牢獄


《始まりの街・牢獄に移動しました》

《貴方の拘束時間は一時間です》

《牢獄についてのチュートリアルを開始しますか?》


気付けば俺はそこに居た。

目の前には鉄格子がそびえ立ち、

3畳にも満たない……言うなればアレだ、ちょっとデカいエレベーターの中ぐらいのサイズの空間。


勿論その空間には、粘土か何かの、ねずみ色の頑丈そうな壁が囲っている。


「『受ける』」


《貴方は非戦闘フィールドでPKペナルティを受ける行動を行いました》

《よって、その行為に応じた時間をこの牢獄で過ごしていただきます》

《なお拘束中、ログアウトをしても拘束時間は過ぎていきます》

《牢獄チュートリアルを終了しました》


「なるほどな」


要は一時間、現実戻って頭冷やせバカって事ね。

嫌です。


「……よく出来てる」


もちろん今までお世話になった事はないが。

見れば、牢獄部屋は俺以外にもある。

数にして10――だが当然誰も居ない。

恐らくログアウト中、もしくは普通に居ないのか。

……正直驚いた。こういう形で、しっかりと『罰』が課せられるとは思わなかったよ。


「経験値の減少、スキルも変動なし……アイテムもあるな」


形として失ったものは無い。

ぬるい――と思ったが、俺がやった行為がそこまで悪質なモノじゃなかったからだろう。


落とし穴ハメただけだし!


で、後は……。


《始まりの街・看守 LEVEL???》


『……』

「出してくれー!」


『……』

「俺は無実だ!」


声を掛けても無反応。

甲冑から覗く無機質な瞳がこちらを見つめるのみ。


この牢獄部屋には門番よりも強そうなNPCが徘徊している。

黒い甲冑に、黒い大剣。

門番ですら一撃なのに、完全にオーバーキルである。


……まあ状況判断としてはこんなものだろう。



「検証開始!」



『グアっ!?』


《落とし穴が発動しました》

《拘束時間が増加しました》

《貴方の拘束時間は8時間45分です》


流れるアナウンスと看守の悲鳴。遊び過ぎた。

色々試した結果、どうやらこの看守とやらにちょっかいを掛けると拘束時間が伸びていくみたいだ。

後は、鉄格子の中央についてた鍵穴っぽいのをいじってみたりするとアウト。

鉄格子をぶん殴ってもアウト。


とにかく、反抗するなという事らしい。

じゃあ反抗します。


「――『罠設置』」


《毒罠が設置されました》


俺は鉄格子から腕を出来る限り伸ばし、看守の歩行ルートの地面に設置。

こんな感じで余裕でスキルも発動できる。


ちなみに素手戦闘スキルも発動可能。

ハリウッド映画おなじみの、牢獄の中で拳をシュッシュッする外人っぽい動きも出来るぞ。


『グオっ……!?』


《始まりの街・看守 LEVEL??? 状態異常:毒》

《貴方の拘束時間は9時間です》


「よっし!」


毒罠三個目でようやくその状態異常に。

ちなみにコイツは賢く、看守の視界がこちらを捉えている時に罠を設置すると、もれなく破壊してくる。

逆に言えば、こちらを背にしている時に罠を仕掛ければ同じ場所だろうが問題無く引っかかるが。


そして――看守のHPは落とし穴で2%づつ、毒罠による状態異常の毒で10%減る。

少ないと思うなかれ、現在落とし穴を35回引っかけて、毒罠に今引っかかったから合計80%減らした。

罠設置がMPを消費しない恩恵を受けまくっているのだ。


……自動回復でもあったら終わってた。



「このまま倒し切れれば良いが――あ」



疲れからか、そんな事を呟いてしまう自分を呪う。

完全にフラグを立ててしまった。

終わった。



『グオっ……』


《落とし穴が発動しました》

《貴方の拘束時間は9時間45分です》


アレから、毒罠を仕掛けるも状態異常に掛からなくなってしまった。恐らく連続では毒にはならないんだろう。他のモンスターでもそうだったからな。

これでフラグを回収したと思いたい、なぜなら後は落とし穴を連打すれば良いからだ。


《始まりの街・看守 LEVEL???》


「……は?」


見れば、体力が10%を切った瞬間出口の方で座り込んでしまった。

そして――


『……』


鞄らしきアイテムから、ポーションを飲む看守。

みるみる内に体力は100%へ。


「……マジ?」


その呟きが、情けなく牢獄部屋に響いていく。

……仕方ない。


プランBで行くか。





メモ


罠設置だが、落とし穴3つを設置すると毒罠が設置不可になった。

つまり罠の種類問わず3つまでということになる。仕方ない。


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