何億光年先の君へ

ふじあつむ

【1話読み切り】何億光年先の君へ

我は眠る。毎日眠る。

何億光年先の”誰か”に、今日の”我”のデータを送信するためだ。


我が故郷ふるさとは、消えることが確定した。

”我ら”は移住先を求めて、各銀河系の星で治験をしている。

そのサンプルの1つが”我”だ。といっても、地球に来る前の記憶は消されたため、うろ覚えであるが。


***


”我”は無理をしてはいけない。

無理をすると、正確なデータが抽出できないからだ。


この地球ほしは、”我”が適応するには辛いところもある。

膨大な情報と混沌とした感情が、否応無しに”我”が体に流れ込む。意図的に外部と壁を作り、それらをシャットダウンしなければ、体も頭も持ちはしない。…心も。


***


何億光年先の君と、”生きている間に会えるだろうか。

ここで暮らして数十年経つ。そろそろ、仲間が移住してくる頃かもしれぬ。



それとも、他の銀河系への移住が決定したのだろうか。その場合、”我”はどうなるだろう。”我”も一緒にその星へ移住か。…交通費が出るのか、心配である。


だからといって、”我”だけ地球ここへ置いてきぼりは淋しい。


地球の日本国に古く伝わる「竹取物語」のように、”我”を迎えに来てはくれないか。君に会いたい。会いたい。


その願いが叶わないなら、せめて消してほしい。


***


そんなことを思いながら、今日も目を閉じて、耳を塞ぎ、遠い彼方の君へ送る。この一日に一回の儀式だけが、”我”と君をつなぐ。


地球人に「おやすみ」と言いながら、故郷ふるさとに「やぁ」と挨拶する夜を、今日も迎える。

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