同じクラスの彼氏持ち美少女が義姉になりました。義妹と結ばれるテンプレがあっても義姉で、しかも彼氏持ちとか希望すらも抱けないんだが?

XIS

第1話 再婚相手は予想外

 まだ夏にしては涼しくも、秋が近づいてくるのを肌でヒシヒシと感じる9月の中旬。地球温暖化が関係しているのか知らないが、不思議と暑いとは然程感じない。


 そんな休日。俺は父と自宅にてその時を待っていた。その時とは、父の再婚相手が本格的に家に住み始めるための挨拶をしに来ると同時に、その瞬間から家族として顔を合わせるという大切な時間。


 そう。俺の父と母は既に離婚済み。詮索する気も毛頭なく、興味も無かったので、そこらの話は聞き流した。それから6年経った今、高校1年として悠々自適、順風満帆な学校生活を送っていた途中での突然の話だった。


 再婚相手には俺と同じ歳の娘さんが居るらしいが、父は一向に名を教えてはくれない。何かしらの意味を込めているのか分からないが、他人にあまり興味を持たない俺は気になって寝れない、なんてこともない。


 時刻は13時前。予定時刻はすぐそこ。父は貧乏揺すりを始めては、無駄に時計を気にして深呼吸を繰り返す。父はとても陽気であり、俺と比べると本当に父とは思えないほどにはパワフル。


 だからこそ、この珍しい狼狽に隣で自然と焦りを感じずに笑える。何もかも父が進めるという安心感も相まって。


 それから少しして、ようやっとチャイムが鳴らされる。ピンポン、と、元母の意向で将来を見越しての3LDKという広すぎる部屋に、それは小さくも響き渡る。


 「……来たか……来てしまったか……」


 確実に先には再婚相手が居る。分かるから父は口に出してそれを吐き出さないと耐えられないらしい。


 「父さん、待たせるのも悪いから出なよ。外はまだ暑いし。無理なら俺がいくけど?」


 「いや、それはダメだ」


 と言いつつも、席をバッと勢いよく立つと冷や汗をハンカチで軽く拭い、再び落ち着かせるための深呼吸をする。鼓動は聞こえないが、相当バクバクなのだとは、息子として知っていること。


 「こ、ここで待ってろ。つ、連れてくるから」


 「そんな狼狽えなくても」


 「緊張するんだよ」


 見送る俺の腕はその緊張なんて見ず知らず。共感すら出来ないが、頑張ってほしいとは思いながら挙げられた。


 奥からガチャっと鍵を開け何やら早々に会話をする父の声、そして再婚相手の声も聞こえた。歳にして近いのだろうが、まだ若々しく透き通る優しさの包まれた声音はそうは思わせてくれない。


 ドンドンと我が家を歩く歩数が、音からして1人ではない。2人でもなく、娘さんも含めてやはり3人だと即座に理解した。


 何もない質素な室内に意味を求めてるわけでもないが、迎える立場ならば、もう少し彩りを添えても良かったかもな、なんて思ったりはする。


 そんなとこに視線を向けると、気づけば足音はすぐそこ。ドアノブに手が掛けられたのを音で確認すると、俺は失礼のないように席を立つ。迎えるマナーなんて知らないが、座ったままなのは良くないとの個人的判断。


 我が家に入るための第2の扉を開き、そこでやっと目にした。初めて見る父の再婚相手。


 「どうぞどうぞ、入ってゆっくりして」


 「ありがとう」


 再婚。つまりは家族となったわけだが、それでも少し前までは他人だったということもあり、未だに馴染めない親近感はあるらしい。いつもの父ではない、新たな父を見ているようで、第三者としては見応えある。


 案内される先、そこには俺が居る。父から話は聞いているだろうが、一応名乗るべきではある。近づいてくる再婚相手に一礼する。


 「はじめまして。七夕風帆たなばたふうはです」


 「あら、丁寧にありがとう。君があつしさんの息子さんね」


 敦とは俺の父の名前だ。


 なんとなく、第一印象が決まった気がする。ニコッと作る笑顔は心の底から来るもので、包容力のありそうな優しい女性、と。


 「私は早乙女可奈美さおとめかなみ。今日からよろしくね、風帆くん」


 「はい。よろしくお願いします」


 若干茶色の髪を肩下まで伸ばし、薄く輝く双眸。見た目で年齢をいうならば30前半といったとこの、何に於いても拒否反応のない女性。


 印象の悪い女性ではなくて、どこかホッとした俺だった。しかし、それも一瞬のこと。次の瞬間に俺は目を見開くことになっていた。


 「さぁさぁ、入って入って」


 「し、失礼します……」


 父の誘導に、子供ならではの挙動を見せ、不安を全面に出しながらも入室する女性。再婚相手――可奈美さんの娘さんだとは分かる。が、それ以上に分かることはあった。


 正直、早乙女という名字を聞いた時から脳裏に過ぎったのは否めない。そのよく学校で聞く名字であるために、嫌でも覚えてしまうのだから。


 え?と思いながら娘さんと目を合わせる。相手も同じ様子で何を思うやら。部屋に入って早々に俺と目を合わせるのは少し申し訳ないが、そんなことを思うよりも先に思うことは当然のようにあった。


 だがそれまで。お互いに自然と理解した。天啓のように、この空間を自分たちで邪魔してはいけないのだと悟ったのだ。だから無言で目を逸らす。そこには確かな何かの意図を含めて。


 先に座った俺に続いて早乙女家の2人も座る。落ち着いた雰囲気を醸し出すが、内心ではその真逆であった。


 こんな奇跡ってあるんだな……。


 父もまずは出だし好調だと、笑顔を段々と取り戻し、俺の隣に座った。向かい合う娘さんと俺。お互いに顔を知るからこそ、その時間は気まずかった。

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