窓際のリリー

ふゆ

第1話

授業終わりのチャイムが鳴る。

まだ初夏だと言うのにもう蒸し暑く、首筋から流れる汗がシャツの襟を湿らせていく。

節電だからとかで教室のエアコンは使わずに窓を全開にしていて、そのせいでバサバサとカーテンが広がり邪魔だ。教室ではクラスメイトが仲間と今週のジャンプ読んだとか、昨日見たドラマの話だとか、中身があるようでないようなつまらない話をしている。

いったいそんな話になんの意味があるんだろうか、くだらない話をしているんだったら窓際でひとりほうけているほうがよっぽど有効な時間の使い方だ。本当に面白くない奴らだ。ああ!つまらない。


「窓際の席って涼しくていいよねぇ」


室内の出来事に関心なさげに窓の外を眺めているといつもの声が耳をくすぐる。

僕の前の席に座る彼女の声は鈴のように軽やかだ。黒く長い髪に真っ白な肌。他のクラスメイトの活発な女子とは違って清楚で可憐、足を揃えて慎ましく座る姿はまるで百合の花。

髪を耳にかきあげるその仕草は気品を漂わせつつも思春期の男子にはなんとも言えない色気があった。


全然涼しくねぇ、と僕は口を尖らせる。

「ふぅん、風が気持ちいい~って思ってるくせに?」

僕の滴る汗を指さしてにやにやと笑った。

うるさい。

手の甲で拭い、より一層口を歪ませた。拭いた途端にそこからまた新たに溢れでて、垂れた水滴がまた僕を不機嫌にさせる。

その様子を楽しげに眺める彼女はこの茹だるような暑さを微塵も感じないほどに涼しげだ。

汗ひとつ流していない彼女の首筋は陽の光を受けて真っ白に輝いていて、視線が自然とそこに吸い寄せられていく。

その視線に気づいたのか「えっち」と眉に皺を寄せた。不機嫌に睨む彼女が可愛いと思いつつ慌てて視線を逸らして、悪いと漏らす。

「ふふふ、いいよ、許す」

君も男の子だもんねぇと大人びた様子でこちらを微笑ましく見詰めた。


「君は、みんなに混ざらないの?」

答えなんて分かりきってるくせに、何も知らないような澄んだ瞳をして俺に尋ねる。

どうして混ざる必要がある?

「みんな楽しそうだよ」

どこがだ、あんな中身のない会話、するだけ無駄だ。

「そうかなぁ、、私は中身のない会話好きだよ」

今だってそうじゃない、ところころと笑った。

失敬な。これは無駄ではない、有意義な時間の過ごし方だ。納得のいかない顔をしていると「あらあらご不満がおあり?」と同じように不機嫌になる彼女。

「ほんとはまざりたい癖に、どうして強がるのかしら」



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窓際のリリー ふゆ @m0fuyu

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