間抜けのアタロウ

@rusim

間抜けのアタロウ

 あるところにチビで間抜けなアタロウが住んでいました。アタロウの家は、深い森に囲まれた丘の上にありました。貧乏でしたが、立派な畑があったので、食べ物に困らず静かに暮らしていました。

 アタロウの家から深い森と山を一つ越えた所にグロアンという大親分が住んでいました。グロアンは乱暴者で、色んな所に喧嘩をしては子分を増やしていました。

 ある時、グロアンはアタロウに目を付けました。アタロウの家は狩りをするのに便利な場所だったので、家や畑を奪ってやろうと思ったのです。グロアンは、アタロウはチビで間抜けだから簡単に子分に出来るだろうと思い、アタロウを軽く小突いて脅してみました。

 突然のことにびっくりしたアタロウですが、あれこれグロアンに対して抗っているうちに、いつの間にか凛々しく強い子に成長しました。そして、ついにはグロアンの子分を叩きのめし、あっという間に多くの子分を従える親分になったのです。

 慌てたグロアン。”このままではいけない”と思い本気を出して戦い始めました。結果、アタロウはあっという間にボコボコにされ、グロアンの子分になってしまいました。

 グロアンは、”アタロウは大人しいやつだけど、キレたら大変なことになる”、ことが分かったので、優しいふりをして懐柔しつつ、年貢を納めさせることにしました。また、アタロウにとても美人な奥さんも紹介して、影からアタロウを監視する事にしました。

 アタロウは、グロアンに叩きのめされましたが、美人な奥さんをもらって大張切り。心機一転一生懸命頑張ったおかげで、グロアンと同じくらい大金持ちになりました。

 アタロウはとても喜びました。喜び過ぎて、毎日遊んで暮らしていました。奥さんも大喜びして、アタロウがどんどん遊ぶよう応援しました。いつの間にかアタロウは、もとの間抜けのアタロウに戻りだしましたが、遊んでも遊んでもお金はいっぱいあったので、アタロウはその事に気付きませんでした。

 その頃、アタロウの近所に住んでいたロンワンが長い病から回復して元気に動き回るようになりました。元気になったロンワンは、どんどん強くなって子分を多数従え、いつの間にかグロアンと同じくらい強い大親分になり、時々グロアンと喧嘩をする様になりました。

 強くなったロンワンは、アタロウにも目をつけました。ロンワンは、アタロウの家をいつか分捕ってやろうと思いましたが、先ずは仲良くなる為に美人な奥さんをアタロウに紹介しました。

 アタロウは、美人な2人の奥さんに挟まれて毎日ウハウハです。仕事を忘れ遊び呆けて、どんどんどんどん間抜けになっていきました。

 そうしたアタロウを見ていたグロアンは、今度こそアタロウの全てを分捕ってやろうと考えました。グロアンはロンワンに声をかけ、”アタロウを自分達の好きなように操ろう”、と相談をし、ロンワンも喜んで賛成しました。

 もうアタロウにはどうする事も出来ません。間抜けなアタロウ、何をするのも2人のなすがまま、その姿は空に浮かんだ哀しき操り人形でした。そして、いつの日か、アタロウはパチンと弾けた風船の様に、何処に行ったか分からなくなりました。

 おしまい

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