第9話 クラスがやけにざわいつているのだが…
「なあなあロワ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどよ」
「ロワ、ちょっといいか?」
「ねえねえロワくん!」
俺が教室に入った瞬間、クラスの男子のほとんどと数人の女子が俺に一斉に話かけてきた。さすがにこんな事態は初めてだったため、俺は「ごめん、荷物置かせて」と言ってひとまず振り払う。
俺が自分の席に荷物を置くと同時に、クラスを見渡すとアリシアが座っているのを確認した。
『ごめん!なんとかして!』
両手を合わせた後、少し頭を下げるような素振りをした。
まったく意味の伝わっていないアイコンタクトを交わして、俺は憶測ではあるが事態を察した。
つまり、よくある転校生が気になる在校生が転校初日にめちゃくちゃその人に押し寄せるということが起きたのだろう。
しかし、あまりにも人数が多すぎて「後の詳しい話はロワが話してくれるから!」みたいな感じで人混みを解消させた、といったところか。
そもそもなんで一緒のクラスなんだよ。
「それで、ロワくんとアリシアさんはどういう関係なの?付き合ってるの?幼なじみ?」
明らかにアリシアが苦手そうなぐいぐいくる系の女子が引き続き、俺に問いを投げ続ける。
「はぁ…俺とアリシアは別に恋人でもなんでもないし、ただの幼なじみだ」
「そうなんだ〜ありがと〜」
一回の回答でその女子たちは去っていった。だが、依然男子たちは俺の机を囲んだままだった。
「他になにかあるか?そろそろチャイムも鳴るし早めにしてくれ」
「アリシアさんって彼氏とかいたことある?」
「多分ないんじゃないか?俺は聞いたことないけど」
「そうか」
男子たちがなぜか重い足取りで戻っていく。でも、なぜか赤いオーラが出ているのが見えたのは俺の幻覚だと思っていい、よな。
他の人も目線がアリシアに行っている。しかも数人、口と頬が緩んでいた。さすがにこの場で大声で叫ぶといろいろとまずいから我慢しているのだろう。青春を現在進行形で味わってる野郎どもめ。
アリシアはこれでも随分かわいい方に入ると思う。
学園にいるときは髪を降ろしていて、ファさっと払えば、誰もがその容姿に見惚れることだろう。そんな容姿に輝く紅い目。
しかも今は転校生ということもありある種、転校生マジックと呼んでも過言ではない状態にこの野郎どもとアリシアが陥っている。
だが、アリシアが普通に馴染んでしまえばすぐに消えると思うため、時間の問題だろう。
「諸連絡を行うから席につけー」
先生がやってきて、みんな席に着いた。
「改めて、今年の2A2組を受け持つことになったジンだ。授業もなにも持たないという前代未聞の先生だが、よろしく頼む」
そう言って、ジン先生は生徒名簿を開いて軽く数名の生徒と照合した。
ジン先生は主に一年生に魔法を教えていて、今まで担任を務めたことはないと聞いたことがある。確かに前代未聞だ。
だが、去年魔法を教わった身としてはすごく見た目に反して温厚な先生だと思う。
「この後、委員長と副委員長は一回俺のところに来てくれ。園長から話があるそうだ。他の者は自習でもしててまってくれ」
ジン先生がドアを開けると、うちのクラスの委員長と副委員がジン先生に連れて出て行く。ドアが閉まったと同時に、一人のクラスメイトが立ち上がった。
「みんな、自己紹介でもしない?半分同じクラスの人はいるだろうけど、違う人もいるわけだし…」
「さんせー!」
「いいね!やろうやろう」
数名が反応し、自己紹介をするという流れになってしまった。
「誰からする?」
「まずはやっぱり…」
みんな、アリシアに視線を向けた。そりゃそうだろう。当然、知らない人がいると気になるものだ。もちろん、俺もだが。
「なんだか、私にしてほしい方が多そうなので最初にしますね」
アリシアもこの圧とも言える空気感を察して、立ち上がった。
「みなさんも知っていると思いますが、アリシアです。好きな食べ物はアップルパイです。みんなと仲良くできたらなと思ってます!よろしくお願いします!」
アリシアが座ると同時に大きな拍手が起きた。
最初はちゃんとアイコンタクトも取りつつのうまい自己紹介だったのにだんだん勢い任せになっていった。アリシアらしさがたっぷり出た自己紹介だった。
でも、アップルパイが好物だったとは意外だった。小さい頃に聞いた好きな食べ物も覚えてないし、情報のアップデートにもなった。
「じゃあ次、アリシアさんの後ろの人から順番にお願い」
その後順番に自己紹介が行われていき、当然俺の番も回ってくる。なんと、まさかの俺が最後だった。
さて。軽く自己紹介でもしますかね。
「えっと……ロワです。その、よろしくお願いします」
普通に感情のこもっていない拍手が送られる。
ふぅ〜安心した〜。と、俺は心の中で呟いた。
ちょうどみんなの自己紹介が終わると同時に先生と委員長たちが戻ってきた。なぜか、委員長たちの表情がすごく重かったように見える。
「さて。これからまたいろんな先生がこの教室に来るはずだから、あんまり失礼のないようにな。それじゃ」
再びジン先生がドアを開けて出て行った。
この後、地獄の毎学期恒例の初期課題配布時間が始まる。毎学期に先生が俺たち生徒に次の授業までにやってきて欲しい課題や予習の連絡をする時間だ。
「は〜い、私で最後かな?それじゃあみんないろいろ課題が多いと思うけどがんばってねー」
最後の算術の先生が教室を出ると流れ解散となる仕組みだ。多くの人は今から家か寮に戻って課題だろう。そのために今日も午前中で終わるわけだし。だが、俺は違う。
「アリシアちゃん、今度どこか行かない?」
「時間が空いてれいいよ」
「ありがとー。また今度ねー」
「バイバーイ」
アリシアも一人になったことを確認して、俺はアリシアのところへ向かった。
「どうかした?」
「あれだ。行くぞ」
あまり長いこと話すと変な噂が立ちかねないため、早めに終わらせる。だが、当のアリシアは全く言葉の意味を理解していなかった。
「あれって、なに?」
「冒険者ギルドだ。ここ数日の出費が1週間分の出費になってるから金稼がないとやばいんだって」
「はーい。一回帰る?それとも直行?」
「立体映像フォンがないと困るだろ。一回戻ってから、またギルド前な」
「別々になの?」
「決まってるだろ。もし俺とアリシアが同時に俺の寮部屋に入ったのを誰かに見られたらどうする」
「私、透明化くらいなら楽々できるよ」
「自由にしてくれ。とりあえず一回戻るぞ」
会話をできる限り早く終わらせ、俺は教室を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読んでいただき誠にありがとうございます。
面白かった、続きもみたい、などと思っていただけなら、下の星をつけてくださるとこちらのモチベーションにつながりますのでよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます