追放のスペシャリスト 〜俺が追放する奴はみんな成り上がる。『戻ってきてくれ』って言わなきゃダメですか?〜

鍋豚

前編 〜『戻ってきてくれ』って言わなきゃダメですか?〜


「申し訳ないが、君をパーティーから追放する」


 心苦しい宣告。

 だが俺は心を鬼にして、目の前に座る青年にその言葉を告げる。


「わぁ! どうもありがとうございます! 今までお世話になりました!」


 しかし、返ってくるのは満面の笑み。

 たった今パーティから追放された青年は、あまつさえスキップ気味で酒場を去って行った。


「……なぁ、ホプレス?」

「はい、なんでしょう?」


 自分が正しい言語を話せているか不安になって、隣に座るヒーラーのホプレスに確認を取る。


「俺はさっきの彼をパーティーから追放したんだよな?」

「しちゃいましたねぇ〜」

「じゃあ何であんな嬉しそうなんだ」

「彼も信じてるのでしょうね〜。あのウワサを」


 あの噂……。俺がリーダーを務めるパーティー〈エクス・パルション〉から追放された人間はその後成り上がることができる、って話だったか。


「まったくバカバカしいな。ただの偶然だろ」

「でも実際、追放された方は皆さん成り上がっているわけですし」


 確かに、俺が追放した後に突如チートスキルが覚醒したり、レアアイテムを手に入れて一気に強くなったり、なんてことが稀に……いや、結構な頻度で……いや、ほぼ確実にあるのも事実だ。


「はぁ〜。追放された皆さんはどんどん成り上がってるというのに、私だけまだBランクだなんて……。バニッシュさん〜、そろそろ私のことも追放してくださいよぉ〜」

「お前まで追放したら俺ひとりになっちゃうだろ……」


 追放に次ぐ追放で、パーティーメンバーは今や俺とホプレスの二人だけとなってしまった。

 新たに加入する者もいるのだが、これまた追放に次ぐ追放ですぐに巣立ってしまってなかなか定着しない。


「あ、この後、パーティー加入希望の子が面接に来ますよ」

「またか……。最近多いな」


 入団を希望してくれる人がいるのは有難いのだが、ここ最近入団してくるのは俺の噂を聞きつけた追放目当ての不真面目な連中ばかりだ。ハナっから追放される気マンマンなので、真面目に仕事をしないのである。どうせ今日来るのもそのたぐいだろう。


「じゃあ新しい子が入ったら私のこと追放してくださいね〜?」

「何度も言ってるが、そんなに辞めたきゃ辞めてもらっていいんだぞ?」

「だからぁ〜それじゃダメなんですって! 自分から辞めたんじゃ追放ではないじゃないですか! バニッシュさんに追放してもらわないと意味ないんです〜!」


 ウェーブがかった金髪の毛先をクルクルと弄びながら、ホプレスは可愛らしくプク〜と頬を膨らます。


「はぁ〜、追放されるために無能のフリをするこっちの身にもなってくださいよ〜」

「おまっ……もしかして『間違えて敵を回復しちゃいました〜!』とかワザとやってるのか?」

「あ、当たり前じゃないですか〜。追放してもらうためですよ〜」


 引き攣った笑顔を見せるホプレス。雪のように白い肌にじんわり汗が浮かんだのが見えた。どっちだコレ。ガチなのか冗談なのか分からん。


「こんなに無能ムーブかましてるのに追放してくれないなんて……。ほんとは私のこと好きなんじゃないんですか〜?」


 なんて軽口を叩いていると、入団希望者と思われる少女が俺達のテーブルへとやって来た。


「はじめまして。キューファと申します。弓使いです。駆け出しの未熟者ですが、精一杯頑張らせて頂きます。よろしくお願い致します」


 キューファと名乗った少女は深々とお辞儀する。

 凛々しい顔立ち。肩ほどの長さできっちり切り揃えられた黒髪。前髪はミリ単位で正確にセンター分けされており、彼女の几帳面さを象徴しているようだった。


 めっちゃ礼儀正しくて真面目そうな子来たな。久々にマトモそうな入団希望者だ。こんな真面目そうな子が追放志願者だとは思えない。疑ってごめん。


「はじめまして、ホプレスと言います〜。ヒーラーですが、支援系の魔法も得意です〜」

「よろしくお願いします、ホプレスさん」


 ホプレスの挨拶を受け、綺麗な九十度のお辞儀を返すキューファ。ほんと礼儀正しくて良い子だ。


「俺がリーダーのバニッシュだ。よろしく」

「よろしくお願いしますクソボケカスコラァ」


 礼儀ただ……ん?


「キューファさん、座ってください。お茶をどうぞ〜」


 なんか聞こえた気が……。しかしホプレスは特段気に止める様子もなく、紅茶を注いでカップを差し出した。

 聞き間違いだったか? いやでもコイツ、テーブルの陰でさり気なく俺に中指立ててないか? いやでもこんな礼儀正しい子がそんなことをするはずが……。


「どうもありがとうございます。いただきます」


 キューファは何事もなかったかのように差し出されたティーカップを受け取ると、それを上品に持ち上げ、しばし香りを楽しんだ後、カップを口に運ぶ——のではなく、


 カップの中身を、俺にぶっかけてきた。


「熱っ!? えっ!? いきなり何っ!?」

「ムカつきました? 追放ですか? 追放しちゃいますか??」


 こいつ! やはり追放志願者だったか!

 たまにいるんだよなぁ、手っ取り早く追放されようと失礼なことする奴!

 にしても初手で熱々の茶をぶっかけてくるとか、中々肝が座った追放されラーだ。危なかった。あやうく追放しかけたぞ。


「舐めんなよ。こんくらいじゃ追放しねぇ」

「くっ! さすがは上級追放ニストツイホ二スト! 心が広い!」


 褒められてんの? あと追放ニストツイホ二ストってなに?


「こらこら、新人さん! ダメですよ〜そんなことしちゃ!」


 さすがのホプレスもお怒りのようだ。めっ!と可愛らしく叱責しながら、俺の火傷に手をかざし、回復魔法による治癒を始めてくれた。暖かな緑色の光に顔が包まれる。


「露骨な嫌がらせでは、気持ち良く追放してもらえませんよ〜!」


 追放は気持ち良くするもんでもないからな?


「そ、そんなっ! では一体どうすれば!?」

「さり気なく無能感を出せばいいんです。例えば今、私は回復魔法でバニッシュさんの火傷を治癒しています。これを見て何か気づきませんか〜?」


 俺を包む緑色の光をまじまじと見つめるキューファは、何かに気がついたようにハッと目を見開いた。


「火傷が、全然治ってない……?」

「その通り! だいせいかい〜!」

「はっ? どういうこと?」


 おほん、と咳払いをすると、ホプレスは自信満々に答える。


「実は、これは回復魔法ではありません。ただバニッシュさんの顔に緑の光を当ててるだけなんです」


 は? つまり回復してるフリをしてるだけってことか!? いつも回復魔法って言ってこの光を当ててくれてるけど、アレ嘘だったの!? 確かにあんまり回復しないな〜と思ってたけども!


「『やってる感はあるけど全然役に立ってない』。これこそ追放の第一歩なのです!」

「なるほど! 勉強になります! 師匠!」


 そんなもん勉強すんな! 弟子入りすんな!


「ただし、バニッシュさんは超鈍感なので、こういうさり気ない無能アピールをしても気が付いてくれません……」


 じゃあやらないでくれるかな?


「あまつさえ、プラシーボ効果で自己再生してしまうのです」

「ほんとだ、ただ光ってるだけなのに火傷が治り始めてますね」


 俺の体すごくない? ヒーラーいらなくない? あれ、こいつ追放してよくない?


 ヒクくらい驚異的な速さで火傷が治ったのを見届けると、キューファはテーブルに額を着ける勢いで深々と頭を下げた。


「バニッシュさん、先程はすみませんでした。追放されたいがあまり、大変失礼なことを……」


 空回りしているだけで根は真面目な子なのだろう。


「師匠もすみませんでした。せっかく淹れてくださったお茶を粗末にしてしまって……」

「全然大丈夫ですよ〜。なんなら支援魔法を掛けて命中精度上げておきましたから!」


 どうりで一滴残らず顔面にヒットしたワケだ。


「よかったらもう一杯どうぞ〜。バシャッ!っといっちゃってください!」


 それ紅茶ぶっかける音だから。それを言うならクイっとだろ。いや紅茶はクイっと飲まないけど。

 てかそうやって煽るなよ〜。このタイプはすぐ調子に乗って……熱ゥ! ほらぁ言わんこっちゃない! またぶっかけて来やがった! ほんで俺の体の自己再生速度が上がってるんだけど? もう火傷治っちゃったよ。何これこわぁ……。


「だから俺は紅茶ぶっかけられたくらいじゃ追放しないって」

「すみませんでした……今後はあまりぶっかけないようにします」


 全くぶっかけないようにしよう?


「……まぁ分かってくれればいいよ。つか、追放は別に名誉なことじゃないからな? 普通にパーティーの一員として頑張ろう、な?」

「ホプレス師匠、嫌がらせも無能アピールもダメなら、他にどんなことをすれば追放してもらえるのでしょうか?」


 聞く耳もっちゃくれねぇな。


「逆に聞きます。どんなことをすればいいと思いますか?」


 キューファはしばし考え込んだ後、名案が浮かんだ!とばかりに顔を輝かせて答える。


「バニッシュさんの所持金を盗む、なんていうのはどうでしょう!?」

「あ、それは普通に犯罪なのでダメです」


 よかったぁ、ホプレスさんに常識が残ってて。


「つか前にいたよなぁ、俺のカネ全部盗んで追放されようとしたヤツ」

「いましたねぇ」

「先駆者がいたとは……。その方はどうなったのですか?」

「通報した」

「追放じゃなくて通報した、と? つまんないですね」

「いやシャレじゃないから」

「お? イラってしました? 追放ですか? 追放しちゃいますか??」


 うぜぇ、超うぜぇ。ここぞとばかりに中指立てんな。『ついでに煽っておこうかな?』じゃないんだよ。

 できることなら今すぐにでも追放してやりたい。でも口車に乗せられているようで悔しいから追放してやらない。


「その後、お金泥棒の彼はどうなったか知ってます〜?」

「いや、知らん」

「前科があったらしく、国外追放されてましたよ〜」

「えぇ……」


 まぁ国外とはいえ念願叶って追放されたんだし、彼も本望だったのか……?


「で、国外追放された後、たまたま隣国の姫様が山賊に襲われてるのを助けたらしいのです。それで、そのままご結婚されたそうです〜」


 なんだよ! 結局成り上がってんじゃねぇかよ!


「や、やっぱり。バニッシュさんに追放されると成り上がれるっていう噂は本当なんですね……」


 偶然だと思うんだけどなぁ……。


「そういえば、私が来る前に誰か追放しました? 背の高い男性の方です」

「ああ、したな。どうかしたか?」


 笑顔とスキップが素敵なアイツのことだな。


「やっぱり! あの人、酒場から出たところの福引で三等当ててましたよ!」

「まぁ! さっそく追放の恩恵ですか〜!」


 それは絶対偶然だと思う。しかも三等って微妙な。つかアイツ、追放されたその足で福引なんか楽しんでんじゃねぇよ。なに早速運試ししてんだよ。


「私も追放されたいです! 教えてください師匠! どうすれば手っ取り早く追放してもらえるのでしょうか!?」


 真面目なのか不真面目なのか分かんねぇなコイツ。

 ホプレスは人差指を頬に当て、うーん、と何やらキュートに考え込む仕草を見せる。


「そうですねぇ。ひとつ注意しないといけないのは、バニッシュさんに好かれ過ぎようにする、ということですかねぇ。中々追放してくれなくなるので。現にバニッシュさんは私のことが大好きなので、一向に追放してくれません」

「うわぁ……やはり嫌われたほうがいいんですね」


 やめろ、中指立てんな。両手でやんな。そのまま両手をクロスすんな。なんかちょっとカッコいいなそのポーズ。流行らせようぜ。


「ですね〜。でも一番重要なのは『あれ? コイツいない方がいいんじゃね?』って思わせることですね。そう思わせれば勝ちなのです!」


 いや、なんかいろいろ負けてるだろそれ。


「なるほど! 勉強になります! 具体的にはどんなことをやればいいんでしょうか?」

「いるだけで悪影響を与えるのが理想ですね〜。私の場合は、バニッシュさんに強化魔法と称してさり気なく麻痺と毒の魔法をかけてます」

「おい待てマジかそれ? 初耳だぞ」

「大マジですよ〜! あれれぇ〜? 追放したくなっちゃいましたぁ?」


 確かに言われてみれば、戦闘中にやたら体が動き難くなったり気分が悪くなったりすることが頻繁にあった。

 今年で三十歳になるし、単に年齢のせいかと思っていたが、まさかコイツが原因だったとは。


「はっ。だが残念だったな。そんなことじゃ追放してやんねぇよ」

「はぁ〜。嫌がらせの告白をしたというのに……。どんだけ私のこと好きなんですか、まったくもう」

「もしかして、最近やたら腰と膝が痛いのもお前の魔法が原因だったのか?」

「そ、それは普通に歳のせいかと……。キュ、キューファさんは、どういう事をすれば追放されると思いますか〜?」


 なんか気を遣われて苦笑いで話題変えられたんだけど?

 くそぉ、してぇ。追放してやりてぇ。


「私の場合は弓使いなので……敵に攻撃するつもりが、間違ってバニッシュさんを背後から射てしまう、とか?」

「いいと思います〜!」


 よくねーよ! 死ぬわ!


「私の支援魔法があれば百発百中でバニッシュさんに命中しますよ〜!」


 敵に対してやってくれないかな、その連携。


「あれ、師匠と私、最強コンビじゃないですか!? 二人揃ってダブル追放いけそうじゃないですか!?」

「じゃあ追放された後は二人でパーティー組んじゃいましょう〜!」

「いいですね! ぜひ!」


 それ実質俺が追放されてないか?


 ホプレスとキューファが俺の暗殺計画を企てていると、亜人族の青年が俺達のテーブルへやって来た。


「バニッシュさん、お久しぶりです!」

「えっと君は……」


 狼っぽい顔付きの、槍使いと思しき青年。見覚えのある顔だ。

 しかし、いかんせん追放しまくっているので名前が出てこない。


「追放者ナンバー9のグラジュ君ですよ〜! 決まり手は『伝説の聖剣を売っちゃった』。追放タイムは五日と四時間。歴代四位です」


 いたなぁ、そんなヤツ。散々苦労して手に入れた伝説の聖剣を二束三文で売り飛ばしやがったヤツだ。あれはマジでムカついたなぁ。

 つか記録取ってんなよ。追放タイムでランキング作ってんじゃねぇよ。


「バニッシュさん、その節はお世話になりました! おかげ様で、今では自分もSランク冒険者です!」


 くぅ。コイツも例に漏れず出世しやがって! ムカつく!

 しかも横にいるのコイツの彼女か!? めちゃくちゃ可愛いケモミミ少女連れてんじゃねーかよ!


「それで、その、あの、『例のアレ』お願いできないっすか?」


 照れ臭そうに、おずおずと切り出すグラジュ。

 キューファは意味を汲み取れず首を傾げていたが、俺には何をして欲しいのか伝わった。


「ちっ。しゃーねーなー。どういう感じのがいいんだ?」

「上から目線系でお願いします!」

「わーたっよ。いくぞ? んんっ、おほん」


 声色を整え、意識を集中。そして、


「ふははっ、久しぶりだなぁ、グラジュよ。俺様から追放されてさぞ苦労したろう?」


 役に入り込む。

 気分は自信に満ち溢れたプライドの高い傲慢な冒険者だ。グラジュも役に入り込んでいるのか、軽蔑するような眼差しを俺に向けてくる。


「喜べグラジュ。お前が泣いて懇願するなら、我が〈エクス・パルション〉に戻してやってもいいぞ?」

「断る」

「ふはははっ、そうだろう、俺様の寛大さに——今、なんて?」

「断ると言ったんだ。今更そんなこと言っても、もう遅い」

「そ、そんなっ! 待ってくれ! 戻ってきてくれぇぇーー!!」


 引き止める俺には目もくれず、グラジュはケモミミ少女を連れて颯爽と酒場をあとにした——のだが、すぐに踵を返し、興奮気味でこちらに戻ってきた。


「くううううう! きもちぃぃぃぃ!! これこれぇ! これっすよぉ! これこそ追放ざまぁの醍醐味! ありがとうございました、バニッシュさん! これからも頑張れそうです! これ、謝礼っす」

「まいど」


 金を受け取って握手を交わしていると、キューファが困惑したような声を出す。


「な、なんですか、これ?」

「これが当パーティー人気のアフターざまぁサービスです。成り上がった後に顔見せにくると、バニッシュさんがザマァさせてくれますよ〜」


 代わり解説してくれるホプレスは、寸劇の出番が無くて少し残念そうにしていた。


「お、お金取るんですね……」

「当たり前だろ。誰がタダでザマァさせてやるか」


 正直、このビジネスはかなり儲かる。成り上がった奴らは金を持っているし、ザマァに関して金払いも良いのだ。このまま冒険者を辞めて、専業の追放ざまニストになろうかと本気で考えている程だ。


「あの、バニッシュさん。来月またザマァしに来てもいいですか?」

「まぁ別にいいけど」


 ……なるほど、ザマァのサブスクか。悪くない案だな。

 画期的なビジネスアイディアを残し、グラジュとその彼女は上機嫌で去って行った。


「キューファさんはどういう感じのザマァがしたいんですか?」

「いえ、私は……。ただ成り上がりたいだけなので、ザマァとかそういうのは別に……」

「強いて言うなら〜?」


「そうですね、強いて言うならバニッシュさんは実は私のことが好きで、追放することによって私の心を惹けるつもりでいた、という設定がいいですね。で、中々戻って来ないので自分から会いに来るんですが、その頃には既に私にはステキな彼君がいて、諦めきれないバニッシュさんは最終的に土下座して懇願する、って感じがいいですね」


「めちゃくちゃ具体的なビジョン持ってるじゃねーか。あと土下座は追加料金だからな」

「それに、バニッシュさんは私のことが大好きなので、その設定はちょっと無理がありますねぇ〜」

「女性には婚約破棄プランがオススメだぞ」


 ふと、眉をひそめて怪訝な表情を浮かべるキューファ。今の会話に何やら引っ掛かる所があったのだろうか。


「あの……さっきからバニッシュさん、ホプレスさんが好きだということを全然否定しませんけど、ほんとにホプレスさんのこと好きなんですか?」

「ハ、ハァァァ? ちちち違げーしハァ? なに言ってんだお前ハァ?」

「えぇっ!? バニッシュさん本気だったんですか?」


 驚いた様子を見せるホプレスは、何か思い当たる節があったのか、パン、と手を合わせる。


「た、確かに、追放タイムアタック一位の決まり手も、私に向かって言った『お前可愛いな。俺の女になれよ』でしたもんね!? なんと驚異の八分五十二秒! まさかの嫉妬からの追放だったとは!」

「ハァァァ? ちげーしハァ? うぜー。お前らマジうぜー」

「お? お? 追放ですか? ついに私も追放ですかぁ〜?」

「師匠と私のダブル追放きちゃいますかぁ〜?」

「つかキューファよ。追放追放言ってるけど、お前まだパーティに入ってすらいないだろ? これまだ面接中だよな?」

「た、確かに言われてみれば……。いやでもホラ、『門前追放』という言葉もありますし。パーティに入らなくても追放できるのでは?」

「ねーよ! 勝手に言葉作んな! ……お前、その考え他の奴らに広めるなよ?」


 そんなことしたら面接だけしに来て紅茶ぶっかけて帰るやつ続出だ!


「ということは、パーティに入れていただけると?」

「ちっ、しゃーねーなー。いいよな、ホプレス?」

「歓迎ですよ〜」

「よし、キューファ。今からお前は〈エクス・パルション〉の一員だ。そしてっ! 只今を持ってっ! お前を〈エクス・パルション〉から追放するっ!!」

「まさかのノータイム追放!? ヤッター! でも何かちょっとムカつきます!」

「キューファさん凄いです〜! ゼロ秒追放なんて聞いたことありません! よっ! 社会不適合者!」

「や、やめてください!」

「バニッシュさん、ついでに私の追放は〜?」

「……」

「私は〜??」

「ホプレスは……追放しない」

「なんで私は追放してくれないんですかぁ!? ほ、ほんとに私のこと好きなんですかぁ!?」

「もしかして、パーティーメンバーを追放しまくってるのは、ホプレスさんと二人きりになりたいが為だったりして」

「ハァ!? おまっ、お前なに言ってんのハァ!? 仮に、仮にそうだったとしても!? 追放された方は成り上がってるんだし!? ウィンウィンだよなぁ!?」

「否定はしないんですね……」

「バニッシュさん最低です! そんな私利私欲のために追放する人だなんて思いませんでした! もう追放です! バニッシュさんが出てってください!」

「ハァー? この俺を追放だとぉ!? いいだろう! だったらお前のことも追放だ! 追放返しだ!」

「いいですよ〜だ! お互いに追放ですね!」

「それはもうただのパーティー解散では?」

「おい、そこのお前ら! さっきからギャーギャーうるさい! 他の客に迷惑だ! 店から出て行け!」

「酒場から追放された!?」



 ——こうして、〈エクス・パルション〉を追放されたキューファは無事にSランク冒険者となり、やがて魔王を討伐するまでに至った。


 俺とホプレスは何やかんやあって結婚。夫婦で追放ざまぁビジネスを始動することになったのだが、それはまた別のお話。

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