別れ
「……レベル上がりすぎ」
滝のようなアナウンスを聞いてパチンコの音に中毒になる奴の感覚が分かってしまった。
ギャンブルとかやらないけど。
「ぁ……うそ……ッ」
「口開いてますよ」
「――ッ。失礼」
そういえば見てた人居たの忘れてた。
この人、落とし穴でツボってた人だっけ。
ぶっちゃけヤバい人だと思ったよ。
でも、罠士の事を全く軽蔑しないから悪い奴じゃない。
ちょっと共感して嬉しかったし。
あの落とし穴ハマった奴の顔面白いもんな。
それにしても笑いすぎだと思うけど。アギトが落ちたシーン見せたい。
「……出る? アオイ」
「ど、どうしようかしら、あはは」
「じゃあさよなら」
「……で、出るわ!」
「了解……『罠設置』」
《罠設置を発動できませんでした》
……そこはさっと行ってくれよ。
☆
ひたすら罠設置を繰り返す事五回。
「お、行けた」
綺麗に鉄格子の下に穴が出来た。
これも安定させる裏技みたいなのが欲しいもんだ。
「は、入るわよ」
「おう」
《落とし穴が発動しました》
「きゃッ――」
「そのままこっち側に身体を寄せて」
「……で、出れたわ! 出れた!」
「うんうん」
「ふふ、楽しいわねこれ」
「だろ?」
「ええ! ありがとうダガーさん」
口元を抑えて笑うアオイ。名前通りの綺麗な髪が揺れる。
テンションが上がっているからか笑顔が眩しい。
最初はあんな暗い顔だったのにまるで別人だ。
「? なにか顔についてるかしら?」
「い、いや何でもない」
あっヤバい。この人めちゃくちゃ可愛い。
凄くタイプ。
リンカとかいうヤンチャな子供と話してたせいか、このお上品な感じが凄く刺さる。
肩ぐらいまであるウェーブが掛かった髪に、静かな笑い方。
なんというか、お姫様みたいだ。
身長は低いけど確実に俺より精神年齢は高い。『精神』年齢ね! ここ大事だから!
「でも、ここからどうするの?」
「……そこなんだよな。とりあえずその出口から様子を伺うけど」
「そうね。私が行くわよ」
「え」
「貴方は待ってて。もし何かあったらすぐ死んじゃうでしょ?」
「ああ、そうだけど回復すれば良いし……アオイは」
「……私、久しぶりにあんなに笑えたの。これはお礼よ。それと、協力もしなかった償いだと思って。PKペナルティもゼロだし死んでも痛くないわ」
「ええ……別に気にしてないぞ」
「そ、れ、で、も! ね?」
何この人。良い子過ぎるんですけど。
天使か?
お迎え来たのかな。牢獄のはずなのに明るいよ。
「それじゃ、ちょっと行ってくるわね」
「ああ。頼む」
まあ俺もペナルティ抱えて死にたくないし、ポーションも使いたく無いし。
アオイがそこまで言うなら甘えよう。
そのまま彼女を見送る。
「――!」
「ど、どうした?」
「来て! ダガー!」
「……?」
笑うアオイに呼ばれ、俺はその出口へ。
すると――
《始まりの街・牢獄を脱出しますか?》
《脱出した場合、掛かっているPKペナルティは解除されます》
《本当に脱出しますか?》
「……良いね」
「でしょ?」
「ああ。まさかココでゴールとは」
「じゃあ――」
「それじゃ、アオイはここでさよならだな」
「え?」
一歩戻り、俺は彼女に言う。
「恐らくだがココでアオイも脱出したらマズい」
「そう、なの?」
「ああ。恐らくこのアナウンスの感じは――『罪ポイント』が加算される、もしくは何らかのデメリット付与……分からないけど何かある」
『本当に脱出しますか?』とかご丁寧に付いてる場合は絶対何かあるんだ。
この場合は罪ポイントの大量加算か超絶デメリット。そんな気がした。
初めてPKした時もそんなアナウンスだったし。
美味しい話には裏がある。
当然の事だ。
「!」
「俺は構わないんだけど。アオイはそうじゃないだろ」
「……ええ。そうね」
危なかった。
彼女はまだ『そこまで』罪を重ねていない。
感覚で分かる。
まだ、『普通』で居られる範囲だ。
NPCからもそこまで嫌われていないだろう。
「一応確認するけど、罪ポイントいくら?」
「え? えっと、1だけど」
凄い! 今確認してみよう。
俺は――
「うわ」
「?」
「俺、100。百倍」
罪、重ね過ぎちゃった。
☆
《落とし穴が発動しました》
「きゃッ、ふふ……やっぱり楽しいわねコレ」
「それはどうも」
今度は一発で成功。
するすると彼女は元の場所へ。
「……ね。ダガー、フレンドにならない?」
「俺ソロ派だから。ごめんな」
「え……」
鉄格子越しの会話。
悲しそうな声だった。
……本音はめちゃくちゃ登録したい!
性格もろもろタイプだし。
アバターも声も美しいし。眼福。耳福。これ以上無し!
でも、彼女は綺麗すぎるんだ。
ゲームとはいえ、アオイには俺の影響を受けて欲しくないんだよ。
「後はその、分かるだろ? こんな事しちゃったし」
「ッ……」
もう分かっている、俺はもう『普通』じゃない。
これは事実だ。変な厨二病ではなく。
プレイヤーを倒しリンカと連んで、罪ポイントは大量に蓄積。
NPCからはあの扱い。そして今回の脱獄。
『非現実』を目的に遊んでる俺としては、凄く楽しいから良いんだが。
問題はアオイだ。
『普通』の彼女は、この先の楽しい楽しいFLライフが滅茶苦茶になりかえない。
もしアオイが俺と一緒に居るところなんて見られたら、彼女には悪い印象が行くかもしれない。NPCにも影響あるかも。
それだけは勘弁なんだ。
「じゃあなアオイ。多分もう会わないだろうけど」
「……ッ」
《アオイ様からフレンド申請が送られました》
《フレンド申請を却下しました》
「だからダメだって」
「……冷やかしよ」
「そっか」
「ッ」
「うおッ……これは、手が滑っただけ?」
鉄格子。
そこから伸ばされた手が、俺の腕を掴む。
「――ええ! そうよッ!」
「それなら仕方ない」
「貴方みたいな悪い人、もう会いたくないもん」
膨れてる頬が凄く可愛い。高貴なリスみたい。なんだそれ。
でも、言ってる事と行動が正反対だよアオイ。
なぜその手を離してくれない? 俺の心拍数高すぎて死んじゃうって!
「……きゃッ」
「ま、俺も“汚れてない”子とは合わないな」
掴んだままの手を強引に退ける。
弱々しいと思っていたその手は、案外強かった。
いや、俺のSTRが低いだけか……。
「……こんなところに居る私が?」
「アオイは悪い奴じゃないし」
「ッ――どうしてそんな事が!」
「きっと悪いのは、アオイに『そうさせた』奴だ。そうだろ? 何となく分かる」
「……!」
会話しながら出口に着く。
もしアオイが悪人だったら俺は世界全てが悪だと思う。はっきり言える。
恐らく美しい彼女におびき寄せられた『虫』が暴れたんだろ、アギトみたいなのが。
……でも、これ以上は流石に恥ずかしい。
檻を通しての会話なんて、映画だけで十分だ。
そういうのは、こんな『顔面パターン1』の俺じゃないイケメンにやってあげて! ノリノリで返してくれるから。
残念ながら、俺には歯が浮くようなセリフは吐けないんで。
「それじゃ」
「ま、待って――」
背を向けて手を振る。
その声は聞かなかったことにしよう。
落とし穴に牢獄に、彼女の出会いに感謝を一つ。
辿り着いたはそのゴール。
さあ、脱出!
《始まりの街・牢獄を脱出しました!》
《称号:脱獄者を獲得しました!》
《罪ポイントが加算されました》
《罪ポイントが加算されました》
《罪ポイントが加算されました》
《PKペナルティが解除されました》
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