイヤーを眺めて。

自分もそんな彼らと同じようにポーションを購入。



《『センセー』様からメッセージリクエストが届きました》

《メッセージリクエストを承認しました》


《『クロセ』、こっち手空いたら来いよ~》

《どうも~。もうちょっとしたら行きます》



この人は、ログインしてすぐ出会った人で……慣れないプレイヤーに色々教えているらしい。

運が良かった。オレのFLは間違いなく順調に進んでいる。


――なのに。

ずっと、何かがもやで隠れていて。


それを晴らす様に、青く広がる仮想世界の空を見上げた。



「……え?」



――そんな時。

視界の隅。


映ったのは『人影』。

決して人なんて居る訳もないのに。



《リンカ LEVEL11 弓士》

《ダガー LEVEL20 罠士》



「あ、あれって……」



思い出す。

その名前を――



407:名前:名無しのプレイヤー

そういやレベル20の罠士見たわ今日

マジで目を疑った


408:名前:名無しのプレイヤー

コラ画像だわそれw 


409:名前:名無しのプレイヤー

だまされてる奴居るんだ 本スレじゃもう広まり過ぎて馬鹿にされてるw

うっきうきで報告する奴のおおいことおおいこと


410:名前:名無しのプレイヤー

顔、パターン1とそっくりだからねww


411:名前:名無しのプレイヤー

あからさまな合成乙です




遠くで声は聞こえない。

だが、その少女は凄く楽しそうに跳ね回り……男は呆れるように眺めていた。


――「帰ってこい、置いて帰るぞ」――



そして落ち着いたのか――彼らはその屋根に座り込む。



「……」


――「話を戻そう」――

――「そうだった……リンカちゃん迂闊だぜ」――


吸い込まれる様に、オレはその武器屋横……影の辺りに移動する。

そして聞こえる彼の声。


はっきり言おう。盗み聞きだ。


罠士のはずなのにレベル20、そして『狂鬼』の二人がどんな会話をするのか。

気持ち悪いのは重々承知。

それでもやはり、気になってしまった。





――「え、テメーそこのボス倒したのかよ」

「うん」

「攻略じゃ報告無かったぞ……お前ってもしかして凄い?」

「罠士の罠が凄いんだよ」――



耳を疑う。

罠士がどうやって? というか誰も倒したこと無いだろ? 罠士どころか全職!

今すぐにでも彼を問いただしたい。


そんな衝動にすら駆られる。

だが、当然声など掛けられない。



――「現に、こんな事まで出来てるだろ?」

「……それはそうだけど。で、でも罠士だろ? 普通思わないぜ!」――



その少女は、オレの考えを代弁する様に言ってくれた。

……そうだ。

スレじゃ『論外』のその職業が、どうやって前人未到のボスを倒せると思うのか。


そう、思っていた。



「なあ、リンカ――」



彼の声は、風に溶け込む様に優しかった。

束の間の静寂は、周囲の雑音を掻き消す様。


ただオレは……次の言葉を待って。



「その罠士を愚弄した奴ら、見限った奴らはこの罠達の可能性に気付けてない、いや違うな、気付こうともしてない」


「今――下の道を歩くプレイヤー達が、上に居る俺達にまったく気付かず素通りしていく様に。誰も見ようとしない世界にはな、それだけ『何か』が眠っているんだ」


「罠士には罠士の可能性がある、そしてソレを俺は知ってる」



聞き入っていた。

彼のその台詞が、すっと自分の中に入ってくる。

盗み聞きのはずなのに――他人事の気がしない。



「……っ」



そして今更になってそこから離れた。

走って、駆け出して。

自分の行いを恥じたのもある。


でも――今。

そのまま立ち止まって居たら、オレがどうにかなってしまいそうで。


この衝動がひとりでに、どこかに行ってしまいそうで。



《始まりの街・戦闘フィールドに移動しました》



あての無い疼きは、草原を前にしてより高鳴る。

思い出せと脳が回転を始めていく。



「ああ。クソっ……」



オレがFLを買う前から。

何の情報も知らない時――決めていた事があった。

でもソレは、ネットの海に潜れば呆気なく忘れてしまっていた。

我ながら意志が弱いと思う。


《――「誰も見ようとしない世界にはな、それだけ『何か』が眠っているんだ」――》


でも、あの時。

彼の言葉を聞いて思い出した。


《センセー様にメッセージリクエストを申請しました》

《メッセージリクエストが承認されました》


《『どうした?』》

《『すいません、やっぱり一人でやってみます』》

《『……? 了解』》

《『本当すいません、それじゃ』》


《センセー様とのメッセージを終了しました》


もう迷わない。

オレはメニューからそれを選択する。




「……『メニュー』、『転職』」




『憧れ』。

その対象は、大好きな『物語』の中だ。


ずっと――

ランドセルを背負った時から、満員電車に揺られる今でも。


未知の世界の旅路。

炎の竜の討伐。

黄金郷エルドラドへの到達。


紙、電子。大きなスクリーン。

スワイプする小さな板の中でもそれは輝いて。


一歩踏み間違えれば落下。

常に危険と隣り合わせ。

正解の分からない選択肢。


そんな心が躍る英雄譚は、ずっとオレの憧れで。


その主人公は――いつだって――



《転職を行います。本当によろしいですか?》

《貴方のレベルは1となり、スキルもリセットされます》

《本当によろしいですか?》



「『構わない』」



《承知しました。転職案内を行います》

《五つの質問から、もしくは具体的な志望職業があれば――」



「――『冒険者』で。なれるかな?」


《可能です》


「そっか。じゃあ頼むよ」



一番最初、決めていたこと。

それは――そんな憧れの職業となって、この世界を歩くことだった。


しかし意思の弱いオレだ。

そんな考えは流れてくる情報によって消えて。

いつの間にかその存在は頭から無くなってしまって。

それでもずっと忘れられず、もやとしてぼんやりと残っていて。



《冒険者に転職しました!》



そして今。

ようやく、一歩を踏み出せた。



《スキルリセットが行われました》

《レベルダウンが行われました》



「あーあ、やっちまった」


笑って、その下がりきったステータスを眺める。


どうしてか全く悔いが無い。

心の靄も、嘘みたいに消えていて。



《――「罠士には罠士の可能性がある」――》



その台詞が頭の中に木霊す。

彼の様に――ソレを見つけられるよう。


今は一人でこの職業を見つめてみたい。

彼みたいになるには、きっとそうした方が良いと思った。



「さて……まずはスライムからだな」



掲げるは、照らされきらめく片手剣。

駆けだす、揺れる草原へ。



行こう――広がる世界の彼方まで!

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