第30話

 『市民を危険にさらした、未然に防げなかったことが『リリー・スピアーズ』ドーム全体の安全を管理する警備部のセキュリティ保障態勢の不備だ』との懸念けねんの声が上がっています。』


ちょうどミリアが、ソファに座ってテーブルのピザの箱へ手を伸ばしかけていて、ちょっと、またモニタの方を見たけれど。


『その一方でEPFの活躍を目の当たりにして、笑顔を見せる人たちもいたようです。』

ニュースキャスターがそう語る画面が切り替わって、街の人が映って。

『EPF?本物を見たよ!あれは凄かった、前に動画で見たまんまの事が起きてさ、』

ちょっと興奮してるような、人のさそうな青年の横にインタビューを受ける市民、という文字が表示されていた。

『目の前で起きた事を信じない人なんかいないでしょう?オレは彼らを信じてるよ。ははは、』

別の人に切り替わって、話す彼らは現場にいた人たちか、ニュースに映る様子は笑顔も垣間かいま見えているようだった。

そんな様子の中で、画面に見切れて、なんか、こっちへピースをしている人たちも見えていたけれど。

映るのが楽しそうな彼らは、それに、中にはなんだか奇抜きばつな格好をした、・・なんか見覚えのある色合いの服装の人がいたような。

「あれ、」

「ん?」

指を差しかけたミリアに、ガイが反応して顔を上げていたけれど。

さっきの画面は切り替わってて、その奇抜きばつな色合いの人も消えてた。


・・まあいいか。


ふむ、と小さく鼻を鳴らしたミリアだ。

「ん?」

って、あっちのソファに座ってるガイが、こっちを見てちょっと不思議そうな顔をしているのも、見つけたけれど。

気が付けば、室内のみんなはニュースへちょっと目を留めるくらいで、また携帯をいじってたり。

ソファから離れた所では、アミョさんがデスクの方で自分の仕事でもやっているようだった。


隣のケイジなんかはソファの上で寝転がってて、こっちにくつを向けたまま、自分の携帯で別のものを見ているみたいだし。

というか、足がちょっと邪魔じゃまなので、押してソファから落とそうかとも思ったけども。


リースも向こうで、いつものミニソファに座って携帯をいじっている。

帰ってくるまでもよく寝てたので、さすがに今は眠くないんだろう。


部屋はそんな、みんなが静かに過ごしていて、ようやく一息ついている様子だ。


「あれ?カップが、」

立ち上がったガイが、テーブルの辺りを探していて。

「あぁ、洗っていたよ。」

アミョさんがそう。

「あ。はい、」

自分たちがいない時に、掃除スタッフクリーニングが入ったみたいで。

給湯コーナーへ向かうガイは、そこに置かれていたマグカップで飲み物を飲もうとしてたみたいだ。

そんな様子を眺めてたミリアも、思い出して、立ち上がってた。


ピザを食べるなら、ドーナッツを食べるなら飲み物は必要だから。

給湯コーナーに置いてあるその自分用のマグカップを手に取って、置いてある数種類のティーバッグからどの紅茶にしようか、ってちょっと考えてみてたけど。

ピザにも合う・・、ドーナッツにも合う紅茶・・・?・・って、どれだろうか?と、ガイの隣で、自分が飲んできた紅茶の香りをちょっと思い出してみてたけど。



「ああ、そうだ。聴取ちょうしゅもするかもしれないから、そのつもりでメンバーには残っていて欲しいって連絡が来たんだ。」

アミョさんが室内のみんなへ、大きめの声で伝えていた。

「聴取?」

ガイが聞き返して、振り返ったミリアも瞬いてたけど。

「軽いものだと思うけどね。あと、報告書の提出は、特に当事者の所感しょかんを聞きたいらしいから。ケイジ君たちは、その辺を詳しくよろしく。」

「んぁ・・?」

すっかりオフOFFモードのケイジがソファの上で、間の抜けた声を出してたけど。

そういえば、ケイジにまだ必要な物を書かせてないや、って思い出したけど。

本人たちの感じた事を、ってことはまあよくある書き方だ。

事実はほぼアイウェアなどによるデバイスAADから、カメラなりに記録されているから。

その上でこの聴取の目的はたぶん、ケイジ達の方の事件がメインなんだろう。

こっちの私たちの方は遠巻きに事件を眺めていただけで、別に変わった事も無かったし。


「まだ帰れないのかよ・・、」

「特別手当もちゃんと出るから、」

不満そうなケイジを、アミョさんがなだめるようだけれど。

「ケイジ、」

ミリアが名前を呼べば、ケイジはちょっとは大人しくなる。

まあ、仕事が増えるってそういうことだ。

今回はケイジが自分から動いた結果だし。


それに私も、届いているはずのメッセージや書類のチェックもしないといけないし。

いくつか提出するべき確認書類に目を通さないといけないし、でも聴取ちょうしゅがあるのなら帰りが遅くなりそうで、まだ急がなくても良さそうだ。


「みんな疲れてるだろうけど、建物、敷地内に居ればいいから。別の場所で休んでても良いし、構内の食堂でご飯を食べてきてもいいよ」

「うっす。どうする?ミリア、」

「どうしようかな、」

「食ってくるか、」

起き上がったケイジが。

「ケイジ君は報告書よろしく、先に、」

「・・・」

って、アミョさんが柔らかい物腰だけど、はっきり言ってた。


アミョさんに言われて、ケイジが嫌そうな顔をしたまま、ちょっと止まってたのを。

ミリアはちょっと見てたけど。


まあ、それは重要なんだろう。

ちょっとお腹が減ってきてる、のをミリアも感じてるし、先に食べて来てもいいんだろうけど。

でも、アミョさんが言ってるとおり、ケイジがさくっと書いて終わらせた方がいいのかもしれない。

聞き取りをするのなら、あの時に何があったのかが詳しくわかる報告書は、事後調査の参考にされるだろうし。



ケイジが全然動かないのを横目に、まあ、とりあえずミリアは顔を前に戻して。

目に入ったティーバッグを適当に手に取って、包みを開けて、マグカップに入れた。

ダージリンの葉みたいだった。

ケトルからお湯を注いだ後に、もう一度ケイジのいる方を見れば、いなくなってたけど。

少し・・・きょろっと室内を見回しても、ケイジはいなかったので。


「アミョさんも現場に来たんですか?」

ガイがアミョさんに声を掛けるのを耳にしながら、歩き出してた。

「いや、けっきょくセンターEAUオフサイトセンターで指示してたよ。車に乗りそびれて、」

2人とも苦笑いしていて。


マグカップの紅茶の水面が揺れるのを、こぼさないようにミリアは注意して歩きながら・・・テーブルの方へ、気が付いて、ちょっとのぞき込むようにすれば、ソファでケイジがまた寝転がってる後ろ頭を見つけてた。


「ケイジ、」

思わず呼んだミリアの声はちょっと低いものだったからか、びくっとケイジが、見えている腕の部分とかがちょっとふるえたのも見えてたけど。


―――――給湯コーナーでガイが、緑茶グリーンティーを淹れたマグカップを片手に、ソファのテーブルへ足を向ければ。

「早く書いてきなよ、」

そう、ミリアがジト目に、ケイジへあごうながしてて。

渋々しぶしぶと起き上がろうとしているケイジの様子に、少しほおを持ち上げていた―――――――。





 『―――――――追加情報ではっきり状況はわかりましたが、確かに彼らは銃で武装していたようで、拳銃が何丁か、と見つかったのは少ない数だったようです。

しかし、そんな少数のために、そこに、いくらかの特能力者がいたとしても、警備部に加えてハイセキュリティ次動警備隊に、『EPF』という多大なコスト、戦力さえ投入して取り押さえるのは過剰かじょうな対応と言えるのではないでしょうか?』



ニュース番組で盛り上がっているのは、コメンテーターの彼らだけれど。


ソファに座ってニュースを眺めていたミリアは、既にめたピザを一枚、もぐもぐ・・と強めに咀嚼そしゃくし終わって、ごくんと飲み込んだところだ。


ふむ、・・冷え切っていて固い、口の中での存在感は嚙み切らないといけないゴムのような、でも噛むごとに味が染み出して、油の旨味を感じられて・・・ふむ。

ってちょっと、首をかしげたくなるような。

さっきケイジが、『こはこれで美味い』って言ってたけど。

たぶん、みんなを集めて審議しんぎしたら、なかなかまとまらないような気がしているけれど。

まあ、乾いた硬いチーズには、ビーフジャーキーなどのような旨味うまみおもむきがあるかもしれない。

と、紅茶を口に含むようにしてピザを食べるのも、いつもと違う香りと味わいがあって、いいのかもしれない、と思う事にした、今のところは。


「これでいいのか?」

「うーん・・・、」

「ちゃんと書いたろ?」

そんなやり取りの声が聞こえくるのは、向こうでケイジが自分のデスクで渋々しぶしぶと報告書を作っているからで。

アミョさんが自分の仕事のついでに、そばでアドバイスをしてくれているのも助かる。

リースには手伝わなくていい、って言っといたので。

アミョさんが面倒を見る感じになるのは、まあ、いつもの流れだ。


リースはそこの定位置で、いつの間にかドーナッツをかじっていて。

まったく手伝わないリースは大抵、指示には素直なので、これも助かる。


今日は疲れているみたいだけど。

というか、リースは別に体力がないわけじゃないはずなんだけど。

今日はずっと調子が悪いようだ。

まあ、ただ眠いだけなら別に良いんだけど、これも一応報告にせた方がいいんだろうか?

と、ちょっと思ったミリアだ。

『ずっとリースが眠そうだった』って報告書に書くのも、想像してみるとなんか変な気がするので、迷う所ではある。

いつもの事でしょう、って一蹴いっしゅうされそうだし。


『―――――現代において『EPF』の存在自体が過剰かじょうな戦力だ、という議論もありますよねぇ』

『それはどういうことでしょうか?』

『確かに以前のドームは治安も安定しておらず、『EPF』を含めて『特務協戦』の力を借りてやっていた時期がありますが・・』

『いつの時代の話をしているんですか?』

『私の話の途中ですよ?』


―――――――・・『EPF』とかに関する議論は、リリー・スピアーズ・ドームの中でも尽きる事が無いのは知っているけれど。

今日はそういう話ばっかりみたいだ。

これもあの大きな事件の影響なんだろう。


『言いたいのは、現代の犯罪の規模が縮小していっているということです。それに見合った戦力へ縮小する事も必要なのでは?』


―――――それでも、市民は傷つけてはいけないわけで。

街にも被害は及ばないようにしなければいけなくて。

傷つけないために、何をすべきかと言えば、・・取り得る完璧な安全策を取るしかないわけで。


『特能力者という存在が現代にはいます。『特能力』が関係する犯罪に直面しておびえる人たちがいるのも事実ですから、』


―――――私は警備部じゃないけど。

治安管理をつとめるわけでも、その方針を決める立場なわけでもないから、それらの内情ないじょうは知らないけれど。

基本的には、人を助けるための戦力は、多ければ多いほど良いはずで。


『その『EPF』が前に出る事によってその意識が加速するという事もあわせて考えるべきという事です。』


――――暗闇の中で、いつまで頑張れば助けが来るのか、わからないまま、うずくまってでも戦うよりは、仲間が多い事は、全然良いはずだ―――――。



『意識が加速するって、あんた、それを裏付けるデータはあるんですかね?』

『・・・』

『あ、この辺りで次の話題へ、』

『そもそも特能力者に期待しすぎなんですよ。『EPF』に全て任せりゃいいや、って思っていません?それが彼らの仕事ですからって?そういうみなさんの過度なイメージが彼らを苦しめるんです――――――』

『そういう風潮ふうちょうがあるのは否定しませんが、『EPF』がいるから、って前提の論議ろんぎになってませんか?治安管理は彼らだけでは成り立たない問題のはずですし、実際の生活で『彼ら』に対する偏見が―――――――』

ニュース内ではコメンテーターの人たちが盛り上がってきているようで。

『そりゃわかってますよ、しかし―――――――』


「ふぁぁあ・・、」

って、あっちのソファに座ってるガイが、ニュースを見ながらあくびをしてたけど。


ちょっと瞬いてたミリアは。

・・ちょっとだけ口を開いて、息を吸いこんで、息を胸に大きめに吸い込んでいた。

ちょっと、あくびをしかけそうな、だったけど。


・・あの盛り上がってる2人はよくニュースで見かける人たちで、確か、エロイド・フェンリィとリケノ・オールトっていう名前の有名人、いわゆる名物コメンテーターみたいな感じだ。

たしか、どこかの大学の助教授であったり、SNSなどを駆使するマルチタレントのような研究者のような組み合わせらしい。

彼らはあのキャスターと交えて、いつも『EPF』や『特能力者』が関係する事件や法律などについてやり合ってるから、2人で『エロケノ・バトル』とか、『エロケノ戦記せんき』とかっていじられているのは、なんか知ってる。


『我々と彼らには明確な違いがあります。でも、その違いをどう正しく区別していくかが重要なんですよ。』

『偏見ではなく理解だ、と』

『そうです。やるべきことはきっちりやっていますし、被害が拡大する前に未然に防げていますし、』

脅威きょうい認識にんしきさせる事がもうダメなんですよ、』


ニュース番組というより、討論とうろんになっている気がするけど。

聞いてる限りは、過激かげきな発言をするわけじゃないし、ちゃんと意見を戦わせるような印象で。

『これだから、頭でっかちな意見はあまり・・』

『・・・』

まあ、たまにケンカ腰になる、ピリッとしたこの感じが、面白いらしい。

SNS上などで、たまに話題になってるみたいだし。


『『EPF』はですね、一般的に社会と特能力者とのけ橋という側面もありますから。公的なメリットを考えたら、彼らの存在はメリットにもなっていて・・・』

『ちょっと議論が白熱してしまっているようですね。この番組はニュース報道番組ですのでね。こちらの話題に移りましょう。』

キャスターの人が仕切り直す、そのスタジオの中での失笑しっしょうのような、ちょっとき出した雰囲気もあったけど。

画面に映る、いくつかの見出し文句が動いて、光ったりするエフェクトに、『最新技術のショーイベント』とか、いろいろで。

『名優のデボレ・パウニャさんが衝撃的な事故を乗り越え、新作映画の撮影現場から、応援する人々へメッセージを発信しました。』

次にピックアップされたニュースの。

ぁ、顔は見た事ある。

確か外国の俳優の人だ。


って気が付いて、ミリアがちょっと周りを見ても、誰もモニタを見ていないようなので。

「チャンネル変える?」

ミリアは室内のみんなへ声を掛けてみたけど。

「変えるのか?」

って、ガイが。

「なんか面白ぇの見ようぜ、」

って、向こうでデスクに向かってるケイジが言ってくるけど。

「面白いのって?」

「『ワルイギリ』ってのがあったな、」

「うん?それアニメ?」

「オキニリストに入ってるだろ。いつもは見てねぇけどな、」

「へー」

「続報があるかもしれないからニュースが良いんだよね、」

って、アミョさんはそんな感じらしい。

「どうでもいい事ばっかりしゃべってるじゃねぇか、」

ってケイジは。

「まあ、」

アミョさんが苦笑いみたいだけども。

「この番組ならまだ中立って感じかな、」

ガイがそう言ってたけど。

アミョさんがよく見ているこのお気に入りのニュース番組『57News』だから、もっぱらこの部屋で見るニュースもこれにかたよっているわけで。


『次の話題です。SNS上で謎の歌姫と言われているエン・キコさんが最近、ドーム群地帯で撮影された写真をSNSに発信していた事がわかり、話題になっています。『彼女はどうしてもここへ来たかった』とコメントを添えています。』


「ほぉ?」

ガイがちょっと興味を持ったみたいだけど。

「いるとは限らない、ってやつだろ、」

ケイジがそう言ってたけど。

というか、『彼女はどうしても』って、自分の事なのに、なんか変な言い方だなって思ったけど。


前の方にミリアは中腰になって、ドーナッツの大きな箱に手を伸ばしかけて、と、思いついて。

飲みかけのマグカップを手に持って、給湯コーナーへまた足を向けていた。


「あれ、ここ、『君』が?『彼』が?」

「あー・・・もう書いてくれねぇか?」

「君が感じた事を書かないと、だね、」

顔を上げて見えるのは、向こうのデスクでアミョさんとケイジがまためてるようなやり取りをしている様子で。

今は、アミョさんが両手を上げて、『君の仕事にはタッチしないよ』と意思表示しているみたいだ。

なんか、このままだと、小さな子供が書いた作文みたいなのができそうな気がしてきた。


そんな光景を見ていたミリアはまあ。

手に取った個包装のミルクを、ぴり、っと紅茶に入れて。

ティースプーンで掻き混ぜる。


ちょっと息を吸ったのは、深めに。


そんな、ちょっと深い息を、・・・ふぅ、と吐いてたけど。

ちょっと肩も落ちて、体が軽くなった気がした。


それから、目をぎゅっと閉じて、シパシパしたりして。



「どこがだ?」

「この辺りがね・・、」

聞こえてくるケイジとアミョさんの会話は、やっぱりめているみたいだけど。


「『ヤバい感じがした』っていっちばんわかるだろ?」

「まあニュアンスはそうなんだろうけど。・・どう『ヤバかった』かってのを理屈りくつで教えてほしいんだよなぁ。」

「これ以上なんて言やぁいいんだよ・・?」

「えぇっとね・・感じた事を、って、そうだよねぇ・・はは、」

困った様に笑っているアミョさんが、ちょっと困っているっぽい。


アミョさんは気が付いたらアドバイスしてくれていて、ちゃんとケイジの報告書をまとめる手伝いをしてくれているから。


「大丈夫ですか?」

ミリアが声を掛けてみて。

「・・まあ、確かに、特能力者の、特に感知・感応力が高い人は、ほぼ感覚でやっているっていうから、それも科学的証明かがくてきしょうめいの観点からすると1つの命題めいだいなんだけど、なんてアドバイスしていいのか・・うーん、」

アミョさんがブツブツとひとり言を言いながら、いろいろ頭を悩ませている。


・・といっても、確かケイジは、感知に関する走査系能力などは、ほぼ無いはずだ。

私はリーダーなので、メンバーのそういう個人情報や評価などを必要なあるレベル基準までの部分まで見る権限があるけれど。

それらはプライバシーに関わる事もあるので、口にはできないんだけれど。

つまり、情報通りならケイジは、いわゆる非特能力者一般の人とほぼ同じ感覚で生活しているはずで。

つまり、ケイジは最初から『勘』って言っているようなもんなんだろう。

なのに、何かの事件を捕まえたっていうのはすごいけど。

どちらかというと、リースが重要な部分をになっている気はしなくもない。

その、あそこのソファにいるリースは、いつの間にかドーナッツをかじってて、携帯を見ながらくつろいでいるようだけど。


ここだけリースに頼むかな、って思ったけど。

リースは、こういうのはそつなくこなすので。

くつろいでいるリースを見てるミリアは。

まあ、今はめんどくさがりそうだな、って思ったけど。

つい、とリースがこっちを見て、こっちの視線に気が付いたような。

・・口を開こうとした前に、ぷいっとリースが顔をそむけるように携帯に目を戻していた。


もしかしたら、『今日は店じまいだ、また来な』、って感じかもしれない。


ふむ。



「あぁ・・・。所感しょかんの報告はね、感想も大事なんだけれど、現場の、特に当事者が感じた事を聞きたいみたいでね。ほら、感応的影響で異なる把握や、それぞれ違う感覚があるかもっていうでしょ?」

「だぁぁぁ・・・」

デスクの前で突っ伏してるケイジが、イヤになっているみたいだけれど。


リプクマへ報告を上げる以上は、研究機関なので、そういう細かいところも明確にしっかり書いて欲しいんだろうけど。

感覚を言葉で説明するのはとっても難しい、というのは、特能力の研究にたずさわっている人たちみんなの共通理解だと思う。

他人の感覚を言語にして精確せいかくに伝えるということは、よほど技能として卓越たくえつしていないとできない事らしいから。


だから、後ろから近づいたミリアが、ケイジの書いてる報告書のモニタをのぞき込んでみる。


すぐ横のケイジが気づいて、びくっとおどろいて大袈裟おおげさに顔を離すけど。

ケイジの椅子の背もたれに、ちょっと体重を預けながら。


ふむ。

一応、最後までは、さっと目を通したけれど。


「・・なんか、本当に事件が起きたんだね」

「そうか、ミリア君は何があったのか知らなかったんだっけ」

そばのアミョさんに言われて。


「はい、あとでまとめたものに目を通そうかと、」

ミリアは、そのケイジのモニタを見つめたまま答えていた。

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