第2話 力の種
今の俺にはとにかく金が必要だった。ケビンのせいで多額の金が消えてもう数日分の食費くらいしか残っていなかった。
俺は冒険者を続けることにした。手っ取り早くお金を集めることができるだろうから。数少ない友人に頼るという手もあったけど、俺の勝手で頼りたくはなかった。こんな俺でも優しくしてくれた人達に迷惑はかけられない。
パーティを結成した方が死亡率は下がるが、もうあんな思いはこりごりだったので当分はソロで活動することにした。
スライムくらいだったら死ぬことはあんまりないし。
そして、ケビンの言葉が想像以上に悔しかったのかもしれない。
周りの人達を見返したかったかもしれない。
だから、俺はせめてスライムくらいは倒せるようになりたかった。
俺は意を決して最低難易度Fランクダンジョン「春の草原」にやってきていた。
心地良い日差しが照りつけ草花を靡かせるそよかぜ。
普段なら、俺は温かな植物の香りの中緑のカーペットに寝転んだだろう。
だけど、今の俺にはそんな余裕はない。
「やああああ!!くらえ!」
そうやってナイフをスライムに突き刺そうとするが、スライムは素早い動きで躱すと体当たりをしてきた。それをなんとか受け止める。
何度も何度も同じ流れを繰り返していた。だんだん俺は疲労が溜まってきていたが、スライムは全く疲れを感じていない様子だった。
「うわっ!!」
俺は動きが鈍ってスライムの体当たりをまともに食らって倒れてしまった。
スライムの決して侮れない点として、獲物の顔に貼り付いて窒息死をしかけてくることがある。
依頼の情報収集の時にそれを聞いていたため、その話が頭をよぎった時。
スライムが俺の顔を目掛けて飛び掛かってきた。
「うわぁ!!」
俺は恐怖のままにスライムの弱点である核目掛けてナイフを突き出した。
がむしゃらに放ったそれはスライムの核を貫いた。
「やった……やったぞ!」
《魔石・極小×1がドロップしました》
《ディラン・ヘンストリッジのレベルが上がりました》
「うわっ!?」
周囲を見渡すが誰もいない。
そうか、これが天の声っていうやつか。
スライムがドロップした指先ほどの大きさの魔石・極小は一個につき銅貨一枚にしかならない。
だけど、俺にとってそれは言葉にならないほど嬉しかった。
そして、何より冒険者になって2年間できなかったレベルを上げる事にも成功した。
確かに感じる。以前の俺よりも強くなっていることを。
「よし!このままいくぞ!」
俺はどんどんスライムを倒していった。
五体ほど倒したので、今日の宿泊代と食費代の銅貨5枚を稼げた。もっと稼ごうと俺は次のスライムを求め通路を突き進んでいた。
通路の突き当たりを曲がろうとした時俺は咄嗟に身を隠した。
「なんでゴブリンがここに!?」
ここ一階層には基本スライムが出てくる。しかし、稀にレアモンスターとしてゴブリンがポップするのだ。だけど、その数が異常だった。
ゴブリンも弱い魔物の部類だけど、スライムと比べたらかなり強い。そんなやつが五体もいるんだ。
「気づかれてないよな……」
俺はそろりそろりと後ずさっていたが、恐怖のせいかバランスを崩して倒れてしまった。
壁の中へと。
「え、え!?」
俺は困惑しながら周囲を見回した。稀にダンジョン内に隠し部屋が生成されることがある。発見することは困難だが、その中にはレア度の高い物が入った宝箱が必ずある。
そして、俺の目に古びた宝箱が目に止まった。
「宝箱……やった!」
俺は中身に嬉々として宝箱に駆け寄った。当分の生活費は稼げるだろうから。俺は大いに期待して宝箱を開けた。
《力の種×3を入手しました。》
「え……種……?」
俺は期待を大きく裏切られた。赤い種なんかが高く売れる訳が無かったから。
そして、俺は種を持ってあることを思いついた。
「試しに栽培してみようかな」
俺はそう呟くと、久方ぶりにスキルを発動した。
「《栽培》!」
スキルを使用した瞬間、種から新芽が芽吹き瞬く間に成長して赤い花が咲き、そして枯れて二つの木の実が出来た。
一つの種から二つの種が出来た。
「ふーん、二つ種が出来るんだな」
俺は多少失望しながらも種を回収して袋に詰めた。
「さてと、帰ろう」
ーーーーーーーー
「おおー、ディランじゃねーか、何しにきたんだ?」
冒険者ギルドにやってきた俺に話しかけてきたのは、数少ない友達、いや親友だといっていいCランク冒険者、スベンだった。
一緒に故郷の村から迷宮都市ケルオンにやってきた幼馴染でもある。
「ああ、換金しにきたんだ」
「換金って、お前倒してきたのか!?」
あまりに衝撃的だったのか、スベンは大声で驚いた。その声で注目を集めてしまったので俺はスベンを連れて併設されている酒場の隅へとやってきた。
「今日倒せたんだ、スライムだけど」
「マジか!?冗談じゃないよな?」
「ああ!しかも6体も倒せたんだ!」
皮袋から魔石・極小を取り出して見せると、スベンは涙で目を潤ませると感嘆の声を上げた。
「そうかそうか、お前がなー。なんか感動するぜ」
「ははっ、そんな大したことじゃないよ」
と、話していて俺は今日隠し部屋を見つけて宝箱を開けたことを伝えた。
スベンは興奮した様子で
「おお!それで何だったんだ!?」
「全然大したものじゃなかったよ」
とまた大声で言うが俺はそれを宥めながら皮袋から種を取り出した。
「これ何だけど。力の種って言うらしいんだ」
「マジかよ!!!?」
スベンは一段と大声で驚嘆の声を上げた。
スベンはハッとした様子で周囲を見回すと、腕を首に回してきてコソコソと小声で話し出した。
「ディランよぉ、お前それは隠しておいた方がいいぜ」
「どうして?」
「どうしてってお前なぁ」
スベンは呆れたように溜息をつくと、説明を始めた。
「いいか、それはな「力の種」っていうレベルアップ以外で唯一能力値を上げることができる激レアの代物なんだ。冒険者からしたら誰でも欲しいに決まってる!」
「そうなんだ……」
じゃあ、これさえあれば俺も強く……
今日見かけたゴブリンにだって勝てるかもしれない!
それに栽培して増やせばもっと強くなれる!
「ありがとう、スベン!早速帰って試してみるよ!」
「おーいおい待て、ディラン。換金しなくてもいいのか?」
「あ、忘れてた」
「たくっ、お前なぁ……」
まるで子供の頃に戻ったかのようにハハハと笑いあう俺とスベン。思えば久しぶりに心から笑えた気がする。
ずっとスベンは俺のことを心配してくれていた。俺が一年前ケビンのパーティに誘われた時、スベンは止めてくれた。
当時からケビンは素行が悪く他のパーティメンバーも人格的に問題が多かったため評判が悪かった。
しかし、当時ソロでまともに稼げていなかった俺にとってはそれでも好条件だったのだ。戦闘面がてんでダメだった俺を拾ってくれたので、その点では唯一あいつに感謝している。
「よし、ディラン!祝いに今日は奢ってやるよ!」
「え、でも」
「気にすんなって!俺も嬉しいんだよ、さっさと換金してこいよー」
スベンは俺の背中を痛すぎる程、バンと叩くと近くのテーブル席に座った。
本当にこいつには頭が上がらないよ。
この日が俺の人生におけるどん底から這い上がる最大の転換点だった。
ーーーーーーーー
ディラン・ヘンストリッジ
17歳 男
LV:2
HP:15/15
MP:9/10
筋力:4
忍耐:20
魔力:0
知力:33
敏捷:17
運:6
スキル:《栽培》
SP:5
ーーーーーー
《栽培》
高速成長:LV1
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