第17話 『それってつまり、「OK」ってコト?!』

後ろからそっと入った講義室は薄暗く、モニターに映し出されたパワーポイントについて教授が一人、淡々と話していた。


講義では後ろの席が大人気。

如何に先生に見つからないようスマホを触ったり課題を進めたりでみんな必死なのだ。


つまり後から講義室に入った私は講義を聴いている皆の視線を浴びながら前の席に行かなければならない。

恥ずかしい事この上ない。


私は腰を屈め、前方の空いている席を探す。


「綾乃ちゃん・・・・!」


すると隣の方から小声で私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


振り向くと、うららが席の端っこの方で手招きして!!!!

まさか―――


疑心暗鬼でうららの方へ向かうと、彼女は席を一個ずれて自分の座っていた席を開けると、手で「どうぞ」という仕草をした。


「えっ、いいの?」


戸惑う私に、うららは「早く、先生に見つかっちゃう」と言いながら私の腕を引っ張った。

私は促されるまま、席に座った。


「どうして・・・・??」


私はにこにこと笑ううららに疑問を投げかける。


彼女は笑顔のまま、私の耳に口元を近づけ囁いた。


「綾乃ちゃん、いつも授業はちゃんと出席するのにまだ来てなかったみたいだから一応席取っといたの」


うららはパチッとウインクをしてみせた。


ドキュンッ♡


ふぁッッっ???!!!!!!!

なんだ今の『ドキュン』???!!!!!!!えっえっえっ???!!!!!!!!

私の中にないはずの男心がときめいたぞ??!!!今!!!!


女で良かったぁぁぁ。

男だったら確実に堕ちていた。


と言うか、うらら、私のことちゃんと見てたのね。

こんなにいい子なのに、私は・・・・・


「・・・・ありがとう」


今はそれしか言えなかった。


私は初めて人に『負けた』と思った。


何だか、私より数歩先を行っていると言うか、私が必死に気にしていることを、この子は全く気にも留めず、もっと大事なことを見ているような、そんな感じだ。


私も、こういう子になれるのだろうか。


********************


帰路の電車の中で、うららのことを思い出した。


あの授業の後で、うららとダイエットの話になった。


うららからしたらダイエットとは少し違い、「減量」と言う意識らしい。

大会まで一時的に体重を落とすだけという意味らしい。


つまり、サラダばかり食べるダイエットは現実的では無いということだ。

ダイエットで減量して体重をキープしたいのであれば、急激に生活を変えるのはよくないと。


そう言われた私はギクリとした。


私がやっていたことではないか。

そして言う通り挫折しているのである。

もうそのまで見透かされたら不本意だがうららの言うことを丸呑みしようと思った。


まずやることは水を沢山飲むこと。


体に良いからという訳では無い。

お腹を膨らませるのだ。

特にご飯中の水分摂取は満腹感を増大させる。


次にお菓子が好きなら好きな時に食べていいとの事。

そこで大事なのは「何となく食べる」を無くす。どうしても「が食べたい!」と自覚できている時にしか食べないということ。


太る人の特徴は何でもいいから食べたいという貪欲さだそうだ。


うららから言われたのはさしよりその2つ。


ふむふむ、それなら私も出来そうだと思った。


早速、電車のホームに設置してある自販機で水を買ってみた。


ちなみに、水の横に並ぶ美味しそうなジュース達にめちゃめちゃ誘惑された。


いつも飲むがぶ飲みメロンソーダやアップルティー、ドデカミンやフルーツオレ。

たったのプラス60円でこんなに美味しいものが飲めるのに!!!!

お金が勿体ない!!!!!!!!


と、私の中の悪魔なのか天使なのかよく分からない奴が叫んでいたが、何とか押さえつけて水のボタンを押したのだった。


ボトルの蓋を開封し、飲んでみる。


うん、水だ。


それ以外の感想はない。


ほんとにただの水だ。

こんなん水道水と変わらないのではないか??

次からは水筒を持ってこよう。こんなたかが水にお金を払うなんて馬鹿馬鹿しい。


「次はー川島南西高校前〜川島南西高校前〜」


車内アナウンスが流れる。

家まであと15分ほど。

暇なので携帯を開いた。


あ。


画面に通知が来ている。


『「ショータ」がメッセージを送信しました』


そうだった。


ダイエットの事ですっかり忘れていたが、私は倉岡と付き合ったのだ。


おえっ。


我ながら気持ち悪い。

どうしてこうなってしまったのか。


倉岡の風体を思い出す。

ボサボサでネチャネチャの髪にダサく似合わないメガネ。服はしわくちゃで汚い。


せっかく顔はいいのに清潔感が皆無!!!!


私の中で倉岡は二重人格なのだ。


汚い倉岡とイケメンの倉岡。

私が気になっているのはイケメンの倉岡のみだ。


付き合ったからには気持ち悪い方の倉岡を早急に何とかせねば・・・・・・・


私はそう考えながら倉岡からのメッセージを開く。


『明日俺ん家来いよ』


私の頭の中で爆弾が爆発した。


お、おれんちぃぃぃぃぃぃぃッ?!?!?!


い、いくら何でも急過ぎでは?!?!

付き合ったからと言ってそうホイホイと事を進めていいのか?!?!?!


いや良くない!!!!!!


女の子の初めてをあんな奴に――――――


しかしいざと言う時はイケメン倉岡なのでは?????

えっ、もしかしてそっちの倉岡さんですか??


そっちの倉岡さんと、えっ?!もしかして、デキちゃうんですか?!?!?!?!


私は高速で返信を返す。


『行くけど、なんで』


ドッドッドッ


心臓がはち切れそうだ。


はぁ、綾乃、遂に真の大人になるのね。


ポロン


なんと、秒で倉岡から返信が返ってきた。


『やりたいことがある』


ヤリたい!!!!!?????


あーーーーあ。やっちゃったなぁぁぁぁぁ。


はい、もうコレ、確定デス☆



私は完全に昇天していた。

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