第3話
「まあ、お前はリースに栄養管理任せた方がいいよな」
って、同じテーブルで食べてるガイが、野菜ミルク嫌いのケイジへ言ってた。
ミリアはチキンステーキを口に運んで、頬を膨らませてたが。
「お前のそれうまそうだな」
ケイジがミリアへ、チキンを狙うような目線を向けてて。
「朝からよく食えるよ・・」
ガイはちょっと口端を持ち上げながら、感心してるように2人へ言ってた。
「腹減ってねぇのかよ?」
ケイジは不思議そうで。
「そういう問題じゃあない」
「はぁん?」
ケイジとミリアが顔を見合わせて、またガイを見るのは、2人ともガイの言っている意味が分からない、とでも言いたげだ。
「朝はあんま腹に入れられないんだ」
「じゃあ、これ飲め、」
って、声が弾んだケイジから、処理に困ってただけの野菜ジュースをもらったガイは苦笑い気に受け取っていた。
「口付けてないよな?」
「おう、」
「リースは今日は特に少ないな。それだけでいいのか?」
野菜ミルクに口を付ける前にガイが、隣で眠たそうなリースの、その前に置かれてるお皿を目の端に入れてたが。
数種の野菜サラダのブロッククッキーに、栄養素バランス練り込みのミニパン、それから水、という軽食も軽食なメニューだ。
「栄養は足りてるから・・」
「ん、ちゃんと食べないとダメだよ、」
食べ物を飲み込んだばかりのミリアもそう言ってる。
「あと味気なくないかと思ってな。栄養なら他にもメニューあるだろ?」
「朝からステーキは無理・・」
「まあ、さすがにそれは俺もな、」
って、リースに同意するガイは笑いつつ、ミリアたちが食欲
ケイジが頬を膨らませてサンドイッチを咀嚼していて。
その視線の先では、卓上で立つ携帯の画面に相変わらずハイテンションに騒いでいる見た目がインパクト強い男『ハごペンが』が、小さな音声で喋っているのだが。
「で、それ面白いのか?」
ガイの質問には。
「よふわふぁんえ、」
ケイジは肩を竦めたようにして、そのまま画面をすぱっと切ってフォークを持って本格的にハンバーグを食べ始めていた。
「そもそも誰だったんだそいつ?」
「んん?はが、はぐご?」
ガイが聞いてもケイジはもうパクついてて、美味しい食事に夢中だ。
飲み込むか、腹を満たすまでは待つか、とガイが眺めている。
そんなケイジの横に並んで、さっきからミリアも元気にもっぐもっぐ美味しそうに食べているわけで。
一見すれば仲良しだな、とガイはちょっと生暖かい微笑みを向けた―――――ミリアとケイジが何かに感づいたのか、ぴくっと止まってガイの眼差しを見つめ返してたけれど。
―――――まるで光の明るく白い、清廉な部屋。
・・真っ白ではないんだけれど。
なんだか友人のインテリアのお洒落な家に来て、持て成されているような。
日の光が入るような灯りと、ライトグレーのフローリングの広い部屋で。
―――――フラッシュバックするとか、そういうんじゃないんです。」
ミリアはそう、彼女に伝える。
「ただ・・、」
深く、考える。
自分が感じたことを。
感じていることを・・・?
少しの間、思慮を深くする私が少し背中を預けられるように、このふかっとする大きなソファは、全身を包み込んでくれる。
・・・どこを眺めていても落ち着く、穏やかな部屋は。
柔らかに間接的に日が入るような大きな窓に、そこから覗ける中庭の観葉植物の景色は近くて。
ふらっと立ち上がって、傍で、ただぼうっと見てることも気持ちよさそうだ・・・、暖かい日の光の中で。
それに、室内にも小さなテーブルの上には緑色の観葉植物の鉢が置かれていて、日の光に自然の色遣いが透き通るような明るい緑を返している。
目立たないけど、小さなサボテンの鉢も、お洒落な棚に飾られてるし。
ちょっと面白そうなインテリアが置かれている部屋には、小瓶とか、少しアナログな木の香りが、この部屋の柔らかい良い香りに混ざってそうだった――――――
―――――何気なく、そんな景色に目が惹かれていた・・。
それから・・また少し、言葉を紡ぐ・・・。
「こうしとけばよかった、ああしとけば、って、ふと、思うんです・・なんか、・・・・別に、他にやり様は無かったと思うのに・・・。」
「なるほどね。」
話を聞く彼女は、静かに優しく頷いていた。
「・・もし、もしね。その感情に名前を付けるなら、それは何て言う感情かな・・?」
「・・・・」
その質問に、またミリアは少し・・考えてみている・・・。
息を少しだけ深めに吐くように・・・視線は自然と、また向こうの明るい方へ向く・・・。
・・・考えても・・。
「単純な言葉よ。簡単な言葉遊び。もし名前を付けるなら、その感情はなんなんだろう?これはね、例えばだけど・・子供がね、自然と、純粋に、初めて見たものを不思議だな、なんだろうって思うのと同じ質問だから、」
「・・・・」
―――――それは・・・なんだろう・・?
―――――――私たちは、あの辺境の村のブルーレイクで過ごした時を、まだ鮮明に覚えている。
明るいときの村も、暗い夢を見ていたときのような村も。
彼らの顔も、熱も、体温も、息遣いも、交わした言葉も、笑顔も・・私たちに向けていた笑顔も、よく覚えている。
「あなたが感じている事が全部、正しい、」
――――――・・・あのときの、私たちは、本当に、みんなよくやったと思う。
―――でもそれは、ベストを尽くしたとか、そういうものじゃない・・・。
なにかの・・。
「名前を付けにくいみたいね?・・でも、それは、後悔ともちょっと違うみたいね。」
・・それは・・・『後悔』・・・じゃないと思う。
なんか、ちょっと違う気がするから・・・、違うかもしれない。
「・・はい。」
私は・・・。
「あなたは可能性を感じているとか・・?」
可能性・・・。
ミリアは彼女を見上げていた。
――――――まだ、私は。
「・・はい・・」
――――あの時の可能性を考えている・・・。
「それは、『最善』を探していたから・・・?」
―――それは、常に最善を・・願う・・・。
当然の、作業で・・・。
最善・・・・。
・・最善とはなにか・・・?
『最善とは、理想でしかない、ウソだとわかっていても、輝く希望の言葉だ』って・・・誰かの言葉、本で見た気がする・・・。
でも・・・。
「追い求めないわけにはいかないものね。」
・・・目の前に座る、カナ・リファラ医師は、私へ、少し微笑んだ。
「私にも昔、そういう知り合いがいたよ。
まあ、彼はベテランの戦闘員だったんだけどね。そういう仕事との付き合い方はわかってたみたい。
深く考えすぎないのが『最善』だ、って言ってたな。
月並みだけどな、ってちょっと照れてた。」
って、彼女はちょっと微笑んでた。
『彼』が言ったのはきっと、『思考のブレーキ』・・その重要さは私も知っている。
それが難しいのは、『どこに線を引いて、どこでブレーキをかけるかだ』・・・って。
リファラさんも、そう思うみたいだ・・・。
うん。
「あら、そろそろ時間ね。さて、今からは医療者として話すけれど、貴女はまだ少し精神的な疲労を感じているのかもね。
身体と心のバランスが崩れる事はある。
それを、自分から整えようと思うのが大切なのね。
コントロールが上手な人はいるけれど、それはそれらがちゃんとできている人のこと。
ゆっくり体も心も休ませて、私は今ちゃんと休んでるってじっくり感じるのがとても良いの。
そうしてれば自然と心は軽くなるから、空いている時間は楽しい事をやりましょう。」
「空いてる時間が無いってことは無いよね?」
「はい。ちゃんと休む時間は取ってます・・」
「うん。よろしいです。
それで、欲しいという人には、
「いえ、」
「じゃあ軽めのものを出しておきましょう。
使わなくても良いけど、なんだか寝付けないなとか、ちょっと集中できてないな、っていうときに飲んでね。
ハーブの香りのお守りみたいな感じ。
軽いものだから、一息つきたい時にね。
これは心を休ませるきっかけ作り。
もしくは、風邪の予防薬みたいなものって言う人もいるかな。
飴になってるの。
おいしいの。」
って、リファラさんはちょっと悪戯っぽく笑ってた。
「はい、」
「うん。それじゃ、また次回時間をもらって会いましょうか」
「はい、ありがとうございました。」
「こちらこそ。可愛い友達ができたみたいね。来週あたりにもう一度会いましょうか。またお話ししましょう。違う種類の紅茶も用意しとく。」
「はい。」
ミリアは頷き、椅子から立ち上がって。
「それ以外でも、私が役立ちそうなことがあったら連絡をちょうだいね。いつでも」
「はい、ありがとうございました。」
ミリアは立ち上がる彼女に正面でお礼を言って、微笑みで見送る彼女のとても穏やかなオフィスから、扉を開けて出て行った。
ふと、ミリアがその部屋から出てきた時に、そこのベンチで1人だけでいたガイは携帯をいじっていた。
ミリアはとりあえず、そのロビーのベンチで待っててくれていたようなガイの傍へ歩いて行った。
「ガイ、」
「ぉ・・、よう、」
携帯をポケットに入れ、立ち上がったガイに。
「そっちは早かったの?」
「ん-、同じくらいだな、」
ガイはちょっと口端を上げて見せて、それから踵を返すので、ミリアも隣並んで歩き出す。
2人並んで、リプクマの病院の清潔で綺麗で、最近ようやく慣れてきた施設内を歩きながらだ。
「昼飯はどうする?」
「ん-、買っていこうかな?」
「じゃああっちか、」
人の多いロビーの方へ、私たちはちょっと進路を変えてた。
お店で簡単に食べれるものを買うか、テイクアウトできるものが良いだろうな、ってミリアは思いつつ。
昼時だし、そのまま食べてからオフィスへ戻っても良いかも。
「ガイは先に終わったなら、戻ってても良かったけど、」
「副長として、隊長のお供をするのは当然、」
「ふぅん?・・本当は?」
「1人で戻っても暇だろうからな」
「オフィスの仕事あるでしょ」
「隊長がいなけりゃ始まらないよ」
「それ、持ち上げてるつもり?」
って、ちょっと胸を張るミリアに、ガイがちょっと笑ってた。
「まあ、でも俺はそろそろここへは来なくても良くなりそうだ。」
ガイはそう、カウンセラーの人に言われたのかもしれない。
ミリアも同じくEAU内の規定の受診義務の期間は過ぎたので、あとは担当医の判断をパスすれば終わりなんだけれど。
「そっか。私はまた来週来るって話したかな、」
「そか。俺も来週はある。」
って、ガイは。
そういえば、ケイジやリースも義務なので、ちゃんと別日で行ってるはずだけど。
ちゃんと話を聞いたことないから、後でちょっと聞いてみようかな。
「でも、実際、ここに来なけりゃ、あんな戦場を忘れられるんだけどな、」
って、ガイは。
「俺は・・まだ直接撃ち合ったわけじゃないから。」
「そうでもないでしょ。」
「・・まあな。そこにいるだけで緊張がヤバかったな。」
そう思い出すように、ガイも。
あのとき、同じ状況の戦場に居たのだ。
――――あの時の・・・暗闇の中で・・。
「・・どうした?」
ガイがそう、私へ。
――――こんな、ふとした話題が出るのなら。
やっぱりカウンセリングには効果がある、って私はちょっと言いたかったのかもしれない。
「ううん、なんでも。」
何も言わなかったけれど。
その話をするときには、最近、少し胸の辺りに何か感じる様な気がする・・それは、やっぱり気の所為じゃないような気がしていた。
同じ時間にカウンセリングを受けているガイが、どんな話を担当医の人としているのか、ちょっとくらいは気になるけど。
そういうのはプライベートに当たるので、ズケズケと聞くのも良くないだろう。
それに、あそこの空間で話していることはなんだか、まるで夢の中の出来事みたいで。
私だって、今みたいに歩きながらガイ相手にでも話せる気は全然しない。
だから、まあ。
うん、と。
少し無言で歩いていた、私たちは。
一番近い商業区画のある方へ歩いて行っていた。
――――――リプクマに繋がる複数あるエントランスから出て広がる光景、行き交う人々が多くなるその場所で、見上げれば吹き抜けになって2階も3階も見えるショッピングモールには、綺麗な小物屋やスーパーや、アパレル系とか、いろいろなお店が並んでいる。
「で、何を食う?」
って、ガイに聞かれたミリアは、ちょっと考えてから。
「ハンバーガーかな。」
「いいね。なんかカウンセリングを受けると、がっつり食いたくなるんだよな。よし、あそこでいいか?『モンズ・キッチン』、肉厚で量が喰える。」
ガイがそんな風に張り切るから、ミリアもちょっと笑って、先を
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