第22話
ベンチの上で・・、ケイジは背中をどっかりと預けて、そのベンチを揺らしつつ。
右手で持ち上げていた自分のカップを後ろへ見せるのは、その同じ背もたれを挟んで腰を預けていたミリアの、その視線の途中へ置きたかったからだ。
だから、カップを見せつけるように、ミリアのその顔の高さへ持ち上げて見せたのだ。
「・・・『カフェラテ』、」
と、少しこもった声だけど、微かに強い語気を含めたケイジのようだ。
ゆったりと間をおいたその言葉は、ミリアへたっぷりと見せつけるような素振りのようだ。
そしてケイジがにっと、その元々の目つきは悪く口端だけを持ち上げてたのも、なんかこう、ミリアからしたらこっちへ
それを、ちょっと瞬いたミリアは。
やっぱり、瞬いてた。
よくわからないけど。
ニヤリとして見せる、ケイジが自慢げな意味は、やっぱり、よくわかんない。
でもなんか、ケイジの気分が良さそうなので、まあいいか、って思った。
さっきまでのケイジは、こちらが声を掛けるまで一点を見ていたような、前だけを見ていて、こっちに気が付かなかったようで。
なにか、ぼうっとしてる、珍しく考え事でもしてたのかとも思えたけど。
別に、それがいけないというわけじゃないけど。
今のケイジはなんか、人をからかうような、よくわからない調子だけど、いつもの調子になってるみたいだ。
まあ、ミリアは、ケイジへ、肩を軽く
それをケイジは気にした風もなく、眉を上げるように『別に何でもない』って言う代わりのように前を向いてた。
それからミリアが横へ目を移せば、隣のリースはさっきから眠そうなに肩を丸くしてるのもすぐ目に入る。
ちょっと覗き込めば、リースはもうその目を閉じているみたいだった。
寝息も立てずに、寝てるような。
こういう仮眠状態になると、リースはいつもよりもっと大人しく静かになる。
いつもオフィスで部屋の片隅で見かけるのと同じ様子だし。
それからカパッとケイジが、そのカップの
そんなケイジがちょっと満足したようにため息を吐くまでも、コーヒーがちょっと香ってた気がする。
「おつかれ、やっと終わりそうだな、」
って、ガイが、こっちへちょっとぶらぶらと歩いて来てて。
「おつかれ、」
ミリアはガイに応えるけど。
ケイジは、ニっと笑ったガイの方をちらっと見ただけで、別に返事もしないみたいだ。
開いていたカップの
赤色に染められた夕暮れの光は自然でいて、まだ少し明るい。
「仲がいいよな、ほんと」
って、ガイはそんな軽口は冷やかしか呆れてるのか、やっぱり同じベンチの傍に立って、背中を見せるようにその端っこに軽く寄り掛かったように手を置いていた。
ふむ、ガイに仲が良いって言われたけど。
普通に話していただけだけどな、って。
・・ん-、ってなんとなく、ミリアが顔を上げれば、空は・・明るい青空だった空が、紫色と赤のグラディエーションへ溶け合うように続いていて。
まあ、いつもの調子だ、みんな。
ケイジ達が大人しすぎる気はしてたけど、単に疲れたのか、仕事に飽きているだけかもしれないし。
まあ、仕事中もずっとそうだっていうのが、良いのか、悪いのかだけど。
とりあえず、私たちは指示があるまで、待つだけだから。
これ以上に何も起きなければ、私たちはすぐ離脱の指示があるはずだ。
自分たちが集められた時と同じように、急に来るんだと思う。
たぶんEAUへ帰るんだろうけど。
元々、ここに来る前の現場では別の任務をやっていて、あの
ついさっきまで話していた『
私たちも同じだったら。
まあ、ちょっと
―――――・・・そういえば。
ふと思い出した。
ブルーレイクに行った時、通信で警備部のカルゴさんとなにか色々話して、交渉みたいな感じで、お土産渡すって言ってた気がするけど。
ちょっとお願いを聞いてもらおう、って感じだったっかな・・・?まあ、細かいところはちょっと忘れてるけど。
彼とはあれから全く一度も会ってないなぁ・・・って。
すっかり忘れてたのを、ふと思い出した。
結局、あの時はブルーレイクでお
うーん、お肉・・・。
・・普通に買うとしたら、高いんだよなきっと・・・絶対に輸入物だし。
この前も、為替の変動でああいう生ものが
出来合いの加工品とかの商品なら安いんだけど。
結局、結果的に私たちがブルーレイクに
・・まあ、最高の結果というわけでは無かったんだけど。
・・・死傷者とか出たし――――――
―――――――たぶん、その辺りで
彼とは、まさかここでバッタリ会うとは思わないけども。
彼はドーム外の領域、補外区の方の担当だし。
あんなことがあったから、私たちはパトロールは
・・ふむ、その時はなんか出来合いのお店のテイクアウトメニューとか、差し入れみたいな軽いものでも今度持っていこうかな。
彼も、忘れてるかもしれないし。
口約束だったしね。
・・・っふ。
って、ちょっと、自分でも思ってることと、不意に口が一緒にちょっと悪い感じで持ち上がったのがわかったけど。
――――――ちょっと、きょろっとしても、周りのガイたちには見られてなかったみたいだ。
ま、いいか。
今度会ったら、挨拶がてら話すときに。
ちょっとはブルーレイクのことを話してみようかな。
それから―――――――
「お前らは?」
って、ケイジの声がして。
「ん?」
気が付いてミリアは、・・ちょっとした考え事に左右に揺らしていた頭のままで、振り返ってたけど。
「何飲んでんだよ?」
って、ぶっきらぼうなケイジの質問は。
「俺はコーラ。」
ガイが手に持ってたカップを見せてて。
ミリアがさっき聞いた質問と同じみたいだった。
だからミリアも、カップをケイジへ。
「レモンティー、」
カップを差し出してみれば、なんか、ケイジの顔の前へ、得意げに見せてるような感じになってた気がした。
ぐいっとカップを前に突き出すのが、見ろって感じで。
ケイジの気持ちがちょっとわかったかもしれない、なんとなく。
「ん?そんなのあったか?」
そんなケイジの声だけど、ミリアもちょっと身体を起こして姿勢を変えて。
「うん?そうだけど?」
両手で背もたれに寄り掛かかり直して、ケイジたちと話しやすい姿勢にしてた。
ケイジが不思議そうだから、ミリアも不思議に思った。
「リース、それなんだ?」
わざわざリースへ声をかけるケイジが指差す。
「・・・え?」
まあ、熟睡されても良くないし、起こしていいのか。
だから、ミリアも。
「リース、起きてる?」
「・・起きてる・・・」
リースはまあ、その青い目をつむったりして、ちょっと開けたりして、ぼうっとしているようだけど。
「お前さっきアイスティーって言ってたか?これ、」
「・・ティー?」
「これレモン、『ティー』、」
ミリアが見せる、ちょっと得意げに、ついでにミリアの『ティー』の発音も強めで、そのカップにようやくリースが目を留めたようだ。
「・・レモンだね、」
瞬いたようなリースはやっぱり、寝ぼけてるのかもしれない、って感じだけど。
強調すべきなのは『レモン』の部分だったか、ってちょっと思ったミリアだけど、まあ伝わったのでよし。
「レモン?」
ケイジが
「でしょ?」
ミリアが今度はちょっと得意げにケイジへ。
「同じなのか?」
「そうだね、」
聞いてきたガイへ頷くミリアは、またカップの
「お前、アイスティーって言ってたろ」
ケイジが指さすリースは、寝ぼけ
「別にいいけどよ、」
そう言ってケイジは、別にいいらしい。
「ま、どっちでもいいんじゃない?」
ミリアもそう。
「いや、どっちかが味オンチだ、」
って、急にケイジが聞き捨てならない。
「いや、レモンでしょ?」
言って振り返るミリアへ。
「うん・・」
リースが頷く、みんなの視線を受けたからか、もう一度自分のカップに口を付けてちょっと
「リースが適当に言ってんじゃねぇのか?それかお前らが味オンチか。」
まあ、ケイジがしょうもない。
なんでケイジが
「レモン。」
ミリアが一言だけ言っておしまいの、別に付き合わないけど。
「レモン・・・・・」
って、味見したリースが途中で止まりかけるような、自分のカップに口を付けてから今は首を
はっきりしないリースも珍しいけど、というか、
「ほらな、」
なんかニヤっとする楽しそうなケイジだけど。
「はいはい、」
「なんだよ、」
ちょっと不満そうなケイジで。
正直、私はどっちでもいいんだけど。
「リースもレモン入ってるって言ってたでしょ、」
「リースが適当に言ってたらどうだよ?」
「なにそれ、」
ミリアは肩を竦めつつ。
「リース、」
って呼びかけて気づいたけど、リースなんかはもう、どうでも良さそうな聞いてなさそうで、
まあ、ケイジが『リースが適当』って言ったのも、
「どっちなんだよ、やっぱレモン入ってねぇんじゃねぇか?」
って、ケイジが勝ち
どうでもいいけど。
「んじゃ飲む?」
キリが無いので私が差し出したカップを。
「いやいい、」
反対側から手でぐっと押し返すケイジがなんか、言う割にはきっぱり断るし。
「えぇ・・?」
「・・・いらんっ、つってるだろ・・」
なんか、めいっぱい抵抗するケイジだ。
でも、力いっぱい抵抗したらカップを押しつぶしちゃうので、遠慮した力いっぱいなわけで。
「じゃ匂い、香りするから・・っ・・・、」
ミリアも慎重に力を入れながら抵抗するけれど、カップをケイジの鼻へ持っていきたいミリアの、空いてる左手は、無意識にわきわき動いてる。
「い・・いいっつってんだろ・・・」
でも、またなぜか抵抗するケイジだから、カップが
というか、ベンチの上に
ていうか、ケイジがちょっと香ればいいのに、別に、ちょっと顔を近づけて香りを確かめればレモンっぽいのはわかるのに。
「ちょっ、なんか、あぶない・・」
「おま、あぶねぇ・・っ・・」
カップを潰さないようにも、すごい気をつかう
ていうか、さっきからガイは面白そうにこっちを見てるだけみたいで、それを見たミリアがまたちょっと眉を曲げてたけど―――――
――――――――『やあ、チーム
って、耳元からの急な元気な無線通信の声、アミョさんからだ。
「ゎっ・・ぁ、はい、」
ちょっと
とりあえずカップはケイジに押し返されるままにミリアは引っ込めたけれど、ちょっとベンチにレモンティーを
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