デート⑤
いやぁ……とても楽しい外出でした。あの後はせっかくなので早めの夕食を共にし、今は満腹の多幸感に満ちています。夏休みにふさわしい外出を行えたと思われます。
そして今は午前中のやり遺しを果たすため、教会に向かっています。具体的な連絡を取ったわけではありませんが、流石にシスターも帰っていおられるでしょうから。
「……シスター、いらっしゃいますか?」
「どうぞ、入りなさい」
許可を得て、教会の中に入ります。
そこにはブロンドの髪色をした、とても美人な方がおられました。目には憎しみを宿した……そう、琥珀さんと共同夢で過ごす前の私の目にそっくりな目。
「久しぶりですね、メグ。かなり成長したようで、私も安心しました」
成長、ですか? 身長の伸びは止まってしまい、肉体的には成長したと思えません。ということは精神的な面ですね。
……確かに、シスターのご指摘通り、成長したのかもしれません。琥珀さんと出会ったことで、過去のトラウマに縛り付けられた私を少しでも開放することができ、男性に対する恐怖心を弱めることに成功したのですから。
「シスター、今日はそのことについて相談、いえ宣言をしたくて参りました」
「さて、どういった内容なので?」
一呼吸置いて、シスターの目をしっかりと向いて話します。
「私は、素晴らしい出会いを果たしました。それは男性に対する恐怖心を、優しく包み込んで……私を前に進める勇気を与えてくれた方です」
「……そう、なのですね」
シスター……彼女は、私に男性についての恐ろしい知識を与えた方です。男は皆ケダモノであり、気を許してはならないのだと。
今となっては、それが全て正しいのではないと知りました。しかし私を少なくとも騙していたことについて、責める気など到底ありません。それはきっと……過去に男性に関しての事件に巻き込まれてしまった自身と私を重ね合わせ、私の身を案じてくれたからこその想いがあったのでしょうから。
「シスターに責任を求めたりなどいたしません。ただ。今日は私の宣言を聞いていただきたいのです。……恋する男性が、他の女性に取られた後でも、その人をお慕い続けるということを」
恋する男性というワードを耳にした途端、シスターは驚きに顔を染めました。それもそのはず、少し前までは男性が近づくことすら嫌悪していた女性が、まさか恋するとは思えなかったはずでしょうから。
しかし落胆することも、止めるように勧めることもなく、シスターは笑みを浮かべ続けるままでした。静寂の後、シスターがゆっくりと口を開きます。
「……メグ、私は貴方にあれ以上傷ついてほしくなかったからこそ、男性に対する過剰な知識を与えてしまいました。しかし貴方はそのことを責めないというのですね。まずはそのことについて、感謝を」
その目は、まるで巣から旅立つ娘を思うような母性が感じられます。
「そして、そんな貴方を恋させるほどの人に出会えたことを、私も喜ばしく思います。私と貴方は違う……私は徹底的に男性を拒絶するという道を選びましたが、貴方は苦しみながらも前へ進み続ける道を選んだのですね。その勇気に、称賛を」
その目には変わらず、男性に対する憎しみを感じます。それでも私が想う人に対しての憎悪は、感じられませんでした。
「そして……その想い人に選ばれなくとも、その彼を慕い続けるのですね?」
「はい。今日で確信しました……いつまで経っても、私は彼のことが好きなのだと」
「……それはとても辛い道でしょう。それでも歩み続けるのですね?」
「はい」
「その先に破滅が待っていたとしても?」
「はい」
「想い人が、この先も貴方に恋心を寄せることが無くとも?」
「はい」
「……」
シスターは瞠目し、腕を前に組んで祈ります。
「……メグ、貴方のこれからに、祝福があらんことを」
その言葉を聞いた途端、ふっと体の重みが消えたような気がします。
この場この時をもって……私は男性からの嫌悪を脱することが出来たのでしょうか。主観的にしか見られないことですので、確信は得られていませんが……ならば私は、変われたのだということを望みます。
……ありがとうございます、琥珀さん、朱李さん――
◆
次回、最終回です
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