啓示
天界。
それは地上のはるか上空にある現実世界とは位相のことなる異空間である。
ヤハウェは、千数百年前ほどに誕生した比較的新しい神であるが、ここエウロパの地で急速に勢力を拡大していた。
神聖ルマリア帝国でも、ヤハウェを唯一絶対神と
天使は、天界と地上をつなぐ神ヤハウェと人との仲介者として、神に仕える
天使には、多くの位階があり、上級天使の
人間になじみのある
◆
学校のあるアウクトブルグの町への出立も間近となったある日の早朝。
ルードヴィヒは、ヴァレール城の庭で座禅を組んで
この世界の武人は、体を巡る
剣聖であるグンターは、当然に
ルードヴィヒは、ふと何か崇高な気配を感じて目を開けた。
そこに、この世とも思えぬ光景が広がっていた……。
純白で鳥のような翼を生やしたこの上ない
見たこともないデザインの鎖かたびらを着こみ、腰には剣を差した軽装の武装姿で、後背には後光がさし、同様に翼を生やした者を多数従えている。均整のとれた体つきは武人としても一流に見えた。
ルードヴィヒは、なぜかその顔つきや雰囲気が自分に少し似ていると思った。
(んっ? なんかおらにちっと似とるのぅ……だが、まあええか……)
ルードヴィヒの頭の中に声が響く。
『我はミカエル。
男の言葉に偽りがないならば、ミカエルは
「なんだそらぁ? おらは教会には勉強しに通ったども、お祈りなんかしたことないっちゃ。
ルードヴィヒは、素朴な疑問を口にした。
それを聞いて、ミカエルは少し険しい表情となった。
『まさか神を信じないと申すか?』
ルードヴィヒは、素直に釈明をする。
「そこまでは言わんども、正直、真面目に考えたこたねぇ」
(神はなぜこのような者を選ばれた?)
ミカエルの脳裏を疑問がかすめるが、気を取り直す。
『神の深謀遠慮は我らごときでは計り知れぬもの。素直に使命を受け入れるがよい』
「そらぁ断るこたぁ……」
と言いかけたところで、ミカエルの眼光が一段と鋭さを増した。
「……できねぇようだのぅ」
ルードヴィヒは、素直に折れた。
それに、先ほどから鑑定スキルを使ってミカエルのジョブやレベルを看破しようと試みているが、ことごとく
すなわち自分より格上の武力を持っていると思って間違いない。
(まさか、攻撃を仕掛けてくるこたぁあるめぇが……)
『では、汝に神からの使命を伝える。フリードリヒⅡ世・フォン・ホーエンシュタウフェンを帝位につけよ』
「ええっ! そんな大それたこたぁ……」
『全知全能の神はすべてを見通しておられる。汝にできぬことはあるまい』
「はぁ……わかったっちゃ」
ルードヴィヒは、覚悟を決めた。
『よろしい。それに当たって、汝を手助けする従者を授けよう』
「はぁ……どうぞ好きにしてくれや」
ルードヴィヒは、もはや自暴自棄ぎみな気分になってきていた。
『ハラリエルよ。これへ』
『はい。は~い。ミカエル様』
そう言いながら登場した天使は、ルードヴィヒと同じ年頃に見える美少年(美少女?)だった。
天使であるから美しい顔をしているのはもっともだが、着ている衣服は古代風の
(まちっと少し体のラインが出る服なら性別がわかるんがのぅ……まあどっちでもええか……)
ミカエルは目じりを少し
『返事は短く、1回でといつも言っているだろう!』
『は~い。わかりましたぁ』
ミカエルは、ちょっと間の延びた答えぶりに
『では、ハラリエル。しっかり役目を果たすのだぞ』
そう言うなり、ミカエルは随従する天使たちを引きつれて、天界へと戻って行った。
それを見て、ルードヴィヒはホッと一息をついた。
ふと思いついて自分のステイタスを確認すると、本来のジョブである"魔法剣士"のほかに、サブのジョブとして"
"使徒"とは、神から使命を啓示された者のことをいう。
(ちっ。
"使徒"などというジョブを持っていることが教会にでも知れたら、悪い扱いではないにせよ、どんな展開になるかわかったものではない。
『あのう……ルードヴィヒさん。ハラリエルです。よろしくお願いしま~っす』
ハラリエルは、中空に浮きながら、ボケッとした顔で言った。
「おめぇ。いつまでそうしてるつもりでぇ? おらを助けてくれるがぁろぅ。だったら実体化できねえんけぇ?」
『ええ。できますよぅ』と
そして、ハラリエルは実体化した……が、天使の羽がそのままである。
「おめぇ。その羽はなんとかできねえんけぇ? 天使だなんてバレたらひと騒動
「大丈夫ですよぅ」と言うと、ハラリエルは「ん~っ」とちょっと力んで羽をしまう。
(リアルの声を始めて聞いたども、男とも女とも言えねぇ微妙な高さだのぅ)
「後はその天使っぽい名前はなんとかしねえとな……ハラリ……リエル……ええぃ、
「ええ。いいですよぅ」
とハラリエルは感慨も何もなさそうに気の抜けた声で答えた。
だが、それに反して、ハラリエルは、気に入ったようにニコニコ微笑んでいる。
「ところで、おめぇ天使の位階は何なんだ?」
「
「いや。何でもねぇ」
(やっぱし最下級だったか……聞くまでもねかったのぅ)
◆
「
ヴァレール城内に戻ったとき、女騎士のクーニグンデが出迎えてくれた。
が、ハラリエルの姿を見て、クーニグンデの表情が一転して
「主様。その者はいったい何者なのですか?」
クーニグンデはハラリエルに対し、鋭い眼光を発している。
「ひえ~っ。この人怖いですぅ」と言うなり、ルードヴィヒの背中に隠れている。
「こいつはハラルっちぅて、のっぴきならねぇ事情でおらの従者にすることにしたすけ、よろしくたのまぁ」
「主様がそうおっしゃるのでしたら……」
クーニグンデは不本意ながらも同意したようだ。
だが、鋭い眼光はそのままである。
「ルードヴィヒさ~ん。何とかしてくださいよぅ」
「きさま! 何だ、その呼び方は! 従者ならば"様"をつけろ"様"を!」
「はいっ! わかりましたっ!」
クーニグンデに凄まれ、ハラリエルは冷や汗をかきながら答えた。
その後、祖父母にハラリエルを紹介する。
「ルー。そん子はどうしたがぁ?」
祖母のマリア・テレーゼが不審そうな顔で尋ねた。
「修行の途中で拾ったんだども、頼れる身内がいなくて困ってるっちぅんで、おらの従者にすることにしたがぁども……」
「従者の面倒をみるんはおめぇの
(んっ? 何か誤解されてねえか……? が、まあええか……)
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