くそ宗教の教祖に騙されて人生詰んだ男の独白

お好み焼きごはん

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私は、はい、死のうと思っています。

それがどう言った意味であるかと言うと、自ら命を絶つ、詰まるところ自死をするということに他なりません。ああ、申し訳ない。いや、謝るべきでは無いのは分かっています。全て聞かせて欲しいと仰られていたのですから、謝るべきではありません。ですが、だとしても、私はどうしても私のこのような、重たくジメジメとした気色の悪い話をお聞かせするというのは、どうにも。というのも、私が自死をすると言ったのならば、理由もお聞かせするのが道理でしょう。私の半生、もう終わりにするのですから、人生。私の人生はあまりにも、恥ずかしいものでした。恥の多い生涯とは正にこの事で、親に顔向け所か先祖代々の名を名乗ることすらはばかられる。八月の十三日に帰ってくる先祖さまを避けるようにして、私は夏の盆を過ごさなくてはなりません。ああ、私があの女と出会ったのは、丁度、今のような盆の季節でした。私は当時、能無しとして近所で有名で、でも真面目であることが取り柄であると言われ、そんな私に目をつけたのがあの女でした。あの女は私のどうしようも無い孤独感に漬け込み、手玉に取ろうとしたのです。玉藻前のように、私に取り入り、奪い、自分の養分にしようとしたのです。愚かなことに、私は気づかず、その女の傍を過ごす日を少しづつ、増やしていきました。女は私に様々な事を吹き込んできました。それはどれも嘘っぱちで精神論で、甘言でした。今でこそ可笑しな事であると分かるというのに、あの時の私は、その全てを信じてしまいました。女は人を徹底的に搾取しようとしていました。そして女はそれの最も効率の良い方法を理解していました。

もうご存知でしょうが、女は結果的に教祖になりました。私は女がそれになる事を、結果的に後押しし、罪のない、私なんかよりも遥かに無辜な人をボロ雑巾のように、崩れたミイラのように、搾り取りました。私の恥とはそういった事です。私の恥とはあの女と出会ってしまったこと、そしてあの女を信じてしまい、ついて行った事です。女はいつも私に己は神の力を持っている、誰よりも貴い存在であると主張し、私はそれを信じていました。馬鹿な話、ありえない話です。たかだか庶民の女如きが誰よりも高貴であり尊い存在である訳がないのに、私はあの女こそが唯一たる神に値する存在であると信じていました。その時既に私は洗脳されてしまっていたのです。先程私は玉藻前のようだと言いましたが、玉藻前は上皇の側室として身分を弁えていましたから、あの女よりもうんとマシな部類に入るでしょう。私があの女に心酔してしまった辺り、まだ教団も被害者も出ていない辺りで、女は私に万引きをするように言いました。私はその言うことを聞きました。それを何度か命じられ、繰り返しました。私は女に頼られた、認められたという自信と引き換えに、犯罪への恐怖を、罪悪感を失っていきました。そうして次第に私は女の言うことを丸のまま聞いて、従い、私は女に言われるがまま、ただの本に、神秘的な嘘を付け法外な値段で売りつけたり、ありもしない死後を捏造して風潮したりしました。私は言われるがまま動いて、次第に、教団が出来上がりました。まるで自然な流れだったように、今でも感じます。気がつけば女は教祖になり、私は教祖専用の下っ端になっていました。そして私の作り出した作り話を信じた人々が、信者と呼ばれるようになりました。信者は女を神の生まれ変わりだとか、神聖な者だとして崇め倒していましたが、私にはわかります。あの時点で本当は分かっていたのです。あの女は私が居なくては何も出来ませんでした。あの女はただの人間であると同時に、酷く馬鹿でありました。あの女が上に居座れるのは、私のおかげであったのです。それは同時に、私の所為でもあります。そんなことも知らず、女は愚かであり続けました。私よりも自身の方が上であると思い続けていました。そして、施しを与える側であるかのように振る舞い続けました。あの女は、あの女は私が居なくては何も出来なかった愚鈍な傀儡なのにも関わらず、己の力を過信して、私を蔑ろにし始めました。自分が選ぶことの出来る人間であるかのように振る舞い、実際、選んでいました。選りすぐった己を良く見せてくれる男や女……詰まるところ見目の良い、妾のような関係である使い勝手の良い人を傍に置き、行動するようになりました。それでも私は女の為に行動してきました。馬鹿みたいな神聖な言葉を選び、信者達から何もかもを搾取させました。そして信者が金という必要不可欠な養分を搾取されているのと同時に、私も女から搾取されていました。私の養分が無くなり、枯れ果ててゆくのを感じていました。私は、それが許せなくなっていきました。許せなくなったのは私がそんなことをしている事ではなく、私が搾取されていることでした。私は教団の運営をマトモにしなくなりました。信者の運営や金銭の運営、営業、幹部。私に任されていたことを、全うするとこを止め、適当に、だらしなく行いました。それからのことは想像に容易い事でしょう。教団はドンドン、お粗末な物になってゆきました。瞬きをするよりもあっという間であったように感じます。私はそれを見て、大変、大変愉快な心地でした。私を粗末にしたあの女の言う高貴さというものが薄らいで、あの女が地べたに近づいているような気がしました。あの女が、あの女が私に一言謝罪でもすれば、私は許し、また手伝ってやっても良かったのです。それをあの女。あの女は。あの女は私を追放した。ろくに仕事をしないからか、庶民らしかったあの頃を知っている私が疎ましくなったからかは、知りません。ただ事実は、あの女は私のおかげでここまでのし上がれたというのに、私を、この私を捨てたという所だけです。ありえない。あの女は、あの女はまるで己がとても素晴らしく、まるで天上人かのように振る舞いますが、本質はただの汚らわしい女なのです。ええ、私は、私の方から、私の方から見捨ててやりました。どうせ、私が居なくてはろくに回りもしないのです。私があの女の元を離れて、私は普通に生活しました。きっと殺されでもするやもしれないと思っていましたが、案外普通に過ごせたことに拍子抜けしながら、私はあの女がくんずおれて、泥にまみれて這いずり回る所を見てやりたかったので、待ち続けました。もしそうなったのなら、私は喜んで……手を、差し伸べてやろうと思っていました。どうせ、いつかは監獄ぐらしでしょうから、唯一、唯一助けてくれる人としてあってやろうと思っていました。それはきっと気分が良いことでしょうから。あの女が泣く時に、私は安心なさいと笑って手を握るのです。なんと気分の良い事でしょうか。私はそれを待つつもりでした。ご存知ですか。あの事件。教団の人間の死体が複数見つかって、独断で調べていた宗教被害専門の弁護士の一家が殺された事件。私はね、あれの犯人になれと言われました。女に仕えていた信者が三人やってきて、そう私に告げました。教祖の命ずることだと、誇らしいだろうと。地位に甘んじて怠けた愚か者には、ちょうど良い末路だとでも思っていたのでしょう。あれらは。ああ、憎らしい。あんなにも、あんなにも尽くしてやった私に、このような仕打ち。おかしい。おかしいでしょう。おかしいですよね。おかしいと思いませんか。思いませんか。……ああ、そうです。私はね、私、私がなんですよ。私は女を愛していたんです。私の人生には彼女しかいなかった。いなかったんですよ。ダメなのは私です。ダメなのは、私だったのです。信者共に身代わりになれと教祖が命ずられたと言われて、私はその場で了承して、すぐさま自首してやりました。もちろん、罪を被ったのではなく、新興宗教の元幹部として、女の罪を、私の罪を全て暴いて、白日の元に晒して、裁かれる、つまり逮捕される為です。罪を被るつもりはありませんでした。私は全てを暴いてやりました。何日も掛けてじっくりと、骨の髄まで、暴いてやりました。当然、私は捕まり、女も、教団のあれらも捕まりました。ご存知の通り、これから女の裁判が始まります。きっと死刑でしょう。それに、私も出るんです。私はね、私はね、看守さん。あの女の罪を全て話し証明する代わりに、罪を軽くしてもらったんです。貴方はご存知でしょう。それに、私は知っているんです。あの女は死刑になる。最も苦しい毒での死刑です。裁判が始まる前から、もう既に決まりきっていることなんです。あの女の負けは。楽しみだ。ああ、楽しみだ。楽しみだなぁ。私はあの女が大嫌いなんです。憎らしい。私に罪を作ったあの女が、私は心から憎らしく、殺してやりたいと思っています。あの女とさえ出会わなければ、私の人生は、もっとマシだったでしょうね。私の刑は長いですが、女より先に出ます。だから、私は先に死んで、女を待ってやろうと思っています。あの世には閻魔様とやらが居るらしいですね。私は一足先に死んで、閻魔様に女の罪をたっぷり話して、地獄に落として頂きます。きっと私も地獄です。地獄で死後何年も何年も何年も何年も苦しもうと思います。現世で私達のことが忘れ去られようとも、永遠に罰を受け続けて、魂を浄化するのです。私は自死しようと思っています。死んで、地獄に落ちます。あの女と同じように。

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