行きも地獄、帰るも地獄


子供は寝るのが早い。時刻は夜24時。

現実へと戻るリンカを送り届け、俺は街中に戻る。

で、早くもレベル10。


えっと、始めたのが20時だからあと4時間だな。

このゲームはプレイが一日8時間まで。

多分やり過ぎたら脳がやられるんだろう。


ちなみにFLで言う一日の始まり……つまり制限がリセットされるのは『6時』だ。

0時じゃない。ココ大事。

俺みたいな社畜が困るからね。ネトゲなんて日を跨いでからが本番です。

運営は良く分かってる(上から目線)。

仕事? んなもん考えるな。終わってから考えよう。


「なにしようかな」


時間はまだまだある。

毒罠の検証も落とし穴の検証もやりたい事だらけだ。

だがその前に、一応武具店に行くか。多分装備不可だけど。



《始まりの街・武具店》


『……あぁ?』


武器を見るためにそこへ行けば、随分と素っ気ない態度の店主が居た。


《――「らっしゃい! 見ない顔だな、新入りかい? 安くしとくぜ!」――》


過去の彼の対応を思い出せば、全く違う。


《武器を見る》


現れたその選択肢を選ぶと、武器一覧が並ぶが。


『……ちっ』


おいコイツ今舌打ちしなかったか?

いくらなんでも態度悪すぎだろ。

これも罪ポイントの影響か。




ナイフ

120G

※職業制限により装備不可



ソード

120G

※職業制限により装備不可



アックス

120G

※職業制限により装備不可



ロッド

120G

※職業制限により装備不可


ハンマー

120G

※職業制限により装備不可



とりあえず腹が立つ店主は無視して、その武器を見る。

やっぱり無理みたいだ。他にもあるけど全部無理!

……よく見たら、値段も上がってる。確か全部100Gだったのに。


「何か最初より値段上がってるけど?」

『……ああ? 買わないなら帰ってくれ!』

「こっちは買うつもりなんだけど」

『うるせぇ、どっか行け』

「この値上げは無いだろ、説明しろクソ店主」

『んだと!?』


ココまで顕著に現れると、面白かったので挑発した。

茹で蛸の様に赤くなるその顔。


「ぼったくり野郎」

『……ああ? 帰ってくれ』

「タコ星人」

『うるせぇ、どっか行け』

「商売向いてないよ」

『んだと!? 帰れ!』


「……なるほど、口喧嘩程度じゃ意味ないか」


どうやら罵倒を吐いても、メニューに移っている武器の値段は上がらないらしい。

罪ポイントも増えない、やはりこんなもんじゃコレは増えないと。


どうしようかな。

NPCだと分かっていても、ぶっちゃけイラッときた。


《購入画面を終了します》


とりあえず買い物を終わらせて。

今まで出来ていなかった、その検証を開始する。


「『罠設置』……おいおい出来るのかよ!」


《落とし穴を設置しました》


「『解除』!」


適当な場所で落とし穴を作ろうとすれば、当たり前の様にできた。

あわてて視線を設置した落とし穴に合わせ解除。


「……『ストレート』、やっぱ無理だよな」


《現在『ストレート』は発動できません》


拳を振りながら唱えたのに不発。アナウンスでもそう流れた。


……罠は攻撃扱いじゃないからか?

それじゃ『罠設置』のみ行って、罠の発動はしないんだろうか。


丁度良い。あのクソ店主にやってやろう。

楽しくなってきたな!


『ちっ……らっしゃい』

「『罠設置』」


落とし穴を選択、三秒待つ。

すると――


『うあっ!?』

《落とし穴が発動しました》


「ははは」


今、心の底から笑えた気がした。

検証結果、特に問題なく発動可能。

目の前の武具店の店主は、情けない声を上げて穴に落ちる。



――だが、そんな楽しい瞬間も。


《罪ポイントが加算されます》

《PKペナルティが発生します》

《PKペナルティ第一段階》


「え」


流れたそのアナウンスで、一気に冷める。

なあ、これ。マズいんじゃないか?


「おい……アイツ」

「やばくね?」

「やりやがった」


始まりの街、その中央で。

赤くなった己の名前。


――いや落ち着け。

この場所では、『攻撃』が出来ない。

俺を狩る者は居ないはず。


「……っぽいな」


見れば、俺を襲うのは『視線』だけ。

向かってくるプレイヤーは居ない。


「プレイヤー……」


呟く。

それが引っかかったからだ。


そうだ。

例えば、今引っかけた店主は――


『……』


何も無かったかの様に立っている。

コイツは大丈夫。

それでも何か、嫌な予感がするんだよ。


「……」


周囲を見る。


――「何か怪しい」「頭おかしい人かな」「終わったわアイツ」――

                         

《始まりの街・門番 LEVEL???》


「――ッ!!」


俺から引いていくプレイヤー。

そして見えた。


遠く、走ってくるNPC。

銀に輝く鎧と片手剣と盾を装備し、見るからに俺を直視している。


……逃げなきゃマズい。

まずは――アイツの進行方向を予測。


「『罠設置』」


三秒が長い。

でも――まだ余裕がある。


《落とし穴を設置しました》


「よし――ッ」


その後は、反対方向の戦闘フィールド方向へ走る。

大体百メートルぐらい先。

走れば余裕で逃げ切れる――ん?


《始まりの街・門番 LEVEL???》


見れば、そこには『もう一人』の門番が居た。つまり挟み撃ちの形。


しかも走ってくる彼は最初の門番よりも近い。恐らく十秒もあればこちらへ到達する。


「くそッ――」


この非戦闘フィールドは、戦闘フィールドに繋がる道は二つ。


その二つ両方からこちらに向かってきている訳で。

それを回避するには――やはり、罠しかない。


『うわっ!?』


先程仕掛けた落とし穴が発動、門番にもそれが効く事を耳で確認。

俺はそのまま方向を変えずに走る。


目の前。

恐らく、後五秒もあれば追加の門番に衝突。


「『高速罠設置』」


地面に手を触れる。

そのスキルを発動。普段なら三秒掛かる罠設置を一秒で発動。


その発動場所は俺の前。


《落とし穴を設置しました》

《落とし穴が発動しました》


『うあっ!?』

「――ッ」


何の疑問も持たず、目の前で落とし穴に引っかかる門番。

その穴を飛び越えて――走る。


「うおおッ!!」


この時ほどAGIに振っていて良かったと思った事は無い。

ゴールはすぐそこだ。


「――ッ!」


しかし。

このゲームはMMO。

何時だって、俺以外のプレイヤーはそこに存在している訳で。


《あぎと LEVEL10》

《ゆぅや LEVEL8》


「おっ来た」

「早い者勝ちだな」

「罠士とか反撃出来ねーだろ!」


戦闘フィールド。

明らかに出待ちしている彼ら。


……ああ、クソ。


《――「PKペナルティを負った状態でプレイヤーにやられると、かなりの経験値を奪われるらしい」――》


《――「まっリンカちゃんは全員返り討ちにしてやったけどなァ!」――》


リンカから聞いたそれ。ドヤ顔もセットで思い出してしまった。くそ。


行きも地獄、帰りも地獄。

プレイヤーにやられるか、NPCにやられるか。


その二つなら――まだ答えを知らない方を選ぶ。例えそれが、より苦しい結果になったとしても。

気になるから仕方がない、そういうもんだ。後悔は無い。


「えっ」

「何やってんだアイツ」


『観念しろ!』


驚く顔のプレイヤー。

そして背後の門番NPCの声。


俺は、戦闘フィールドに出るギリギリで立ち止まり――振り返った。


「一思いにどうぞ」


迫り来る刃。

その、たった一撃で俺のHPは消し飛んで。


《貴方は死亡しました》

《始まりの街・牢獄フィールドに移動します》

《貴方の拘束時間は一時間です》

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