第23話 反撃の一手

 男の挙動を常に監視していた神坂だが、唯一男から目を離すタイミングがあった。それは男が右手をかざしてから、爆発が起きるまでの間。その瞬間だけは神坂は爆発を回避することに専念していた。


 このわずかな時間の中にヒントはあるはずだと神坂は考えた。確かめるための方法はひとつしかない。


「当たって砕けろだ」


 砕けちゃダメなんだけどね。


 方法は単純明快。わざと攻撃を受ける、それだけ。


 多分、大丈夫なはずだ。タダじゃ済まないだろうけど、死にはしない……はず。一番最初の爆発はかなりまともに食らっていた。しかし体に深刻なダメージは見受けられなかった。痛みは感じるけど、動き回るのには支障がない。これも転生者の力なのか。


 男はまた右手をかざした。神坂は足を止めて男の動きを見極めることに集中した。


「なんだ? 体力が底を尽きたか。まぁ何でもいい。これで終わりだ」


 本題はここからだ。


 もってくれよ、俺の体。


 手をかざしてしばらくは何も起こらない。それから男の右手に何か赤くゆらめくものが見えた。それが神坂に向けて一直線に飛んでくる。その謎の物体が神坂に到達する直前、目の前が強く光る。それから激しい爆発が起き、神坂の体は炎に包まれた。


「いっ、痛っ……」

 神坂は吹き飛ばずにその場で耐えた。刺すような痛みが全身を駆け巡る。爆発が起きて咄嗟に両腕で自分をかばったせいか、腕が特に痛い。痛みが熱さによるものなのか爆発の衝撃なのか、神坂にはもはや見分けがつかなかった。


 体がバラバラになったんじゃないかと思い、神坂は全身をくまなく見てみる。体はある、大丈夫だ。ただ、色白だった肌が全身真っ赤になっていた。体の細胞一つひとつが沸騰しているかのような熱さが神坂を襲う。


 わかってたけど、かなりキツいな。


「こいつ……」

 思い通りにいかず、男は神坂に怒りの眼差しを向ける。


 どうやら体を張った甲斐はあったようだ。


 わかったぞ、爆発する能力の正体が。

 

 神坂の口元が緩んだ。


「何笑ってやがる。…………おい、聞こえてんだろ?」

「なんだバレてたのか」

「当たり前だ。転生者ならほとんどのヤツが真っ先に覚える魔法だろ」

「そうなのか?」

「こんなの常識だろ。いや、そんなことはどうでもいい。それよりお前、何が可笑しい?」

 

 神坂はまた、かすかに笑みを浮かべる。


「あんたの持っている万能の正体がわかった。ガスを発生させて操る能力なんだろ?」

 本当のところは万能か魔法のどちかまでは、まだ特定できていない。神坂は男にカマをかけた。


 爆発のカラクリはこうだ。まず男は可燃性のガスを発生させ、神坂に向けて飛ばす。可燃性ガスが神坂に到達したら、それに向けて能力で火を放ちガスに引火させ爆発を起こす。

 神坂が爆発の直前に見た赤くゆらめくもの、それはガスを着火するために放った火の能力だった。これこそが神坂が爆発の仕組みを解く最大のヒントとなった。


「あぁそうだ。でも気づいたところで、もう遅い。すでに次の手は打ってある」

「次の手? それって……」


 神坂は突然、強い眩暈と吐き気に襲われた。


 立っていられない。


 男が連続で放った爆発が原因となり、広範囲で空気が燃焼。神坂の周りにある酸素が急激に減少した。それにより神坂の体は、一酸化炭素中毒を引き起こしていた。


 まずい、このままだと。


 風の魔法〝エアル〟


 一定の方向へ突風を起こすことができる。風属性の最下級魔法。


 ルーカスから教わった、神坂が今唯一使える攻撃系の属性魔法だ。


 四つん這いになりながら、神坂はひたすらエアルを打って周りの空気を入れ替えた。

 

「今さらどう足掻いても無駄だ」


 神坂はそのままの姿勢を保ち〝隔離収納〟の魔法で別空間にしまっておいた〝あるもの〟を、男から見えないよう体を盾にしながら取り出した。


 その〝あるもの〟とは一本の釣り竿。


 残る力を振り絞って立ち上がり、神坂は竿を大きく振りかぶって男に向かって投げた。釣り糸が男の左足に絡まる。


「なんだこれ?」

「よし、かかったな」


 糸を少し引いてから、神坂は竿を思いっきり振り下ろす。


 次の瞬間、男の体は勢いよく地面に叩きつけられた。


 


 


 

 

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