第94話 どっちがいいか、悩むよ
S−TV【精霊専用チャンネル】
深夜ドラマ・やっぱり首なし馬が好き
出演者
墓掘り魔人 ヤット
第94話 どっちがいいか、悩むよ
メロンバルブ市にある古びた墓地。ここを活動拠点とする精霊のうちの一人、殺ぎ屋のトラマサが、古い手紙を熱心に読みふけっていた。夜空にはジンジャーブレッド色の、満月にほど近い月が出ていたが、彼らは
「……スレエトヤの丘には白い可憐な花がたくさん咲いておりました。ええ、私も娘時代にそこを通りかかったならば、我を忘れて美しい花たちに夢中になったことでしょう。(中略)カイラにはローズマリーという年上のお友達がおりまして、この娘がまた、手先が大変器用だったのです。カイラは私に『ローズマリーみたいなお花の
「よくわからないっス」トラマサは首をひねった。そして自分より年かさである墓掘り魔人のヤットに意見を求める。「妖精はこの母親が花の冠を作れそうにないから、代わりにカイラに冠をくれてやったっス。それなのに、親切を無駄にするなんて」
「うーむ」ヤットは考えてから、答えた。「それはきっと、『労働』の問題だと思うな。つまり、人間というものは『仕事』を大事にしているのだ。自分の手足を汚さず簡単に物を手に入れてはいけないと、娘に教えたかったのだろうよ」
「えー、そうなんスか」
納得していないふうであるトラマサに、ヤットは身近な問題として、例を挙げた。
「おれは毎日この墓地で穴を掘っているだろう? もしおまえが死んで棺桶に入れられたとして、おれが一生懸命汗水流して掘った穴と、たまたま地面に隕石が落ちて開いた穴、どっちに埋められたいと思う?」
「えっ?」トラマサは驚きの声をあげると、数秒間考え、
「いや、これは例え話で……」
「どっちの穴もヤットさんが入るといいっス!」走って墓地から逃げだすトラマサ。
ヤットはやれやれと首を振ると、トラマサが落としていった手紙を拾いあげた。手紙は全部で七枚もあった。まったく、七枚も手紙を書く暇があるのなら、花の冠くらい作れるだろうに……。
しかし、手紙にはつづきがあった。
「……以上が、私が祖父から聴いた
「なんだ、作り話だったのか!」ヤットの顔に怒りが
「……それで、ご相談なのですが、もしこの物語が〈ヌラリヒェン賞〉を受賞し出版の運びとなったときに、
「どっちでも好きにしろ!」ヤットは手紙を丸めて地面に捨てた。
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