第41話 決闘

 グレッグの外見はスーツのような服装で、サラリーマンのように見えた。顔は細い目が特徴的で、優しさと怪しさが共存しているみたいな感じだ。アンティーク調の眼鏡を掛けていて、髪は少しウェーブがかっているところが少し洒落ている。

 どこかその辺のサラリーマンとかではなく、超一流企業の若手あるいは中堅社員みたいなイメージだ。年齢は二十代後半から三十代前半くらいで、性別は男性。性格は物腰が柔らかくて、落ち着いた印象。


「はぁ、それはどうも」

「ところでシン、この鉱魔獣はなぜ首から上が無いんだ?」

「俺が引きちぎったんだ。そしたら、どこかへ飛んでいった」

「引きちぎった? これを? 君が?」

 グレッグは目を見開いて、素体とシンを交互に見る。


「あぁ、結構苦労した。グレッグ、俺も聞きたいんだが。鉱魔獣って何だ?」

「バーツ家が所有している魔獣型の自動人形だ。現在、四種類の個体が確認されている」

「へぇ。なぁグレッグ、こいつの動力は何なんだ? どういう仕組みで動いている?」

「それが、私にもよくわからなくてね。魔法だとは思うが、それだと辻褄の合わない部分が出てしまう」

 ああでもないこうでもないとグレッグはぶつぶつと独り言を言いながら、ジャケットの内ポケットからメモを取り出した。そしてペンでメモに何か書き出している。


「悪かった。ただの興味本位だから、今の質問は気にしなくていい」

「そうか。ときにシン、この素体だが、私が預かっても良いか? こんなに綺麗な状態で入手できる事なんて滅多になくてね」

「勿論、好きにしてくれて構わない。その代わりと言っては何だが、何かわかったら俺にも教えてくれないか?」

「当然、そのつもりだ。シン、君とは仲良くなれそうで良かった」


 グレッグはそう言って、ロッジに立て掛けてあった素体を担いだ。シンはその様子をずっと見ていたが、グレッグが素体を持ち上げた瞬間。グレッグと素体が突然、消えた。


「あれ? 消えた。どこいったんだ?」

 シンは辺りを見回してグレッグを探す。だが、どこにも見当たらない。


「どうした? 誰か探しているのか?」

 シンの正面から誰かが歩いて来て、話しかけてきた。


 シンには初めての顔だった。よく見ると端正な顔立ちをしている。顔だけで見ると綺麗な女性のようだが、声はしっかり男性だ。髪は長く、馬の尻尾のように後ろで束ねている。服は着物だろうか。あるいは袴のようなものを身につけていた。


 その姿はまるで、侍。


「あぁ。でも、もういいや」

「そうか。ところで、シンというのはお前の事か?」

 男の目には力が籠っていた。


「あぁ、そうだけど」

「やはりそうか。オレはヒューゴ。ガレオ達とは志を共にしている」

 シンはヒューゴに右手を差し出して、握手を求める。


「じゃあ俺とも同じだな。よろしく、ヒューゴ」

「悪いが、その手はまだとれない。シン、オレと決闘しろ」

 初対面だが、ヒューゴが本気だということはシンには充分すぎるほどに伝わっていた。


「俺のことが認められないってわけか」

「それを今から確かめる」

 

 ヒューゴは〝隔離収納〟の魔法で中空から剣を取り出して、シンに手渡した。


「これ、真剣か?」

「安心しろ。そいつは模擬刀だ。人は斬れないようになっている」


 シンは右手で模擬刀を持って、左の手の平を試しに斬ってみる。刃は手の平をすり抜け、左手には傷ひとつ付かなかった。今度は剣の腹を触ってみると、金属の冷たい感触。どうやら刃はすり抜け、剣の腹には触れられるようだ。


「へぇ、面白いな」

 剣をあちこち弄りながらシンが呟く。軽さはなく、しっかりとした剣の重みが感じられるところも芸が細かい。


「ちょっとヒューゴ! また勝手に」

 ロッジの中にいたルイスが騒ぎに気付いて飛び出してきた。


「シン、すまない。こうなったヒューゴは誰にも止められないんだ。付き合ってやってくれ」

 ガレオもついでに見に来ていた。その隣には不安そうにシンを見守るシャロンの姿もある。


「あぁ、俺は大丈夫だ。気にしないでくれ」

 シンは三人にそう告げる。今日の鍛錬にちょうどいい、なんて事をシンは考えていた。


「まったく! シンがケガをしたらどうするんだ」

 ルイスはヒューゴの勝手な振る舞いにイライラしながら、シンの身を案じる。


「ねぇガレオ。ホントに止めなくていいの? ヒューゴは手加減って言葉を知らないから。私、シンが心配だよ」

「いや大丈夫だ」

 シャロンは涙目になってガレオに訴えかけるが、ガレオはそれほどシンを心配してはいない様子。


「ガレオはどっちが勝つと思う?」

 いつの間にかグレッグもきていた。どうやら勝負の行方が気になるようだ。


「俺は、シンが勝つと思う」

 ガレオははっきりとそう言い切った。


 ヒューゴが剣を構える。


「どこから来てくれても構わない」


 シンは剣を地面に刺した。刀身が半分くらい地面に埋まったところで、手を離す。剣はそのまま、そこで地面に固定された。どうやら手を離すと、すり抜け効果が無くなるらしい。


「ほう、そうなるのか。さてと」

 シンは剣を置いたまま、ヒューゴを見る。


「何の真似だ? 決闘を降りるつもりか?」

「いいや、そうじゃない。ただ必要無いってだけだ。俺は剣が使えないからな。だから俺は俺のやり方であんたと闘う」


 ヒューゴがニヤリと嗤う。


「そうか。来い、シン!」

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