第5話
「君へ、どこかの『お城からの招待状』みたいだ」
そう、アミョさんが少し悪戯っぽく笑っていた。
ミリアは、良い香りをさせる温かい紅茶を、ティーバッグを垂らした自分専用の白いマグカップを手に自分のデスクへ歩いて行って。
零さない様にゆっくりカップを置いてから、その縫いぐるみ『やわらかサボテン』黄色の花咲きVer、最近名付けた『ジョニー』を横に置き直してから座ると、目の前のコンソールを手早く操作してモニタにメッセージを映し出す。
その中から、アミョさんが言っていた『招待状』を探してみる。
「本部からのダイレクトボックス、」
とアミョさんが言うそのボックスは、直接に重要な指示や書類が届く場所なのだが。
『招待状』って、何かのお誘いかと思ったけど、実は何かやらかした報せなのかな、ってちょっと不安になってきたけど。
それならむしろ、ケイジやリースが関連してる可能性が高い気がするんだけれど。
別に問題を起こしたとも聞いてないし・・・。
ちょっとドキドキしつつ、アミョさんのヒントの場所に重要メッセージが1つ届いているのを見つけた。
それは『特別演習会への案内』というタイトルのメッセージだった。
なるほど、携帯でチェックした時は見落としたか、事務的そうな名前なので中を見ずに済ませたかもしれない。
『
特別演習会及びミーティングへのお知らせ
Class - A所属、ファミリア・C殿。
先日行われた特別合同訓練のご参加、感謝いたします。
貴殿と、共に参加された大勢が有意義な時間を過ごせたことでしょう。
』
文面を少し飛ばして目を通すミリアは、それから、そのメッセージに添付された書類ファイルがあったこと、そのタイトルが『特別演習会及びミーティングへのお知らせ』というのにも気づいた。
「これって・・」
瞬くようなミリアが、アミョさんの方を見る。
「なんだか大きい事をまたやるらしくてね、」
って、わざとらしく肩を竦める様なアミョさんで。
ミリアは、モニタを振り返って添付ファイルの中を確認し始める。
「なんだよ?」
面白そうな事に飢えてるケイジが起き上がってて、ガイも傍に覗きにやってくる。
そんな彼らへ、アミョさんは笑っていた。
「最近、実用の目途が立ったんだ。」
「新型シミュレータ訓練施設への招待状みたい」
と、軽く目を通したミリアがモニタを見つめながら説明していた。
「ああ、例の・・」
傍でガイも、文面に目を流しながら、そう心当たりがあるようだ。
ミリアも『それ』の噂を聞いたことがある。
確か、ガイや友達からだったか、以前から噂程度に、EAUの戦術訓練がテコ入れされるとか、本腰を入れるとか。
その流れで、新しい形の訓練シミュレータを採用するという話を聞いた。
それは単なる噂だったけど、実際にそれに向けていろいろと動いていたとは、リプクマの研究者の人たちの言葉の端に聞いたこともある。
「完成したんですか?」
「うん、少なくとも隊員たちに募集をかける程度には仕上がったみたいだね。といっても、僕も関わってない部分なんでよくはわからないけど、」
「それで、これって招待状ですか?案内状みたいですけど、」
「ん?あれ、そうだった?文面見ても?」
「どうぞ、」
と、覗き込んでくるアミョさんで。
「・・誰に『招待』って?」
誰に聞いたのか、ミリアはアミョさんの横顔に聞いてみたけれど。
「ん?秘密さ、」
なんか怪しいけど、秘密らしい。
まあ、悪だくみするような人じゃないだろうし、研究者仲間も多いだろうし、『そういう
「はっきりとは書いてないが、名指しで来てるからね。そうとも読み取れる。いや、そうとしか読み取れないよ。」
って、言い張るアミョさんはやっぱり怪しいな、とミリアは思いつつ。
「ふーん・・?そうですか・・」
そういうものなのかも、とミリアはちょっと鼻を鳴らしてたけど。
「ほら、個人で、もしくはチームでぜひ、と書かれてる」
まあ確かに文面にはそういう意図も多いみたいだけど、どっちかというと勧誘とかお誘い・・・まあ、それも招待と同じか。
「なんでミリアだけになんだよ」
って、ケイジがなんだか、ちょっと不満そうだったけど。
「隊長だからだろ?チームに向けて、」
「この前の合同トレーニングでの評価も鑑みているらしいよ」
ガイとアミョさんが言う理由も、もっともだと思うミリアだ。
「ケイジ達サボったしね?」
ちらっとケイジを見るミリアは。
「なるほどなー」
一気に興味が失せたようなケイジがテレビを付け始めてたけど。
「それ以前のトレーニングとかだって評価材料でしょ」
って、更にミリアが言うのを。
「そういえばお前ら来なかったもんな。」
ガイが合同トレーニングの時の事を思い出したみたいだ。
「それよか、なんでミリアなんだよ?名指しだったじゃんかよ。」
って、ケイジが少し考えた末のような、でもやっぱり、こっちへ文句言う事にしたらしかった。
でも、確かにそうだ、そんなに活躍したとは思っていないし、評価されるようなこともしてなかったような。
射撃場で良い点を取ってた気はするけれど、それだけで評価されるものなのか・・・?
「名指しってことなら、この前の訓練でも評価した人たちがいたってことだろうね。」
って、アミョさんは、苦笑いでケイジの不満へ返していた。
ミリアはちょっと、アミョさんのそんな顔を見てたけど。
評価してくれた人がいた、か。
まあ、EAUに入ってから訓練や仕事のノルマに、学習時間などいろいろあるけど、それら全ては評価対象だと思ってはいる。
別に、評価されるためだけでいろいろやってるわけじゃないし、自分のためになりそうな事をやっているんだけれど。
それを評価されて褒められるのなら、悪い気はしない。
それに、前回の合同訓練でもいろいろあったけど、規模が大きかったり、・・・終わりに話しかけてきたあの人、Class - Aのアイフェリアさんとか、他にもそれらしい人たちが視察のようにいて。
もしかして、彼女たちが評価に加わっていたのなら。
ふむ。
やっぱり、あれは特別な訓練だったのかもしれない。
「メッセージに名前とか書いてねぇのかよ、」
ケイジにそう言われたけど。
「こういうのは守秘義務とかありそう」
ミリアがさっき確認した限りでは名前などはなく、事務的なメッセージなので送り主も総務部からになっている。
まあ、そんな特別な訓練をケイジとリースは堂々とサボったわけで。
それでもケイジ達の評価以外でこの案内が来たのかもしれないのは、基準がよくわからないけれど。
だって普通、チームを評価するなら4人全員の総合だったりだし。
「実は、このシミュレータの話は聞いていてね。」
って、やっぱりアミョさんは何か知ってるみたいだ。
「まだ詳しい事は言えないけど。僕が知ってる情報では、規模はかなり大きくて。この前の合同トレーニングも参考にしているらしくて、それを
「まためんどそうだ」
って、ケイジが横やりを入れてるけど。
この前の訓練の話をしてあげた時も、そんな感じの態度してたし。
「前回参加した人たちにも優先的に通達はいっているはずだよ。だけど、目ぼしい人たちには案内を送っているみたいでね。全員ではないんだろうけどね。」
「あの規模でやるんですか?」
「どうだろうね。視野には入れてるかも」
「へぇ、それは凄いな・・」
「凄い人数になりますよ、演習って、」
ミリアもガイも、素直に感嘆の声を上げていたけれど。
「まあ本当の所だと、参加したいならけっこう間口は広く募集しているみたいなんだけれど。」
「なんだ、」
「はっはぁ、特別とかってんじゃないんだな、騙されるところだったぜ」
って、素直なケイジが肩を竦めてたけど。
「定員になったら君らは優先くらいはしてくれるんじゃないかな?ぜひ来てくれってことだろうからね。その招待状の意味は、」
って、アミョさんはまだ『招待状』って言い張るみたいだった。
「それで、返事はどうしようか。ミリア君は行くのかな?」
訊ねられて、ミリアは、ちょっと瞬いたけれど。
「みんなも連れて行っていいんですよね?チームとして、」
「ああ。僕はついて行くよ。オペレーターとしての仕事もあるしね」
「ガイたちは・・・」
ピピ、ピ、ッピピ、ッピ・・・―――――と、室内に鳴り始めた呼び出し音に気が付いて、ミリアも室内へ振り返った。
「おっと、お仕事の呼び出しだ。えっと・・
呼び出し音を消したアミョさんがモニタを見ながらチェックする。
『了解、』
それを聞きながら立ち上がるミリアとガイも。
ケイジやリースたちはまだソファで、眠そうな顔でだらだらしているが、起きようとはしてるらしく。
「
「気を付ける?って現場は危険なんですか?」
「いや、そんな連絡は無いが、現場だしね。充分に注意して、あとは市民の皆さんへの態度も含めてね、」
って、アミョさんがみんなへ聞こえるように言っていたのは含みもありそうだ。
とりあえず頷いて納得するミリアは。
「ケイジっ、」
ミリアはびしっと、いっつも一番危ないケイジへ指差しておいた。
「シャキっとするっ」
「俺かよ、」
強い声を飛ばされて不満そうなケイジを置いて、ミリアは仕切り壁のハンガーに掛けてたジャケットを取り羽織って扉へ向かう、ガイもリースもその辺は手早くて付いてくる――――――
――――先に立つリースの眠そうな横顔に、眉を顰めながらもケイジは、部屋を出て行く3人を追って、小走りで翻したジャケットへ袖を通す。
『
各組織によってはちょっとだけ呼び方が変わったりもするけど、やる事は大体同じような内容だ、と聞いてる。
『
原則的にそれらの関係は法令化されており、EAUやリプクマなどを含めた発現研究に携わる組織が、未知の発現現象への深い理解、その解析ノウハウなどを持っているからだ。
特に、特務協戦であるEAUなどでは警備部などへの協力が義務ということもあり、一定被害の事件が起きた時には『
それは、警備部の事件捜査のステップに『
ミリアはその車両の揺れない座席上で、ノートのモニタを見ていた顔を上げた。
弱レベルのサイレンを鳴らして街中の道路を走ってきたチームの愛機、小型軽装甲車の『ラクレナイ』が減速して。
路傍へ停車した『ラクレナイ』からミリアが扉を開けて降りた時は、事件が起きた大通りに面した商店の1つ、既に警備部の人たちが複数人集まっていた現場で、最低限の距離と範囲内での保存作業と捜査に入っているようだった。
その路地裏へ続く横道などが少し汚い印象の、そこはありふれた街の景色の一角であって、警備部の人が関係者から詳しい事情を立ち話で聞いたりしているようだ。
ミリアが道中の車内で読んだ経過報告書によると、まあ、些細な事件だったらしい。
『
街の一角の商店で誰かが暴れてケンカ騒ぎになったのだが、関係者数人が既に逃亡したらしい。
残されたのは少し棚が崩された商店の被害だけ。
』
周囲への影響は、現場保存のために一時侵入禁止域表示のビーコンたちを立てられていて、街の景色が少し変わっている、というぐらいみたいだ。
暴力事件と言っても
その次の捜査ステップとして、リプクマから来た調査チームによる
「派手にやったみたいだな、」
軽装甲車『ラクレナイ』の傍で、ガイが感心したように見渡していて。
「そうね。」
ミリアも辺りを見回しながら答えていた。
そうして、リプクマから既に先に来ていたAP調査チームの車両と姿を確認したミリアは、その事件現場の様子に目を移しながら歩き出す・・、その前に。
ふと肩越しに振り返って、傍の彼らへ目をやれば、リースも車の傍に静かに立っているが、まあ、ケイジなんかは車に寄り掛かったまま欠伸をしていて。
視界の端に入った相変わらずやる気のない彼らの姿に、ミリアはまた少し、肩の力がちょっと抜けたように嘆息していた。
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