こいつがやまとなでしこ?笑わせる

とりあえず 鳴

第1話 大和撫子

うちの学校にはやまとなでしこと呼ばれている人がいる。


静かで人当たりのよく黒髪ロングという見た目をしているためやまとなでしこと呼ばれている。


それでいて顔立ちもいいということで一年の時は告白だなんだと一日男どもが教室で騒いでいた。


そんな事に興味のない俺は一年間ただ教室でラノベを読んでいた。


いつも通りラノベを読んでいると。


「黒崎さん好きな人がいるって話聞いたか?」


「え、まじ。」


俺の席の近くでなにか話している。


「そう、この前告白したやつが好きな人がいるからって断られたって。」


「それ断るために言ったんじゃないのか。」


「でも、今までは普通に断ってたわけだし。」


「そうかなでしこさん、ついにお相手が。」


なでしこさんは黒崎という人のあだ名だ。


やまとなでしこだと長いからなでしこさんになった。


(黒崎か、最近会ってないな、どうでもいいが。)


俺の幼なじみにも黒崎沙耶〈くろさき さや〉という女子がいる。


この学校にいるはずだが会ったことがない。


(実は不登校なのか?)


考えてもしょうがないとラノベに意識を戻した。




放課後学校が終わり校門を出たところで前を歩く黒髪ロングがいた。


噂に聞くなでしこさんってやつか。


(帰り道同じなのか、それともたまたまか。)


そのまま同じ道を進んで行く。


そして自分の家に着いたので止まったら隣の家の前でなでしこさんが止まった。


(ん?)


「清水さんお久しぶりです。」


清水要〈しみずかなめ〉俺の名前だ。

なでしこさん改め沙耶が声をかけてきた。


「ああ、どうも。」


俺は人見知りのため滅多に話さない人とは話せない。


話すこともないので家に入ろうとした時。


「あの。」


沙耶が呼び止めてきた。


「なにか。」


「ちょっとお時間よろしいですか。」


(なにか嫌な予感しかしない。)


「別にいいが。」


嫌な予感がしても人見知りだから断れない。


「ありがとうございます、今なら家に人が居ないのでうちでいいですか?」


「ああ。」


沙耶の家に行きリビングに通された。


沙耶がお茶の準備をしている。


(なんの話をする気だよ。)


「お待たせしました。」


沙耶がお茶を持ってきた。


「どうも。」


沙耶が椅子に座りお茶を一口飲む。


「あまり時間をとってもいけないので単刀直入に言います、私の彼氏役をしてくれませんか。」


なんかめんどくさいことを言われた気がする。


「それ、俺にメリットないよな、お前とフリでも付き合うことが出来るとかなら断る。」


いくら人見知りでも本当に嫌な時は嫌だと言う。


こんな有名人と付き合うフリなんかしたらやっかみを受けて平穏無事な生活が出来なくなる。


「メリットですか…、逆になんだったらいいとかありますか。」


「ないな、ということでこの話はなかったことに。」


俺が立ち上がり帰ろうとする。


「お願いします。」


沙耶が頭を下げてきた。


(そこまですることなのか。)


「なんで俺なのかと役をする理由、やる気なかったから聞かなかったがそれをまず言え。」


聞いたからといってやるかはわからないが。


「清水さんを選んだ理由は私に興味ないからで、彼氏役は一年生の時に私に告白してきた人に恋人は一年生の間は作らないって言ってしまってその人がまた告白してきたので好きな人がいるって言ってしまって…。」


「そいつにその好きなやつ見せろだの特徴だの教えろとか言われたのか。」


「はい…。」


沙耶か俯いて落ち込んでいる。


「お前は好きなのが同じ学校にいるって言ったのか。」


「はい…、咄嗟に。」


こいつは一年の時は常に学年一位を取るぐらいに頭がいいはずなのに意外に突然のことには対応出来ないようだ。


「なるほど、でもそれお前の自業自得じゃないの。」


「全くもってその通りです。」


沙耶が申し訳なさそうに俯きながら言っている。


「まぁ、別にいいぞ。」


「えっ。」


沙耶が目を見開き驚いている。


(顔が整ってるとどんな顔でも可愛いんだな。)


「ただ、条件がある。」


「もちろんです私に出来ることなら。」


「話し方諸々他のがいる時はいいがいない時は昔に戻せ話しづらい。」


昔の沙耶は別にこんなちゃんとした話し方ではなかった。


普通にタメ口で話していた。


「え、でも。」


「ああ、今まで通り会わないなら別にいいが。」


別にわざわざ学校外で会う必要もないだろうし。


「いや、わかりましたお願いします。」


「ん。」


簡単に返し、出されたお茶を飲んだ。


飲んだことのない味がしたがそういうものかと全部飲んだ。


「俺はなんかするのか?」


沙耶に俺のやることを聞く。


「いえ、私が片思いをしてることになっているので彼氏役と言っても要がやることは多分ないと思う。」


(そいつがまともならな。)


「わかった、じゃあもういいか?」


話は終わったようなので今度こそ帰る準備をする。


「うん、今日はありがとう。」


「ん。」




沙耶の家を出て自分の家に帰る、帰ると言っても隣だが。


家に入り手洗いうがいを済ませ自室に向かう。


家は妹と二人暮しだ、両親は去年仕事の都合で海外に住んでいる、俺らも着いてくるか聞かれたが海外なんてめんどくさいのでついて行かなかった。


妹も俺が残るならと同じ理由で残った。


(今日の晩御飯何にしようかな。)


そんな事を考えていると。


「め、今日遅かったね。」


妹の曜、人の名前を呼ぶ時名前の最後の文字で呼ぶ。


俺の場合は要のめ。


「ああ、久しぶりに隣に呼ばれた。」


「やっちゃん?」


沙耶のことはやっちゃんと呼んでる。


「そ。」


「そっかやっとか。」


意味深なことを言って自室に戻っていく。


「あいつが話しかけてくるのも珍しいな。」


曜は料理が好きではないためご飯は一緒に食べているが会話はない。


「まぁいいか。」


そんなこんなで自室に入る。




「ふんふーん。」


要が帰り片付けを鼻歌交じりにやっている。


「要が私の彼氏、やっとだ一年も我慢したんだから。」


中学の時は私のせいで要に迷惑をかけてしまったから私は変わった要の隣にいられるように。


要の好きな見た目をアドバイスしてもらってやまとなでしこっぽくしたけど要は前のがいいって言った。


どっちが正しいのか。


アドバイス通り一年焦らしたけど必要あったのかな。


「ただいま。」


お母さんが帰ってきた。


「おかえり、今日早いね。」


両親は共働きでお母さんは帰りがだいたい五時過ぎぐらいになる。


今が四時半なのでいつもよりも早い。


「うん、珍しく早く帰れた。」


お母さんが荷物を置きこっちに来た。


「ん、誰か来てたの?」


私がお茶のカップを片付けていたのでお母さんが聞いてきた。


「うん、要が来てた。」


「喧嘩別れした旦那と仲直りしたの。」


喧嘩別れしたつもりはない、ただ私が要の隣にふさわしくなかっただけ。


「まだ旦那じゃないもん。」


「そうだねー、ていうかあんたがお茶入れたの?」


「ん?当たり前じゃん。」


「要君お茶飲まなかったの?」


「全部飲んだよ?」


(何を言ってるんだろう。)


「あんた料理全般出来ないんだから人には出しちゃ駄目って言ったでしょ。」


前に私が作った料理を両親に出したら二人ともお腹を壊したことがある。


「失礼な、お茶ぐらいできるもん。」


「その言葉を信じて前入れさせたら酷かったでしょ。」


私は料理全般に才能がないようだ。


自覚はないが。


「要は普通に飲んでくれたもん、二人がおかしかっただけだもん。」


「本当要君しかあんたの旦那にはなれないだろうな。」


なんかいきなり褒められた。


「そんな褒めなくても。」


「褒めてないから、どちらかというと皮肉だから。」


失礼しちゃう。


水を止めて片付けを終える。


「洗い物も時間かかるな。」


「うるさい。」


お母さんに文句しか言われないのでさっさと自室に行く。


「まったく失礼な。」


ベッドに飛び込み足をばたつかせる。


「でも、要が彼氏のフリをしてくれる、絶対に意識させる。」


そのために一年関わらなかったんだから。


そして枕元の写真立てを取る。


要の写真。


一年間この写真で我慢していた。


「もう我慢しない、要とずっと一緒にいる。」


そう決意して明日に備える。

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