第11話 実践研修1
「よし、それじゃあ今回からはアタシが受けてきたギルドの依頼をこなしてもらう!」
「アタシがって……荷物持ちか何かですか?」
「ちっがーう! お前がやる依頼だ!」
俺達は街と外を結ぶ門の前でそんなやり取りをしていた。
ちなみにリムの姿は無い。今日からはチェイス同伴のもとで実践的な動きを勉強していく流れとなる。
「で……何の依頼を受けたんです?」
「まずはゴブリン退治だ。わっかりやすい仕事だろ?」
「一度父さん……父からやり方を教わった事もありますし、多分大丈夫だと思います」
「お、そいつは心強いな! 期待してるぜ!」
「ええと、チェイスさんは離れて見ている……という形ですかね?」
「あぁそうだな。まずはお前のやり方ってのを見させてもらおうと思う」
チェイスにかかればその辺のゴブリンは一振りで肉塊と化すだろう。
流石に何の見本にもならないような事はしないとは思うのだが、彼女ならやりかねないとどうしても思ってしまう俺は不出来な弟子なのだろうか。
「そうだ、報酬に関してだけどな……生憎金は払われない」
「マジっすか……」
「規則でな、でも宿代タダに加えて食い放題。必要だと判断されれば装備や消耗品は支給されるから、そういう意味ではお得かもしれないな」
街道を進み森へと入る。
チェイスから聞いた依頼の内容ではここからそう遠くない辺りで、よくゴブリンが目撃されているようだ。
神経を研ぎ澄まし、最小限の魔力で知覚を強化して周囲の痕跡を探す。
動物のものや他の魔物といったものの痕跡が良く目につく。しかし、知覚を強化しているおかげなのかすぐにゴブリンのものを特定し、おおよその移動した方向に目星を付ける。
「こっちですね。そこまで多くはないんでしたか」
「そうらしい。しっかしやっぱ魔法は便利だな……」
「チェイスさんはどうやってたんです?」
「まぁ気合いと……あとは色仕掛けだな」
「色仕掛け……?」
「あぁ、傷ついたフリしてその辺でへたり込んでおけば向こうから来てくれるからな!」
なんてブービートラップだ、そもそもそういった目的で近付いてきている時点で同情の余地は無いと言ってもいいのだろうが、その罠にかかったゴブリン達の末路を考えると何とも複雑な気分だ。
「俺の前ではやらないで下さいよ?」
「あん? 覚えとかなくていいのか?」
「そういうのは俺には無理でしょうし」
「メスのゴブリン相手ならいけると思うぜ? 見境ないからな!」
「遠慮しておきます……」
失ってはいけないものを失ってしまいそうだ。
ある意味でそういった部分で躊躇いがなくなれば、それはそれで強みなのだろうとは思わないでもないのだが、俺の理想とする冒険者像は出来ればそこは捨てないでいてほしいところだ。
「っと……いましたね」
「やり方はレイに任せる。好きにやりな」
「分かりました。想定としては俺一人で戦ってるって形でいいんですよね」
「あぁ、今はソロでの動きでいい」
相手の体つきから実力を推察する。
数は3体、全員が地面に棍棒を置いており何やら談笑をしているようだ。
全力を出せば一瞬で3体を屠る事も可能だろう、しかし帰りに何も起きないという保証はないし、伏兵がいる可能性だってある。
「いきます」
最低限の魔法を付与し、自らの体を強化する。
「軽い……!」
あまり強化はしていないはずだが、俺が振るった刃は簡単にゴブリンの体を深々と切り裂いた。
父さんとの練習で戦った時に比べると命中した時の抵抗は非常に少なく、殆ど失速する事なく刃は振りぬかれる。
返す勢いで残る2匹も切り裂き、一瞬にして3体のゴブリンの命は刈り取られていた。
「やるねえ、これじゃあ実力詐欺だ」
「これもチェイスさん達のおかげですよ」
「はは、照れるぜ」
木の上から眺めていたチェイスが飛び降り、ゴブリンの死骸の傍へと近付く。
「さて、親父さんに事後処理は教えてもらったか?」
「はい、埋葬するようにと」
「そんなら話が早いな、やってみな」
チェイスからスコップを投げ渡される。
やはりと言うべきか地面を掘るのも容易く、20分ほどでその場の処理を済ませることが出来た。
「良い手際だな、基本的にはそのやり方で大丈夫だ。地面が掘れない時の対処方法は教えてもらったか?」
「バラバラにしておくのも手だとは聞きましたが……」
「正解だね、他にも燃やしてしまうっていう手段もあるけど……これは炎が使える魔法職がいる場合にほぼほぼ限られるな。場合によってはランタンの油を使うって手もあるけど」
「他に手段って無いんですか?」
「そうだな……そこが動物が多いなら放置するのも手だな、放っておけば勝手に処理してくれる。でも帰りにちゃんと確認するのを推奨するけどな」
その後、もう少し狩って行こうという事になり、俺達はゴブリン狩りに勤しむ事となった。
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