第40話 辿り着いたのは

 それからシンは、ガレオの背中を頼りに森の中を駆け巡った。その間、退屈しのぎにガレオから色々な話を聞いた。そこでガレオ達の目的を知り、シンは彼らに協力することにした。


 どれくらい走っただろう。突然ガレオの足が止まった。ガレオの目の前に広がっている景色をシンも見てみると、そこには木がほとんどない広場のような場所があった。とても自然にできたとは思えない。綺麗に整地された公園のような場所が、森の中にぽつんとある。広場には木で出来た山小屋らしきものが一軒建っている。


 シンの知る限り新都市にも旧市街地にも、このような景色はなかった。


「ガレオ、ここは?」

「あの館が建っている場所の隣に位置している山だ」

 ガレオは話しながら、山小屋みたいな建物の方へ歩いていく。どうやらここが、ガレオの言う拠点のようだ。


「ここが、拠点。この場所は大丈夫なのか?」

「問題ない。この山はまだバーツが手をつけていないからな。それに周りが背の高い木に囲まれているから、そう簡単には見つからないだろう」


 そのまま二人は建物の中へ入った。シンがずっと持っていた素体は、とりあえず建物の脇に置いておいた。扉を開けてすぐのところがラウンジとなっており、テーブルとソファがいくつか並んでいる。シンがラウンジを見渡すと、奥の方のソファに誰か座っているのが見えた。その人物はシン達に気がつくと、ソファから立ち上がり二人の方へゆっくりと歩いて来た。


「ガレオ、何かあったのか? こちらの方は?」

「あぁ、ここにいる彼が鉱魔獣に襲われていてな」

「なるほど。それでガレオが助けたのか?」

「いや、違う。俺は見ていただけだ」

 ガレオと話している人は、いまひとつ要領を得ていないみたいだ。


「ん? どういうことなんだ?」

「彼がそのまま鉱魔獣を倒してしまったんだ。あれは衝撃的な光景だった」

「それで彼の力を見込んで、ここに連れて来たと」

「そういうことだ」

 ガレオはなぜか自慢げにそう言った。


「彼の名前はシンだ。シンもあの館に行きたいそうだ。できれば同行させたいんだが……」

「ガレオがそう言うなら、構わないよ。失礼、紹介が遅れた。僕はルイスだ。シン、これからよろしく頼むよ」

 ルイスは爽やかな笑顔でシンに右手を差し出す。シンも同じく右手を出して、二人は握手を交わした。


 ルイスは中性的な顔立ちをしていて、スタイルは細身。鈴を転がすような綺麗な声の持ち主だ。そのためシンは、ルイスの性別がどちらか判別できなかった。そしてそれを確認する勇気もなかった。おそらく男性、だろう。


「ルイスさん、こちらこそよろしくお願いします」

「ルイスでいいよ。話し方も普段通りで構わないよ。ここの人たちはそういうの気にしないから。もう少ししたら他の皆も戻ってくるだろうから、それまでここで好きにくつろいでいていいからね」

 ルイスの言葉に甘えて、シンはラウンジのソファに腰を落ち着かせた。その隣にガレオも座る。


「なぁガレオ、仲間はあと何人いるんだ?」

「あと六人だ」

「そうか。そう言えば、ガレオは取り戻したい物があるって言ってたよな? 他の皆も同じ目的なのか?」

「皆それぞれ違う。でもバーツが関係しているのは皆同じだな。」

 ガレオと他の皆の目的が気になったが、シンはあえて深入りしないことにした。


「知りたいか? なぜ俺達があの館を目指しているのか」

「そうだな。でも、今はいい。気が向いたらそのうち聞かせてくれ」

「そうか。変わってるな、シンは」

「いいや普通だよ、俺は」

 こんな調子でシンがしばらくガレオと談笑していると、ルイスが木のカップに入った飲み物を二人分持って来た。ルイスはシンとガレオにカップを手渡す。


「二人とも疲れただろう? 良かったらどうぞ」

「ありがとう、ルイス。いただくよ」

 シンは早速それを一口飲んだ。


「美味い」

 どんな味かと問われたら、説明に困るような味。だが美味いということは確かだった。無理矢理近い飲み物を挙げるとすれば、紅茶だろうか。


 それから会話にルイスが加わり、しばらく三人で他愛のない話をした。


「ねぇ、外のあれ何?」

 扉を開けてすぐのところから声が聞こえる。その声にガレオがすぐ反応した。


「すまん、それは俺の友人の荷物だ」

「え? ガレオの友達?」

 声の主は三人のいる場所まで小走りできて、シンの姿を見て目を丸くした。それからニコッとシンに笑いかけて挨拶をする。


「初めまして! 私はシャロンだよ。よろしくね」

「俺はシンだ。こちらこそ、よろしく」


 シャロンの第一印象は率直に言って、小動物系だ。髪はショートで、目は大きく、体は小柄で華奢。話し方や仕草がいちいち可愛らしい。ザ・女の子という感じである。

 それからシャロンともしばらく話をした。どうやらガレオとは幼馴染らしい。その後、シンは拠点の入り口付近に放置していた素体を見に行った。


「やっぱりよくわからないな。どうやって動いているんだ?」

「ほう、これが鉱魔獣の中身か」

 シンの真後ろから急に声がした。音も気配も何もない。本当に突然、背後に人が現れた。シンは驚いてすぐに振り返る。


「申し訳ない、面白そうだったからつい」

「いえ。それより、あなたは?」

 不思議と警戒心はない。むしろシンは相手から友好的な雰囲気を感じ取ってさえいた。


「私はグレッグだ。ルイスから話は聞いている。君がシンだね?」

「あぁ、そうだけど」

「これは、君がやったのか?」

 素体を指差してグレッグはシンに問いかける。


「そうだな」

 グレッグはシンを頭からつま先までじっくりと眺めた。


「シン、君は実に興味深いな」

 

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