水面下で暗躍する者

 そこには大人たちが50人以上集まっていた。毎月恒例の職員会議の場である。高世の意見を聞いた教科担当がそのことを職員会議で議題に挙げだのだ。それを聞いた途端、会議室は重い沈黙に包まれた。その沈黙を打ち破ったのは年配で威厳を漂わせている男性教師だった。教務主任立花である。

「先生方、どうしますか?この件を見過ごすことが我々にできますか?もちろん、皆さんわかっているとは思いますが」

 そう、職員会議が下した決断は「高世の計画を潰す」というものだった。なぜ、そんな決断が下されたのか。少し考えれば、おかしいとみんなが思うはずの応援歌練習になぜ職員たちは固執するのか。もちろん大部分の職員が多少なりともおかしいと感じていた。だが、それを行動には移せない理由があるのだ。

 高世が入学したこの天下高校はその昔、明治維新後に形成された4大財閥にも匹敵すると言われている「十川財閥」によって設立された私立高校なのであった。戦後のGHQ主導の財閥解体や教育改革を経て公立高校に一転し、同時に十川財閥も消滅したが、十川家自体は現在も存在し、未だに天下高校に強い影響力を持っている。十川家の歴代当主は応援歌練習を愛する「変わり者」であった。そして何を隠そう、教務主任の立花は現十川家当主十川元徳の実の甥なのである。両者は今なお太いパイプでつながっている。と、そのことを会議室にいる教職員全員が知っていた。同時に、立花、すなわち十川家に歯向かえば、自分達の生活にも打撃だということも。それゆえに誰も「伝統」を変えることをできずにいたのである。

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