thε seβen woαld
ArgoNova
序章
:プレイヤー招待
カウント032:セイカ
システムコネクト……
……接続完了
聴覚接続絵完了
視覚接続完了
嗅覚接続完了
触覚接続完了
味覚ジェネレーター起動
……味覚接続完了
起動。
7つの世界への接続確認……完了。
ようこそ、始まりへ——
『thε seβen woαld』
***
電車に、CMに、街中に、記事に、人伝いの噂に。
数多な手法により、そのゲームの存在は一瞬にして拡散された。
ある人は言った。
「これはFPSである——」
またある人は言った。
「これは2Dゲームである——」
またある人はこう言った。
「フルダイブゲームの予告である——」
そして、ある人はこう言った。
「これはすべてのゲームの集大成であり、すべてのゲームである——」
伝えられたのは、どこかのハードで、11月27日に発売されるゲームであること。
世界はまだこの存在の、本当の意味を知らない。
***
2136年8月6日、銃火器バトルロイヤル世界大会決勝戦
「
「了解、索敵しとく……他なし。漁夫るぞ」
屈強な肉体を持つアバターを、たった10本以下の指先で、まるで生きているかのように操作していく。
「バレてる?」
「いやいける、安地も来てるからいくぞ」
腰丈の草原を、しゃがみ移動しながら前方の小屋に向け素早く歩く。
「グレ投げる……38!」
「おけ、
1人が索敵する中、もう1人が大きな銃を構える。
「ハズレ……90ヘッショ! 詰めるぞ!」
どうやら一発目は外したようだが、二発目で命中させたようだ。
草原から立ち上がり全力ダッシュしていく。
「うおっ!? 横抜きされるぞ! バッシュどうする?」
バッシュと呼ばれたプレイヤーは一瞬の考えのあと、行動に移す。
「セイカは正面ダッシュいけ! 俺が後ろをやる」
「了解!」
これは世界大会決勝戦ファイナルラウンド。
狭まる安全地帯の中を、残り13人が賞金1億と景品をかけて戦う、
『おおっと!? ここでセイントチームが分割だあ! セイカ選手がソロになった相手へ、そしてバッシュ選手が漁夫りにきたチームを相手するぞ!』
無論、会場は最大級に盛り上がっている。
ネット配信も同時に行われ、同接は40万人にもなっている。
煽り口調の司会者が、セイントチームをピックアップして放送する隣で、解説者が戦場の状況を説明する。
『現在第8安地となっており、そろそろ限界が来るでしょうね。8チーム13人が残っていますが、この第8で半分まで減ってもおかしくありません』
『そうですか! これは白熱の戦いになりそうだあ!』
会場は、ヒートアップする。
「……抜いた! 次安地どこだ!?」
「反対だわ、移動するしかねえ」
セイントチームは2人ともに生き残り、回復ポーションを使いながら次の安地目指し、草原を駆ける。
「弾ある? 俺アサルト限界だわ」
「あいよ、投げとく」
自身の残弾数との戦いも始まる終盤戦、予選3位通過のセイントチームは全線を繰り広げていた。
なによりすでに予選1、2位のチームはリタイアしており、その他有力選手もことごとく消えている。
今しかないのだ。プロゲーム未所属のセイントチームが、世界に名を馳せることができるのは。
さらに今回の景品は、新たなスポンサーのおかげで金額は一桁増量、謎のゲームとして数週間前から界隈を沸かせているゲーム優待券も付いている。
「バッシュ、いけるぞこれ」
「ああ、油断はするなよ」
最後の死闘を、満面の笑みで迎えにいく。
『おっとお!? ここでサファイアチームが戦線離脱う! マギアチームが安地を奪い取ったぞおおお!』
そして、この戦いを画面越しに見守る人もいる。
「バッシュ……いや、蒼宮。勝てよ……!」
例えば、幼い頃からの友人。
「バッシュさん……いけるっす!」
例えば、ゲーム仲間の後輩。
「……少年、頑張れ」
例えば、行きつけの定食屋店主。
世界は、主人公相手に伏線を張ることができる。
そしてこの行為こそが、
「セイカあああああ!」
セイカへ狙撃。
バッシュ自身が遠距離攻撃の銃火器を重点的に所持しているため、撃たれるなら逆の方がよかった。
瞬間的にアイテム移動はできず、回復アイテムも枯渇している。
そして何より移動しなければいけない今、セイカに対する処置は——
「バッシュ……撃て」
「……でも——」
「いいから撃てぇぇぇぇぇええええええ!」
——空薬莢が空を舞う。
赤い被弾エフェクトが、セイカの額から溢れ出し……
「後は、任せろ」
死亡エフェクトと同時に、所持していたアイテムがその場に散乱する。
フレンドリーファイアがアクティブなこの大会で、何度か見られた光景。
プレイヤー2人の所持限界のアイテムから、最後の交戦を勝ち進むための最適解を瞬時に探す。
戦場に1人。彼はデータ上では表現されることのない遺品と共に、彼の躯体をその場に置き去り駆け抜ける。
『おおっと! 大ダメージを食らったセイカ選手がここでリタイア! 仲間にアイテムを渡して終了だあああ!』
会場はより一層のボルテージに包まれる。
大会前では無名中の無名だったチームが、ノーシードでここまで善戦してきたのだ。
注目が集まらないはずがない。
『彼らの声はここまで届きませんが、おそらく荷物をまとめたのでしょう。この行為が正しいことを祈るばかりですね……』
意図的に1人を捨てる行為は、この大会での成功率を3割とし、蛮行とまではいかないものの、あまり推奨されていない。
だが中には、仲間の回復を待ったがためにチーム全滅も多々見られたのだが、そこは各選手と場の読みで戦うしかないのだ。
『6チーム10人まで減った最終ステージ! 第9安地へカウントダウンだあああ!』
草原を北上し、接敵なく岩山エリアへ到達したバッシュは、一度スナイパーライフルを地面に置き望遠レンズで索敵する。
スナイパーライフルを設置する際、本来であれば細かな作業を必要とするのだが、ここはゲーム。
その動作は簡略化されている。
「背後に敵なし……森林エリアに3……砂浜に4……」
口に出して確認する。
数旬の猶予がある索敵は、これが最後であろう。
「そして城に2……キツイな」
安地の移動経路を読んでも、第10も移動しなければならないだろう。
このままスナイパーライフルで狙ってもいいのだが、風読みや距離的にも外す確率の方が高いため諦める。
「城に篭ってる奴らが強い……どうしようもないから待つか……」
最適解は、森林エリアと砂浜エリアの敵が接敵なく城に入ることだ。
ただ、先に森林と砂浜エリア同士が戦うと、おそらく漁夫れないだろう。
「……頼む」
運に任せる他ない。
さっきだって、セイカを射抜いたチームはソロで消し去ったのだ。運は付いている。
心臓の鼓動が、より速く動き始める。
***
「ザ・ガン・バトル」、通称ガトル。
あまりにもシンプルなそのゲーム名は、内容も至ってシンプルだ。
100人が戦場に降り立ち、最後まで生き残れば勝ち。
よくあるゲームなのだが、このゲームは他とは異なる点がいくつかある。
1つは弾丸に物理法則が働くこと。
1つは数種類のキャラ体格選択により所持容量が異なること。
そしてもう一つは、VRであること。
接地させるための手間は省けているにせよ、重力計算をしなければならず、遠隔攻撃は相当の技術が必要となる。また、現実を参照しているため拳銃は長くて20mまでしか飛ばず、降雨地帯や多湿地帯では火薬の不発もある。
キャラは戦場に行く直前に選択でき、小さめ、普通、大きめの3種類から一つを選ぶ。
小さいほどに移動速度が上がり、大きいほどに所持容量が増えるということだ。
大会ではない野良では、たまに小さいアバターと刀を使用した乱撃戦闘を選ぶ輩もいる。操作によっては銃弾を切ることができるため、そこそこの作戦でもあるのだ。
そしてなにより、これはVRゲームである。
フルダイブ型は未だ実用化されていないのだが、視覚、聴覚、触覚が実装されており、軽度の被弾の痛みや煙などが、これも現実同様に忠実に再現されている。
特殊武器や特殊攻撃はない。
ビーム銃もサテライトスキャンもない。
ただ迫り来るエリア縮小と戦いながら、現実と同様の戦いを繰り広げる。
世界数百万人が、このゲームの虜になった。
数千人のプロゲーマーを産んだ。
2100年代初頭の、FPS銃火器ゲームの覇権を握ったこのゲームは、世界大会まで開催され、その予選参加者は10万人とされている。
***
第9安地縮小中、森林エリアが接敵し、4チーム6人となった。
城に篭るチーム2人の行動がない中、砂浜エリアにいたチーム1組2人が、城の中へと入る——その直後。
凄まじい爆発音と共に、残り人数が2人減った。
おそらく城にいた人たちが罠を仕掛けていたのだろう。数百メートル離れていたこちらまで、その振動が伝わってきた。
「……そうか、弾数補填」
この大会では、1時間ごとに弾数補填がある。
今は3回目の補填だ。おそらくこの補填直前に爆破するように仕掛けていたのだろう。
城へ入る道は四方に4つあるが、そのうち少し複雑な砂浜エリアに面した門が壊され通行不能になったようだ。
最終安地も城周辺のようだから、おそらく次の安地まで俺が生き残れることはない。
「……楽しもうか」
諦めは時に、その後への意欲につながる。
捨て身ではない、降参でもない。
ただ、己の成す最低限のことを見つけた者だけができる
人は楽しむことに生きがいを感じる生き物だ。
だから、10本の指で画面を見ながら笑顔になる彼は、時に恐ろしく、時に勇敢な戦士となり——
その名を
***
確認……アバターネーム「セイカ」のコア作成許可を申請……
……告。許可を確認。
システムデータ内に保存……成功。
プロジェクトに追加します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます