プレイ
紺道ひじり
第一面 少年の場合
薄暗い部屋の中で少年は目覚めた。今日から夏休みか、と少し軽い気持ちを持ちながら少年はベッドから起き上がり、キッチンへと向かった。夏休み初日の朝ごはん前というのはなんとも解放感を感じる時だった。
「ママ、朝ごはんちょうだい」
キッチンにいるであろう母親に声をかけると、母親はパズルのようにばらばらになって床に落ちていた。それはどこにでも売っているパズルのようであった。
「またか」
少年はそう呟くと慣れた手つきで母親を組み立て始めた。まずは足の部分から。親指、人差し指、足の甲、ふくらはぎ、太もも。少年は無表情で次々とピースをつなげていく。そして最後のピース、目の部分をはめ込むと、そのパズルだったものはゆっくりと起き上がり、少年を睨みつけた。それは全身が多くの色で彩られた母親であった。
「いい加減にしなさい! あなたが私を愛さないからまた崩れてしまったでしょう!」
人間ではないかもしれないが、それは少年の、彼の母親であった。
「うるさいな、前よりうるさい気がする」
少年は眉をひそめて母親の肩をグッと握った。
「またなの? またそうやってママを困らせるのね。だいたいね、ママは——」
母親は肩から砕け、またパズルに戻った。
「なかなか、上手くいかないな。朝のママというのは優しく、朗らかで、否定しないものなのに。難しいなあ、やっぱり」
母親の頭のピースを一つ手に取ると、少年はそれをゴミ箱に投げ捨てた。ゴミ箱にはたくさんの母親だったものが捨てられているようであった。
「もっと、優しい色を使おう。そうだな、薄い黄色とか」
少年は新しいピースに思った色を塗ると、またパズルを組み始めた。そして、また母親は起き上がる。
「おはよう。朝ごはんは?」
少年に優しく微笑みかける母親。少年はとりあえずこの出来に満足し、ホットケーキを焼いて、と母親に言った。
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