第24話 追撃

 ゴブリン達が俺達に気が付いたのと、ユーリが初撃を放つのはほぼ同時だった。


「当てますぅ!」


 彼女の手から放たれた魔法の矢は真っ直ぐと木の上のゴブリンへと飛翔し、その胸を捉えた。

 バランスを崩したゴブリンは地面へと落下し、そのまま動く事は無かった。


「っしゃ行くで!」


 続くアルヤと俺がゴブリン達へと剣を振るい、乱戦へと持ち込む。

 先ほど戦ったゴブリンと比べると動きが洗練されているように感じたものの、この程度であれば俺とアルヤが負けるほどではなさそうだ。


 盾で敵の攻撃を弾き、確実に刃を相手に当ててその皮膚を切り裂く。

 近接戦闘は基本的にこの繰り返しだ。相手との力量差が大きいときであれば大振りな一撃を叩き込むのもいいが、今回の相手にそれをする余裕はなさそうだ。


「なんやコイツら……相手しぬくいな!」

「動物的って言うよりは人間的な戦い方だ!」


 確実に力量はこちらの方が上ではあるが、まだ1匹も仕留められていなかった。


「チィッ! あんたらの相手はウチらや!」

「あうぅ……逃げられてしまいましたぁ!」


 ゴブリン達は隙さえあれば俺達の間合いの外からユーリへと肉薄しようとする。

 どうにか抑え込んではいるものの、木の上にいたゴブリンの1匹は木を伝って奥の方へと逃げて行ってしまった。


「待たんかい!」


 アルヤが追いかけようとしたその直後、逃げたゴブリンの方から角笛のような音が響き渡った。


「こ、これってぇ……」

「増援か!?」


 それぞれの意識を散らされた隙を突いたように、ゴブリン達は一斉に森の奥へと駆け始めていた。


「このっ……逃がしてしもうたな」


 反射的に追いかけようとしたアルヤだったが、どうやら思いとどまったようだ。


「普通のゴブリンと思わない方が良さそうだね。一応情報を整理してから行こう」


 決して彼ら1匹1匹が強いというわけではない。

 しかし、今回の彼らはまるで人間のような群れとしての強さを感じる。


「数的不利ではあっても……個としては俺達の方が強いと見ていいかもしれない」


 自惚れのようにはなってしまうが、少なくとも先ほどのようなゴブリン相手ならば俺が一番相性が良いだろう。

 問題はリーダー格のゴブリンというのが何匹いるのか、そしてそれが殴り合いが得意なタイプなのか、魔法が得意なタイプなのか、そこが分からない点だ。


「俺とアルヤの二人で暴れ回るような作戦はどうかな」

「それは連携をあんま意識せんっつー事か?」

「そうなるね。あくまで俺とアルヤ個人の強さを押し付けるように動く方がいいかもって思ってさ」

「あのぉ……私はどうすれば……」

「ある程度数が減るまで隠れておいて欲しいんだ。流石に守れるかどうかも分からないからね」


 チェイスによって鍛えられたとは言っても、俺やアルヤほど近接戦は得意ではないのは確かだ。


「俺とアルヤである程度数を減らして、そろそろ自分も行けるなって思ったら魔法をぶっ放して欲しい」

「不意打ち狙いか、でも流石に警戒されとるんちゃうか?」

「まあ当たればいいよねってくらいかな。強そうなヤツを狙ってもいいし、弱そうなのを狙ってもいいし、そこはユーリに任せるよ」

「りょ、了解ですぅ!」 


 追いかけるのが今からでも手負いのゴブリン達を完全に回復させる時間はないだろう。


 アルヤを先頭に彼らが逃げた方向へと俺達は駆けた。


「っしゃ、見つけたで!」


 アルヤが短剣を振りながらそう吠えた。

 彼女が振るった刃は彼女へと向けて放たれた矢を弾き落とし、ポーチからナイフを取り出すと器用な事に走りながら彼女はそれを投擲した。

 次の矢を弓に番えるのに集中していたのか、弓を持ったゴブリンへとそのナイフは命中し、深々と突き刺さった。


 ざっと目につく敵の数はアルヤにやられたものを含めて10匹ほど。動物の頭蓋骨を先端に取り付けた杖を持つゴブリンが1匹、他のゴブリン達から離れた位置にいるのが見える。


「ゴブリンメイジだかソーサラーかは分からないけど、アイツが多分リーダーだ!」

「っしゃ、ほんじゃ打ち合わせ通りに行くで!」


 俺とアルヤは二手に分かれ、奥の杖を持ったゴブリンへと接近しようとする。

 しかし、やはりと言うべきか武器を手に持ったゴブリン達が俺達の行く手を阻む。

 俺の前に立ちはだかったのは5匹だ。


「オラァッ!」


 盾を裏拳のようにゴブリン達へと向かって力任せに振るう。

 身体を強化したその一撃は、3匹のゴブリン達の攻撃を弾き、そしてそのまま肉体を殴りつける。

 強引に作り出したその隙に剣を振るおうと思ったが、魔力の塊が俺のすぐ近くまで飛んできている事に気付いた。


「チッ!」


 どうにか体を捻り回避するが、横っ腹を掠める。

 1発くらいならまともに食らっても死にはしないだろうが、それでも動けなくはなりそうな威力だ。


 ゴブリン達は体勢を立て直し、盾をもらわなかった2匹は好機と見てか俺へと武器を振るう。


「しゃらくせえ!」


 盾を投げ捨てて剣を両手で握り、瞬間的に筋力を大幅に強化し剣を振るった。

 それには技量などと呼べるものなどないシンプルな一撃だ。

 しかし、その一撃は2匹のゴブリンを武器ごと叩き斬った。

 破壊した武器の破片で少し傷を負いはしたが、戦闘を続行する上では何の問題もないと言えるだろう。


 俺は残る3匹へと剣先を向け、地面を強く蹴った。

 

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