第25話 『いくらなんでも過酷すぎませんか』

広い部屋の角。

そこには約2m間隔でランニングマシンが置かれている。


その中の1つで、私、春日野綾乃は死にかけていた。


「おいへばるな!!まだ5分も走ってないぞ!!!」


隣のルームランナーで走る倉岡は、涼しげに手を叩く。


「ま、まだ5分~~~????!!!!!!」


走り出してまだ5分だと言うのに、全身から滝のように汗が流れ落ちる。


倉岡からはとりあえず20分走ってみようと提案された私は、そんなの余裕だと勢いよく走り始めたものの、いざやってみればこれだ。


日常の中で何となく過ぎる20分、運動に換算するととてつもなく重労働なのだ。

それを5分で身に染みて実感した私は、これから先のダイエットが過酷なものなのだと感じ取っていた。


「―――ッ・・・もう無理・・・!!ちょっと休憩・・・・!!!」


そう言って私は足を止めた。


それでも進み続けるルームランナーのベルトに、私の体はスーッと後ろまで流されていく。


「あああん??!!!!」


倉岡がドスの効いた唸り声をあげ、私をキッと睨み付けた。


「・・・・ヒッ!!!」


今までに見た事ないようなガチのキレ顔に、私は思わずまた走り出す。


「ハッ・・・・・!!ハッ・・・・!!・・・・・ッ!!!」


死に掛けながら走る私に、倉岡は冷ややかな目で私を見つめる。


「・・・・・次止まったら交際解消な」

「―――マジ・・・・?!」


息をするのもキツイ私は、この二文字を発するだけで一杯一杯だ。

それ以上倉岡を問いただすことが出来ず、言われた通り走ることしかできない。


―――無力・・・・


しかしそんな雑念もすぐに消える。


何故なら思考に費やすエネルギーすらままならなくなっていたからだ。


ただひたすら、20分走り終えることに全集中力を費やす。


「いいぞー、その調子。あと5分、ほら頑張れ頑張れ」


倉岡がストップウォッチ片手に私を楽しそうに励ます。


その姿が絶妙にウザい。


当の本人はもう慣れているのか、汗はかいているものの、首に掛けたタオルでサッと拭える程度で、『青少年』を体で表しているような清々しさがある。


私はこんな必死に走っているのに・・・・・!!!!


タオルで何度拭っても永久に溢れ出る汗を拭うのをやめ、(拭う気力すら失ってしまった)顔を真っ赤にして汗水流し、鼻息荒く走る私を誰が見ていようが構わない。


倉岡にキレられないように、私はひたすら走った。


**************************


倉岡が手を叩く。


「しゅうりょおおおおおおおお!!!」


私は倉岡が言葉を言い終わるよりも先に、ルームランナーから転げ落ちた。


即座に倒れ込んだ私の周りは汗で水溜まりが出来る。否、『水溜まり』ではなく『汗溜まり』だ。汚。


と、頭では冷静なのだが体がピクリとも動かない。

辛うじて呼吸器が瀕死で機能しているだけだ。


そんな私の背中を、倉岡がポンポンと叩く。


「よしよし、よく頑張った」


その言葉に、私の胸の奥から熱い何かが膨張する。


「うっ・・・・うっ・・・・」


何だこの感情は。


達成感と安心と、普段こんな優しい声なんてかけない倉岡が優しいから戸惑うのか、いくつもの感情がぶつかり合い涙となって頬を伝う。


「うぅっ・・・・!!・・・・・っ!!」


私は顔を腕で隠し、地面に四つん這いになったまま静かに泣いた。


「きつかったよな。よし、じゃああと5分休憩したらベンチプレス20回を5セットな」


勢いよく立ち上がった私は倉岡の鼻に指で鼻フックをお見舞いした。


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