第27話 俺にハーレム願望はない!!
「……早く」
「わかってますよー」
勝負が終わると、相手の人がすぐに私のところまでやってきた。
「先輩、私に用がある人がいるみたいなので案内してから戻ります」
『りょーかいだよ〜』
今はまだ休憩時間じゃない。だけど、私のチームは早くも全滅してしまったがために他のチームより多くの休憩時間が取れる。
そんなこんなで、私たちは一緒にゲートまで行った。相手の人はゲートに足を踏み入れた瞬間、立ち止まった。
「……そういえば」
「? どうしました?忘れ物です?」
「名前、聞いてない」
「対戦表見てないんですか?」
「別に見なくても、勝てるから…」
「っ…」
さすがにこうまでされると私にもくるものがある。少し苛立ったけど、負けたのは事実だから、何も言えない。
「クリシャです。あなたは?」
「……
「おとは?」
なかなか聞かない珍しい名前に私は思わず聞き返してしまった。
「…だよね。みんなそんな反応…だった。でも、ありがとう。クリシャ」
「いきなり呼び捨てですか?私は構わないですけど」
「私も、呼び捨てでいい」
そう言って、音羽は私に手を小さく振るとゲートの向こうへ歩いていった。
(変な人だったな)
失礼かもしれないけど、第一印象がそれだ。でも、話してて悪い人ではないと思った。
自分で感想を呟きながら、私はテントまで戻った。
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さっき、アリシアから強制的にミュートを解かれて暇つぶしに付き合わされ、それを全部レオンに聞かれてしまい、俺は今少し機嫌が悪い。
「聞いてて仲良さそうだな、おまえら」
「まあな」
「そこは否定しないのな」
「ああ。仲がいいことに関しては否定しない。だけど、付き合ってるかと言われると否定する」
第一回戦。1年生の勝負が始まっても、俺たちはただただモニターを眺めながらくだらない話をしていた。
「誰ですか?」
なにも音がしなかったのに、キット先生が声をあげた。
「ごめん、頼む」
「しゃーねぇなぁー」
そう言って俺は立ち上がり、床下への入り口を開ける。すると、俺を見下ろしていたのは、見覚えのある少女だった。
「お兄、ちゃん?」
お兄ちゃん。聞き覚えのある声と共に発された単語。
どこか懐かしさを感じるような、少し甘い匂いがするその子は間違いなく、俺とどこかで接点がある。俺も、もちろんその子を知っている。
だけど、どこで会ったのか、なにも思い出せない。だけど、「お兄ちゃん」という言葉だけは俺の記憶に深く刺さった。
そして、知らないうちに俺の口は勝手にその子の名前を言っていた。
「音羽、なのか?」
「っ!お兄ちゃん!」
音羽はもう一度俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶと、俺に抱きついてきた。
「要件が済んだら早く閉めてください。一応ここは普段、防犯でも使われる場所なんですから」
「すいません」
このまま音羽を監視カメラ室に入れるのは気が進まないが、この状態でも埒があかないため、俺は音羽を連れて階段を降りる。
「遅せぇよ。何かトラブルでも…」
レオンが振り向きながら言うと音羽に抱きつかれた俺を見て、だんだん言葉を失っていった。そして、改めてジト目で俺に言い放った。
「浮気か」
「ちげぇって!昔の知り合い!」
俺が声を荒げて言うと、音羽が気の食わないような顔をして、頬を膨らませた。
「知り合いじゃないです!お兄ちゃんは、音羽だけのお兄ちゃんなんです!」
「ちょっ!」
そしてさらに俺に密着してきて、揺るがない意志を持った紫紺の瞳で俺を見上げてくる。
「へぇー、お兄ちゃん、ね」
「そうです!音羽のお兄ちゃんです!」
「あはは…」
俺は苦笑する。こんな時に限って、キット先生のため息を吐く声が聞こえた。
「なあ、ロワ」
「な、なんだ?」
「おまえの知り合い、まだいるなら写真見せてくれよ」
「は?なんで?」
「おまえ、ハーレムできるぞ」
レオンはドヤ顔でとんでもないことを言ったのだった。
これだけは言っておく。俺にハーレム願望はない!!
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珍しくあとがきなしです。
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