第4章
第50話 作戦
それから皆で大部屋に移動し、食事を摂ることになった。
「さっきはすまない。気を遣わせてしまったな」
ガレオが隣の席で難しそうな顔をしながらシンに謝る。
「気なんて遣っていない。俺も同じ事を考えていたってだけだ。それよりもガレオって、よくすまないっていうよな?」
「あぁ、確かにそうだな。あまり意識はしてなかったが」
「こういう時は単純にありがとうって言えばいいんだよ」
「そうだな。シン、さっきはありがとう。助かったよ」
ガレオの表情が少し柔らかくなって、シンは心底安心した。
「シン! さっきのはシビれたぞ。俺はお前のような熱い奴は大歓迎だ」
「ありがとう。まぁ熱いというよりは、俺もあれがベストだと思っただけだけどね。そういやライアンは獣使いなんだよな?」
「そうだな。それがどうかしたか? もしかして獣使いに興味があるのか?」
「まぁ、初めて見たからな。どういう感じなんだろうって気になって」
シンはこの世界に来た時に野生動物達の恐ろしさを身をもって体感していた。
あんな獰猛な生物をどうやって従えているのか、シンは少し気になった。
「あれは契約魔法ってのを使ってるんだけどな。今度教えてやるよ」
「いいのか?」
二人の会話を一部始終聞いていたヒューゴがここで口を挟む。
「待ってくれライアン。シンは剣士になるんだ」
「俺そんなこと一言も言ってないぞ」
「なら獣使い剣使いでいいんじゃねぇか?」
「何だそれ? 意味がわからないな」
ヒューゴ、シン、ライアン、ガレオの四人が各々に同時に喋り出して収拾がつかなくなってきた。
「ははっ、もう滅茶苦茶だな」
突然ガレオが大声で笑い出した。腹を抱えて涙が出るほどに大笑いしている。その話を聞いていたルイスとグレッグは遠巻きで微笑みながらその様子を見ていた。
「やるな、エドワード」
「ヴァレリアこそ、前より胃が大きくなったんじゃないか?」
ヴァレリアとエドワードはいつのまにか大食い対決を開催していた。
「ガレオ? 大丈夫か?」
「あぁ、すまん。なんだか可笑しくてな」
「そうか」
シンはガレオの様子がいつもと違うことに気づいていた。しかし特に詮索はしなかった。なぜなら、ガレオがいつもより楽しそうだったからだ。水を差すのは良くないと思った。
いつもは大人っぽい立ち振る舞いのガレオだが、この時だけは年相応の普通の青年に見えた。
なんて幸せな光景だろう。
ずっと、こんな日が続けばいいのにな。
シンはそんな事を考えていた。
食事が終わった後、皆で別室に移動した。ラウンジから食堂へ行く廊下をさらに奥へ行くと、そこには大部屋あった。中には机と椅子、そして木のボードが一枚。まるで古い会議室のような部屋である。
そこでルイスが中心となって館へ突入する計画を全員で話し合った。さっきまでの和やかな雰囲気とは打って変わって、ピリついた空気が流れる。長い議論の末、ようやく突入へのシナリオが決まった。
参加メンバーはガレオ、シン、ルイス、グレッグ、ヒューゴ、ヴァレリア、ライアンの七人。事前のグレッグの調査により、館への侵入は四つのルートからの侵入を同時進行することに決定した。それに合わせて七人をそれぞれ四つの組に分けた。
一つ目のルートは、館の南側にある正面玄関からの突入。恐らくここが最も激戦を強いられる場所となる。ここは魔法技術の高いルイスと戦闘経験の豊富なライアンがつくことになった。
二つ目のルートは、館の裏手にあたる北側からの突入。こちらも正面同様、警備が厳しいエリアとなる。ここには戦術性のあるヒューゴと機動力があるヴァレリアの担当になった。
三つ目のルートは、館の西側からの潜入。事前のグレッグの調査で、ここは最も警備が手薄であることが確認された場所である。ここには、七人の中でも魔法力の高いガレオが配置された。状況に応じて北側と南側のフォローに回ったり、単独で戦闘したりと臨機応変な対応が求められる。ある意味、ここが一番難易度の高い役回りだ。
四つ目のルートは、館の東側からの侵入。突入は同時進行でという事だったが、この場所だけは後発になる。他の三つのルートの進行具合を見て、適切な行動を取ることが必要とされる。この場所は隠密を得意とするグレッグと戦闘能力の高いシンが受け持つことになった。この二人に関しては、ギルダーから情報のリークが無ければバーツ側の人間にまだ存在が知られていない。つまりこの二人は完全フリーで動ける可能性が高いということだ。状況によっては、計画の要となり得るポジションとなる。
計画の主な目的はバーツが現在所有しているグランウェルズ鉱山の権利書の奪還。それとバーツ邸に軟禁されている人々の救出。
「というわけだ。皆、健闘を祈る」
ルイスはいつになく毅然とした態度でそう締め括った。
それから皆はその場で解散し、ルイスはシンにラウンジへ来るよう指示した。シンは言う通りにルイスとともにラウンジへと向かった。
「シン、ごめんね。急に呼び出して」
「大丈夫だ。何かあったのか?」
「シンにこれを渡しておきたくて」
「これは?」
ルイスが手渡してきたのは、ブレスレットだった。
「伝達用の魔道具だよ。これで他の皆と連絡ができるんだ」
「なるほど、ガレオはこれで連絡をとっていたのか」
シンはこれまでのガレオの行動に合点がいった。
「似合うと思って、シンのはブレスレット型にしてみたんだけど……どうかな? もし嫌だったらすぐ作り直すから」
ルイスは上目遣いで緊張しながら聞いてくる。
「気に入ったよ。ありがとう、ルイス」
この流れで嫌なんて言えるわけないだろ。
事実、自分好みのデザインだから言う必要もないのだが。
「大丈夫。シンの大切な人、きっと助けられるよ」
「あの時の話、聞いていたのか」
ルイスはバツの悪そうな顔をした。それからすぐに誤魔化すようにニコッと笑う。
「ごめんね。聞くつもりはなかったんだけど」
「いや、構わない。いずれ話すつもりだったからな」
「シンって、ガレオと似てるよね」
「そうかな?」
シンはそう否定しつつも顔は嬉しそうに見える。
「うん、似てる。相手を傷つけないように迷わず自分の身を犠牲にするところとか、誰かの幸せや成功を心から願って優しく見守るところとか」
「ガレオはまぁ、そういうところあるかも。俺は、どうなんだろう?」
「シンもそうだよ。二人ともあったかくて、なんか太陽みたい」
ルイスはシンを慈しむような目で見た。
「俺をそんなに褒めても何も出ないよ」
「何もいらないよ。シンが無事でいてくれたら、それで……」
ルイスは少しの間、目を伏せた。
「ん? どうした?」
「ううん、何でもない。もう遅いから、寝なきゃだね。おやすみ、シン」
ルイスはそう言って、そそくさと部屋へ戻っていった。
今のは何だったんだ?
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