Sec 2 - 第4話

 ――――――彼女を含むあそこのメンバーたちが『第一線級の・・』と言われるのには理由がある。


『第一線の』という言葉は、トップクラスの信頼される能力と実力を持つエージェントたちを指していて、実際に仕事などで関わるスタッフや司令部などの人たちがそう慣例かんれい的に呼んでいたようだ。


それは重要な作戦を任せられる実力を持っている、という理由もさることながら。

『EAU』は少し特殊な民間の組織であって、軍部などとはまた違った組織構造を持っているからみたいだ。

『第一線の』という彼らは、『EAU』の創設そうせつ以前にあった組織、『EAU』の前身と言える組織から特務協戦とくむきょうせんの活動をしていた人たちが多いらしい。

つまり、本当に戦場の第一線に立った人も多いってことで。

現在の私たちが住む『リリー・スピアーズ』は、だいぶ平和になったと言われてるけれど。

昔の事件や闘争とうそうに関わった『第一線級』の人たちは、私の知らない景色をよく知っているのかもしれない。


そもそも、『EAU』の元々もともと創設そうせつコンセプト意図は、『発現研究を行う『リプクマ』が、必要に応じた武力を持つ。治安維持ちあんいじ貢献こうけんする。』などであって。

そのコンセプトに合う各方面の人材やチーム、いわゆる傭兵ようへい職などという人達を集めて創設そうせつしたらしい。


だから、現在でも司令部コントロールなどにおいても、エージェント構成員の強化・育成プランにも力を入れているし。

そこから訓練メニューの考案、組織の改良案、現場では作戦立案レベルなどの業務までも『第一線の彼ら』が少なからず関わっている、と聞いた事がある。

でもそれは、あくまで役職でもないらしく、一部の人たちが肩書きを持ってるわけじゃないらしくて。

でも、よく意見を求められるみたいで、そういった『EAU』を主幹しゅかんから支えている人たちを便宜べんぎ上に『第一線のエージェント』と呼んでいる、という感じなんだと思う。

つまり、組織的にまだ正式に固まっていない部分、ってことなんだろうけど。


彼らが『EAU』の重要な役割をになっているのは確かでも、その言葉自体が定まってない、慣例かんれい的なものなので、他の言い方だと『第0世代』とかも聞いた事がある・・。

いや、あれは違うか、あれは発現能力の傾向などで呼んでいる向きもあるようだし。

必ずしも『第一線』のだから、というわけじゃないと思う。


まあそういう呼び方なども正式なものじゃないので、習慣的に曖昧あいまいなものみたいだ。


ある意味、『EAU』の人たちだけがわかる隠語いんごみたいなものか。

『第一線の・・』と呼ばれる人たちは、現在の『EAU』内での『トップクラスの実力を持っている人たち』って意味だということだ。


あの中の、アイフェリアさんもそんな1チームの隊長で、『EAU』内では知られているらしい。

まあ、私でも知っているくらいだから。

目立つというか、そのたたずまいや表情はとても静かだけど、雰囲気かな、周りと少し違う気がする。

『EAU』でも何度も補外区の取り締まりや戦闘に出向いているらしいし。

あと、この前の合同トレーニングで彼女に話しかけられたのは覚えている。


彼女も『第一線』、『0世代』とかに数えられている、と思う。

曖昧あいまいでよくわからないけど。


それから、あそこの顔ぶれの中でも、隊長格のケイスデッドさんや、大きな身体のゴラバスさんとかがいて。

他に、私たちに近い若い『世代せだい』でも『優秀な能力』を持った人たちは『第一線』のチームにピックアップされて、組んでいるって話だ。

『リプクマ』の研究に関わっている、というチームの話も聞くけれど。


「エヴィン・バーダーだってな。なんだって彼もいるんだろうな?」

傍の、スタッフの誰かがそう言っていたけど。


『エヴィン・バーダー』は、有名な人らしい。

彼は『ドーム群地帯』の戦後、混乱や闘争とうそうが残る例の時代を、切りひらいてきたって聞いた事がある。

経験豊かって意味だと思うけど、だからか『EAU』内では実力や人望などもとても信頼されているエージェントらしい。

なか尊敬そんけいあこがれみたいな扱いもあるみたいだけど。


例えば、歴史に残る大きなり物に参加したとか、補外区での大きな『ディッグ武装強盗集団』の取り締まりを何度も成功させたとか、その手際てぎわの良さとか。


私は、実際には彼とは話したことが無いけれど、他の人からそんな話はいくらか聞こえてきた。

人柄ひとがらも良いらしいし。

対特対特能力者戦闘の経験をまえても『EAU』内では最高クラスの実力者らしい。

その彼が率いるチーム『Uユニット - 1』も、当然、第一線のトップクラスだという――――――――


――――――と、向こうの、遠目の『第一戦級』らしいメンバーの中で。


その、誰か小さくて、・・小さい、逆に目立つ子が、両手を広げてポーズを決めて、元気な声も出したような。

遠目でよくわからないけど、ふざけてみたのか、小さくて華奢きゃしゃなその子は、笑顔のようで。


みんなに向かって両手を振ったりもしてた。

遠巻きに見ている子たちも、振り返している子もいたけれど。


というか、遠目のその子が大きな男の人に、なんだかしかられたのか、言い合うようなのもすぐに、首根っこをつかまれて引っ張られていった。


周りで、笑ってる人たちもいたけれど。


あの子どこかで見た事があるような。

以前の合同訓練とかで。


まあ、あの子は『EAU』のトレーニングウェアを着ていたし。

彼ら『第一線』の人たちと一緒にいるのだから、つまり、あの子もそういう事なんだろう。


「なんだあいつ・・」

って、隣にいるケイジも同じ方を見ていて、興味なさそうにだけどあきれたように言ってた。


―――――そんな彼らは新しいバスへ、3台目のバスへ先頭から乗り込み始めていた。

向かう先はわからないけれど、もしかして私たちと同じ目的地もくてきちなのかもしれない。


「さあ、乗っちまえ」

って、バスのスタッフに言われて、向こうばかり見ていたのに気づいたミリアだ。

カードをポケットに仕舞しまいつつ、振り返ればガイが、リースをちゃんと連れてきたのが肩越しに見えた。

「遅刻厳禁、まあ、出発したわけじゃないが。こっちの車はお前らが最後だぞ、」

って、傍のバスのスタッフの人に言われた。

出発してないのなら別にいいんじゃ、ともちょっと思ったけども。

まあ、それは置いておいて、ミリアは後ろのチームメンバーに声を掛ける。

「行くよ、」

バスのステップに片足をかけて、体重を乗せてみ上がった。

すげぇな。なにか起こる予感しかしない。」

って、背ろのガイが向こうの光景にちょっと笑っていた。

「どこへ行くって?」

「さぁ?」

そのガイの質問には、ケイジが軽く答えてた。

「あそこの彼らも同じ場所へ?」

「行けばわかる、時間が来てるんだ、早く乗っていけよ」

ガイが聞いたスタッフの人にはかされる、そんな声を聞きながらミリアが、車両のステップを上がって行けば、車内には思ったよりも大人数が既に乗り込んでいて、各座席に着いている人たちの顔がなんとなく見渡せた。

こちらを見てくる人もいれば、寝ている人もいたり、近くの人とおしゃべりしていたり、みんな思い思いに過ごしているようだ。

「マジで同じ場所へ行くの?」

「待機してるっぽい、」

「やっば、あれ本物?」

座席の通路を進みながら聞こえてくる会話と顔ぶれを抜けて、とりあえず空いている席を探してミリアは進んでいく。

「あれ、あいつらはこっちなんだな・・?」

大きな車は外見通りに、広い車内はまるで高価な観光かんこうバスのようだ。

まあ、観光バスに乗った事は無いけれど、映画とかだとそんなイメージだ。

周りの人たちから少し、独特な視線をちょっと感じるけど。


「なんか嫌な予感しかしねぇ」

後ろでガイと、か話しているケイジのぼやいた声も聞こえたけど。

「腹が減った、」

って、ケイジが更に言ってた。

まあ、その気持ちもちょっとわかるミリアだ。

まだ出発もしていないけど、軽くパンとかサンドイッチとか、小腹に入るものを食べたいな、と。

それもこれもたぶん、さっき呼び出された事が関係ないとは言い切れない、のかもしれない。

まあ、ミリアは空いている良さそうな座席を探して、座ってみた。

けっこう快適かもしれない。

移動用のバスなら、椅子もまあ固そうだけど背もたれがあって、少しはゆっくりできそうだ。

「珍しいよな、」

ガイがケイジになにか言ったのも聞こえてた。

お尻の位置を調整したり背中を合わせてると、隣にガイが座ってきて、すぐ後ろの席にはケイジとリースが座ったみたいだ。

身体が落ち着くベストなところを探し当てて。

ちょっと長旅をしてもそんなに悪くは無い心地かもしれない。

今から森の中を走るバスなんて、ちょっと想像したけれど。


まだわいわいとにぎわう車内で。

他の座席をチラリと見た感じ、いろんな人達がいるみたいで。

かなり年上の人たちや、近い年代の人たもある程度いるような。

でも、小さな子たちの声とかは、全く無いようだった。



「そろそろ出発する。」

並ぶ座席の前の方で、手を上げて仕切しきる誰かがいるようだ。

「出発する、静かにしろ。」

なかなか注目が集まらないようだけど。

あわせていくつかこれからの説明をする。これからの事だ。注意事項ちゅういじこうを聞き逃すなよ」

「楽しい旅行が始まるんじゃないのか?」

だまってろよ、」

「つまらんことを言ってんじゃあない。黙って聞いておけ。そこ、おいおい。特に今回は若い連中も多い。お前らみたいなのがいろいろ教えてやれ。若い奴らは、・・まあくせのある連中も多いが、基本的に悪い奴らじゃあない。なにか問題があったら周囲に積極的に聞いてみてくれ」

「はっは、」

車内でちょっと笑い声が上がる部分もあったみたいだ。

ミリアには、なんで笑ったのかわからなかったけど。

「そろそろ出発するが、聞いてたな?

今回の訓練は初参加の奴らも多い。

そして少々、特殊な場所へ向かう。

これは遊びでも観光でもない。

目的の場所へ着いたらピりっとした空気で訓練が始まる。

今回は希望者だけが参加している、ってことは覚悟かくごを持った奴らしかいないっていうことだ。

だよな?」

「すいません、それはちょっと違うと思います、」

異論いろんは無しだ。」

誰の異論いろんがすぐ却下きゃっかされてた。

「手を上げてまで言う事じゃないだろうが。

少なくとも、そういうつもりでいく、」

横暴おうぼうだー」

「少なくとも他の隊長がたはそういうつもりだ、ってことだ。

俺の考えがどうという事じゃない、指揮をコーチ監督が許さないってことだ。

それがチームってやつだろ?ボスがいて、お前らがしたがう。シンプルだ。

それから、このバスの発車後は『外の景色が一切見えなくなる。』

機密保持きみつほじのためだ、なってもあわてるなよ?」


少し車内がざわっとしたようだ、『景色が見えなくなる』と聞いて。


まあ、外が見えなくなる・・のは別にいい。

気になるのは、『機密きみつ』って・・なんだろうか?

訓練に行くだけじゃないのか・・、訓練場所が特殊なのか、どこかきびしく情報が管理された場所へ行く・・ってことなのか・・・。


「一体どこで訓練するんすか?」

誰かが質問したのと同時に、ゆっくりと、バスが動き出したのを感じた・・大してれはしない、窓の外を見れば見守る人たちがちょっといる建物の傍の景色が動き出していた。

「『それ』を言えないから『機密』って言うんだ。だが・・、別にヤバイ場所へ連れて行くわけじゃあない。到着したら『着いた』って言ってやる。VIPビップあつかいだろ?それまで、みんな気楽に過ごしていてくれ」


窓の外の景色は動いて、『EAU』のビルの敷地しきちから車道へ向かっている。


「時間はどれくらい?」

「さあな。1、2時間ってところじゃないか?」

便所べんじょに行きたくなったら?どうすんですか?」

「我慢しろ。自己管理だろ?」

ちょっと笑う声も聞こえてたけれど。

「どうしてもれるってんなら考えるよ。性能の良い簡易便所があるのは知ってるだろ?」

「ヤダ恥ズカシイ、」

「食い物とかは?」

「おやつとか出ないのかよ、」

「後で飲み物をくばる。向こうで簡易食かんいしょくも出る予定だ。つうか、運動前にメシは食っておけ。ったく、」


ミリアは、バスの外を見ていたけれど。

流れて行く景色は街中まちなかの一層を走り始めていて、低層ていそうなので建物の壁とかが流れるばかりだ。


バスの中の様子へ、少し目をやれば。


思い思いに過ごす彼らは、話半分に遊んで笑みをらすような人達や、静かに過ごす人たちや。


それから、後ろのリースは座席で静かに、まぶたを閉じているのを見つけた。

「もう寝てるの?」

ミリアの声に外を見ていたケイジが気が付いて、隣のリースの顔を覗き込むついでに、あごを、むいっと手でつかんでた。

え、とミリアが思う前だけども。

リースがうめき声を上げてた、目はつむったままだけど。

「やめなよ、」

嫌そうなリースをつまらなさそうにもてあそぶケイジを、注意するミリアだ。


「寝かせてやれよ、」

って、ガイが笑ってるのも苦笑いみたいだ。


ケイジが手を放したので、リースがちょっと丸まって、安心して背もたれに身体をあずけてた・・。


・・ミリアが、傍の窓の外をまたながめたら。

別のエリアの街の建物が遠くに見えていた。


「水が欲しいヤツ、回すぞ。」

「水をくれー」

「あたしも、」


道路を走る景色が壁にたまにさえぎられる、道路上を走る窓の外にあって。

中層へ続く道路に上がって行くと、遠くに見える景色は青空の下の白いリリー・スピアーズがある、プリズムの欠片かけらきらめく大きなかさの、今日はまばゆいほどに白くかがやいていて、高層ビル群と一緒に。



―――――――気が付くと、窓がうっすらと黒くなっていて。



まだ、出発してから数Kmも走っていないだろう・・・。

1、2分経ったのかどうか。

―――――・・・窓は、い黒色へ、溶けるように、変わっていっていた。


中層道路を走る景色が、黒くまるわけじゃない。

き通らない闇のような色が・・自分の顔の影を反射していた。


のぞき込んで見れば、自分がまばたきしているのかくらいはちょっと、わかるかもしれない。



「おー、マジで真っ暗だ、」

「映画とか見ないんっすか?」

「ホラー映画とか?」

「怖いのはやめてくれー」

「真っ暗だとえる」


ちょっとざわめくような車内だけど、車内照明はいつの間にか点灯していた。


ミリアは自分の顔のシルエット輪郭が映った窓の傍で・・そのまままぶたを閉じた。


――――――人は、

事実を並べて、『そうした方が良さそうだからそうしました』、っていう返答が、嫌いなような。


納得してくれない、さっき見てきたばかりの、えらい人たちの顔がちょっと浮かぶ。

ん-・・・。

ってやつが必要なんだろうか、きっと。

いわゆる・・・。

たぶん。

ふむ。


アミョさんなら、どう言うかな・・・?


と、まぶたの向こうが明るくなったような気がして―――――


―――――微かに開いたミリアのひとみに・・・その睫毛まつげの先に、あざやかな花たちの色彩しきさいが映る。


―――――――それは、車内の窓が全域で暗転して、一息おいてから、青空の下でバスが走る、花畑の見える風景へ変わったからのようだった。



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