偉大な兄弟はこう言った。

『飛びたいという欲望は、空という無限を自由に飛翔する鳥たちを、羨ましがった先祖たちによって受け継がれてきたもの』。


飛行機にヘリ、空飛ぶ車なんかも現れ始めている今……それでも自由に空を飛ぶことに人類は憧れている。


して、あらゆる方法で空への挑戦は為されてきたが――この『罠』で空を飛ぼうと考えた者はまだ居ないはず。


だからこそ楽しくて仕方無いんだ。

大袈裟に言えば人類初の挑戦だからな!


あ、いたらごめんなさい。


《まもなく一日のプレイ上限時間に到達します》


《ログアウトして下さい》


準備をしていたらそのアナウンスが流れた。

しかし無視。今の俺は誰にも止められない。

……まあ、途中で終わったらその時で。



「やるか」



値段二倍ポーションを購入、早速使用しHPを回復して、いざ実践。

闇市は本当に人が居なくて良い、好きに検証し放題だ。


「『罠設置』……」


《地雷を設置しました》

《地雷が発動しました》


「ッ!!」


この爆発の衝撃に合わせてジャンプ!


「ぐがッ」


二秒後、横向きに飛んで地面とキス。

思っていたより難しい。

というより、爆発の衝撃で方向なんて定まらないんだ。


……いや、待てよ。方向?

検証記録表を開く。



『検証ナンバー24』

落とし穴が発動し、穴の中に落ちたモンスターは、一秒後解除され地面に戻る。

その際、瞬間移動というわけではなく、対象は『上昇』している。これまでの検証記録でも示していた通りこの上昇力は結構馬鹿にならない。

試しに落とし穴の中でジャンプすると、上手くタイミングを合わせればジャンプ距離が増えた。

以下、これを『穴ジャンプ』とする。


↓リンカによる計測記録↓


普通にジャンプ……1mぐらい。

穴ジャンプ……1m50㎝ぐらい。リンカの背を飛び越えた!


よって、穴ジャンプは上手く使えばどこかに登る時とかに使える。

後は回避、残念ながら空を飛ぶとまでは行かない。



「……これだな」


思えばこのノートも大量に書き込んだ。

無限に書けるから凄いよこれ。

VRのたまものだ、しかし分厚さが生まれないのは悲しいね……。あの厚みが良いのに。

あっキーボード入力実装早くして下さいお願いします。


「……落とし穴は真っ直ぐ上に上昇する、これを活かす手はない」

「後は地雷をどうやって設置しよう」

「落とし穴の中で爆発させれば、その分爆風が『穴』の中で留まるからもっと威力が増すはず」

「加えて落とし穴の上昇力」

「……これ、とんでもない事になるんじゃ」

「前提として落とし穴と地雷、ほぼ同時に設置しなきゃいけない」

「……そういえば、何かスキル取得してたよな」



いつもの様に一人でぶつぶつと呟きながら、思考をぐるぐる回していく。

黙って考えるよりこっちのが効率良い。

人が居ないから気にしなくてOK。




《スキル説明:同時罠設置》


MP10を消費して発動。

右手と左手で一つずつ、同時に罠を設置出来る。



レベル20で取得したそのスキル。

中々に優秀ではあるものの、高速罠設置の方が瞬時に発動する分には早いんだよな。



「……上手くいくと良いが」


まあやってみよう――


「『同時罠設置』」


右手で落とし穴を。

左手で地雷を。

二つを俺の足下に設置する。

位置は重ねるのでなく数㎝離して。


重ねてしまうと、落とし穴にハマる時に同時に地雷踏んじゃうからね。




「……ふう」



深呼吸。

カウント、3.2.1。


0。


《落とし穴を設置しました》

《地雷を設置しました》

《落とし穴が発動しました》


「ッ――!」


足元、落とし穴が発動。

して狙い通り、近くにあった地雷も穴へ一緒に落ちた。


黒い円柱状のそれを、身体をくねらせ必死に避ける。


落下の衝撃で地雷が爆発……なんて事はなく、そのまま穴の中に治まった。

地雷は『プレイヤー』、『モンスター』が触れる事が発動条件と書かれていたからだ。ちょっと怖かったけどね。


「あっぶな――」


なんとか脚を動かして地雷に触れない様に。

そして一秒経過。

足下が『上昇』していく。


「ここだ――」


そして地表に到達する0.5秒前(大体)に。

俺は軽く跳んで――地雷を両足のつま先で踏む!


これは、俺が信じてきた『落とし穴』と新鋭の『地雷』の融合だ。

頼む。成功してくれ――



《地雷が発動しました》



「うおおおおッ!?」



馬鹿デカい衝撃が両足の足裏を襲う。

不安定な何かに立っている、そんな感覚。

必死だった。


穴の中、狭い空間の中で爆風が暴れる。

見えない力が俺の脚を押す。

地表に出てもそれは同じ。


耐えるんだ。

バランスを崩さない様両手で整える。




――そして。


ふと、『下』を見れば。




今――俺が見ている光景は。





「……と、飛べた……!」





地面から大体リンカ×5ぐらい……つまり5mは楽勝で超えている。


マンション三階ぐらいまでの高さに俺は居て。心地よい風。

何ともいえぬ浮遊感と共に――



《プレイ上限時間に到達しました》


《ログアウトします》


そのまま初日の『FL』を終える。


ぶっちゃけこれはただの大ジャンプ。

『飛行』とは到底呼べないが――いつかきっと飛んでみせよう。


ブラックアウトする景色を眺めながら、俺はそう誓うのだった。

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