第49話 決行

 シンがエドワードとの挨拶を終えるや否や、ガレオが深刻な表情でエドワードに話しかける。


「エドワード、すまない」

 ガレオがエドワードに深々と頭を下げた。


「何を謝る必要がある。応急処置は的確、情報伝達も速やかで、俺たちがすぐにカバーに入れるよう環境を整理してくれた。あの状況でよくやってくれたよ」

 エドワードはガレオの肩を軽く叩いて称賛した。


「いやそんな事は……」

「そう謙遜するな。これは建前で言っている訳じゃない。それより、シャロンを早く安静にさせてあげないといけないな。ヒューゴ、手伝ってくれないか?」

 エドワードは地面に直に眠っているシャロンを一瞥し、それからヒューゴに向かってそう言った。


「無論だ」

 ヒューゴが地面に手をかざすと、そこから木が生えてきた。ヒューゴは場所を変えてさらにいくつか木を出現させる。


「これくらいでいいか?」

「ありがとう、充分だ」

 

 今度はエドワードがヒューゴが生やした木に左手をかざす。そして右手をほぼ倒壊してしまっている拠点の方へかざした。すると拠点がものの数分もしないうちに元の形に戻った。


「すごい……」

「修復魔法だ。見るのは初めてか?」

「あぁ」

「練度が上がればもっと複雑な物も直すことができる。俺は専門外だから、これくらいが限界だがな」

 シンの感嘆の声に反応して、エドワードが修復魔法について説明する。


「シン、聞いたぞ。凄まじい戦闘能力を持っているらしいな」

 ライアンが後ろからシンの背中をバシバシ叩きながら話しかけてきた。


「いや、まだまだだよ。凄まじいっていうならら、ライアンの方じゃないか? さっきだって、一撃で相手を仕留めてたし」

「あー、あれは偶然そう見えただけだ。俺が来た時にはアイツはもう限界だったぞ」

「そうだったのか。でも、どうやって限界だってわかったんだ?」

「それは……野生の、勘だ」

 ライアンは大声をあげて豪快に笑った。


「立ち話もなんだ、それに拠点の修復の具合も確認したい。皆、中に入ろう」


 エドワードの提案で皆は拠点の中へ入り、ラウンジに集合した。


 ガレオはシャロンを抱きかかえて部屋へと連れて行った。しばらくしてガレオはラウンジに戻ってきた。それからシン、ガレオ、ヒューゴ、エドワード、ライアンの五人で拠点の修復に問題がないかくまなく確認した。


 そうこうしているうちに、他の皆も次々と帰ってきた。シャロン以外の全員がラウンジに揃うと、ガレオが起きた事を順序立てて丁寧に説明した。


「僕たちが居ない間に、そんな事が……。ごめん、もっとよく考えて行動するべきだった」

 話を聞いたルイスは涙目になって頭を下げた。


「これは私の失態だ。ルイスに用事は任せて私が残ればよかった」

 グレッグはそんなルイスを庇って自分のミスである事を主張する。


「いや、私が勝手に飛び出したせいだ。あの時、私がそのままここに留まっていれば……こんな事には!」

 ヴァレリアは己の不甲斐なさに歯を食いしばって、顔を歪ませた。


「誰の責任だとか考えても仕方がねぇよ。もう過ぎちまったことだしな。そんな辛気臭い顔すんなって。大事に至らなくて良かったじゃねーか。それより、これからどうするかだ」

 ライアンが皆を宥めるようにそう言い聞かせる。


「ライアンの言うとおりだ。さて、ここからどうしようか」

 エドワードは場を雰囲気を切り替えて、今後の行動について皆に意見を求めた。


「館へ行くのはシャロンの回復を待ってからにするべきだ」

 最初に口を開いたのはヒューゴだった。


「私もヒューゴと同意見だ」

 ヴァレリアもそれに賛同した。


 ルイスとグレッグも二人の意見に概ね賛成らしい。


「ガレオはどう思う?」

 エドワードは終始黙って皆の話を聞いていたガレオに話を振った。


「俺は、今すぐ館へ向かうべきだと思う」

 

 ヒューゴが何か言いたげだったが、それを飲み込んで一旦ガレオの話の続きを聞くことにした。


「理由を聞かせてくれないか?」

「ギルダーは恐らく私怨でここに押し入ってきた。だが万が一、奴がバーツと情報を共有していたとしたら? 恐らくバーツは俺達がここから体勢を整え直すと考える。それを逆手に取る」


 ルイスとグレッグはなるほどなというような反応をしているが、完全には同意できない様子。ヒューゴとヴァレリアはあまり納得していないようだ。そんな皆の思いを読み取って、エドワードがガレオにある疑問をぶつける。

 

「一理ある。だがシャロンはどうする? ここに一人にしておく訳にはいかない。もしバーツとギルダーが情報共有しているのなら、バーツがこの場所に刺客を差し向けて来る可能性もある。誰かが付き添うとなると、戦力が分散されて館への侵入も難しくなるんじゃないか?」


 エドワードの意見は至極真っ当だった。


 正論過ぎてガレオは何も言えない。


 それからしばらく無言の時間が続く。


「俺は、ガレオの意見に賛成だ」

 口火を切ったのはシンだった。


「ほう、どうしてそう思うんだ?」

 エドワードがシンに理由を尋ねる。


「ガレオと同じだ。仕掛けるなら今が絶好の機会じゃないかと思う」

「シャロンについてはどうするんだ?」

「申し訳ないが、誰かに付き添ってもらうしかない。空いた分は、俺が埋める」

「そうなると最低二人はマイナスだな。そんな状態で計画を進めるのは危険だ。それにシンにそんな負担は掛けられない」

「いや、最低マイナス一人だ。俺は元々計画に居なかったはずだ。俺のことは心配いらない。危険は承知している。あの館に行くと、決めた時からな」

 シンの必死の訴えにエドワードは言葉を詰まらせた。


「いい心意気だ、シン。俺もガレオの提案に乗るぞ」

 ずっと沈黙を守っていたライアンが笑ってシンとガレオの意見に同意した。


「僕もガレオの意見に賛成するよ。戦力が足りないなら、僕も手伝う」

「相手側の動きを考えると、その方が有効かもしれないね」

 さっきまで少し難色を示していたルイスとグレッグもガレオに賛同した。


 風向きが変わった。


 流れは一気にガレオに傾いた。


「とはいえだな……」

 エドワードにはまだ懸念があるようだ。


「まだ不安か? なら付き添いに俺の契約獣をつける。これならいいだろ?」

「そうだな。それなら大丈夫だろう。ヒューゴとヴァレリアはどうだ?」

「そういうことなら構わない」

「うん、いいだろう」

 ヒューゴとヴァレリアもなんとか納得したようだ。


「決まりだな。ならここには俺が残ろう。決行は明日の夜だ」

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